夏祭りに向けて
「そういえば今日は夏祭りだとか」
波乱の夏休みも終盤に差し掛かる頃に大体夏祭りは開かれる。
家の近くにある比較的大きな神社で毎年開催される。
「四人で行ったことはあるのかしら?」
「いえ、それぞれの予定が合わなかったものですから」
言われてみれば、四人で夏祭りに出掛けた記憶はない。
もっと言えば、四人でどこか外に遊びに行ったりした記憶もない。
「凛華は夏祭りに行きたい?」
「特に興味はないです」
「歩歌は?」
「めんどくさい」
「風珠葉は?」
「わたしも今年はパスかな」
何この無気力姉妹?
「兄様は?」
「行かない」
当然俺も行かない。
というか祭り自体最後に行ったのは小学校六年生の頃だった気がする。
懐かしい。
信じられないかもしれないが、小学校六年生のときは俺も一応陽キャの部類に入っていた。
小学校の陽キャなんてたかが知れていると思われるかもしれないが、とりあえず友達と公園や家で遊ぶキャラだと認識してくれればいい。
夏祭りなんて陽キャ小学生の為のイベントで、屋台で遊んだり、浴衣を着て踊ったり、太鼓をたたいたりもした。
今にして思えば、よくあのときの俺はあんな堂々と人前に立つことができたなと素直に感心する。
ちなみに今だと絶対にできません。
「では、今年は兄妹そろっていきましょう」
「...はい?」
「...は?」
「...え」
「...ん?」
いや、今の返答聞いていました?
全員が行きたくないと答えたと思うんですけれど...
「ではさっそく準備しましょう。大丈夫、全員分の浴衣は持ってきているわ」
ゆ、浴衣...//
以前ネットで発見したAIに描かせた、浴衣を着ている女子に電気アンマーされている絵を思い出した。
「あ、当然だけれども、祭りに行くのも浴衣を着るのわたくしからの命令よ?」
「「「「......」」」」
そう言われると全員押し黙るしかない。
「では、夕方ごろになったらわたくしの部屋へ来なさい。そこでそれぞれ浴衣に着替えてもらうわ」
そう言い残し、颯那は自分の部屋に向かっていった。
「「「「......」」」」
残された俺たちは、沈黙しながらも全員が"え?ホントに行くの?"と言いたげな顔をしている。
「え、ホントに行くの?」
顔だけではなく、声に漏らしたのは歩歌だった。
「...姉様がああ言った以上、行かないわけにもいかないだろう」
「何それ?アンタ完全に颯那姉さんの言いなりじゃん」
「仕方ないだろう。無謀には向かってどうにかなる相手じゃない」
まるで政敵についての話し合いみたいだな。
「...あたし、浴衣なんて着たくないんだけど」
「わたしも、なんかちょっとこの年で恥ずかしいよね」
いや、風珠葉は見た目が幼すぎるから全然いけると思うぞ。
「アンタなんか、余計まな板なのが目立ちそうじゃない」
おいおいおい。
こんなときに地雷踏むのはよしてくれよ。
「...お前はいつまでそんなくだらないことで私にマウントとるつもりだ?もっと人間として重要な部分で私と勝負しろ」
「何言ってんの?女にとって胸は最も重要な武器でしょ」
「その重要な武器を清人は気にしないと言っていたが」
「は?ちょっと兄さんそれホント!?」
言ってません。
言ってはないが...俺としてもあんま胸は意識しないな。
いや、だって胸で俺のドM心をどう刺激するんだ?
俺としては胸よりも足の方が重要だ。
「まぁ俺としては胸が全てじゃないと思うけど...」
「そういう綺麗ごといいから。現にアンタのセフレ胸が大きいじゃない」
桐乃さんのことか。
まぁ桐乃さんの場合は胸というよりスタイルが良すぎるところがポイントだな。 (もちろん胸が大きいのも一つの魅力」
「...ごめん、そういえばもうあんな暴力女とは関係解消したのよね」
いやしてないけどね!?
ましてやセフレでもない。
「...歩歌、清人の前でその女の名を出すのはよせ。またトラウマが蘇ったらどう責任取るんだ?」
なんか桐乃さんがまた一段と凄い扱いをされている。
「「「「......」」」」
なんで桐乃さんの名前出すとこう気まずい雰囲気になるんだ?
「とりあえず、姉様に言われた通り夕方ごろまでは各々の部屋で待機することにしよう」
凛華のその言葉でその場は解散となり、俺はまた一人寂しく自室に引きこもるのだった。
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