百合DV

「...さっきの言葉、撤回してくれるよね?」


桐乃さんが菊島さんにそうお願い (脅迫)する。


「私は...こいつが桐乃ちゃんに」


「だ・か・ら!!」


桐乃さんは菊島さんの体を持ち上げ"ら!!"の部分で書斎に背中を叩きつける。

...頭からいかなかったのは前回の俺の件があったからだろう。


「がぁっ!?」


それでも痛いことには変わりない。

もう少し強く叩きつけたら血を吐きそうな気がする。


「"こいつ"じゃないよね。ちゃんと名前で言って」


「ぬ、ぬれがみ...」


DVモードの桐乃さんに屈し、やっと俺のことを苗字で呼ぶ菊島さん。


「苗字じゃなくて名前で言ってほしいな~~。ってことで」


「ちょ、ちょっと桐乃さん、やり過ぎだって」


もう一回どこかにぶつけようとする雰囲気だったため、後ろから桐乃さんの体を抑える。

...俺が後ろ側からやってもあんまし俺のドM心はくすぐられないんだよな~


「......」


桐乃さんの首が俺の方を向く。

うん、だから怖いって。

海外のホラー映像に出てくる呪われた勝手に首が動く人形かっての。


少しの間、無表情で俺のことを見つめた桐乃さんだったが


「清人君がそう言うのならもうしないよ」


と言って、いつもの微笑む姿になった。


...俺にはもう少しDVモードでいてくれてもいいのに...


しかし、そんな俺たち二人の様子に今度は菊島さんが過剰反応を起こしてしまい


「桐乃ちゃんに触れるな!」


と、またもや俺めがけてこちらに突進してくる。


だが、こちらに向かって来たのと同時に桐乃さんの華麗な蹴りが見事命中し、後ろの壁に激突する。


てかこの寝室の壁丈夫すぎひん?

俺の部屋の壁だったら、今の完全にヒビが入っているぞ。


「ちょっと落ち着こうね、佳林ちゃん」


いや、桐乃さんが言えたセリフではないが...


「あが...が」


て、まずいまずい!

あれ、吐くパターンじゃないか!?


「ちょ、ちょっと、菊島さんをトイレに運んでくる!」


俺は菊島さんの体を持ち、三階にあるトイレに運ぶ。


やはりこの家のトイレも一流だ。


トイレ本体と洗面所があるだけなのに、こんなスペースがあるのだから。


「で...で」


トイレまで運ぶと、何やら菊島さんが小さなか声で言葉を発している。


「え?なに?」


「で、でて..い...て」


あ、そう言うことか。


俺はそれ以上は何も言わずにトイレから退出する。


...つくづくこのトイレにも防音対策がなされていることに感謝した。


しばらく時間を空けてからもう一度中に入る。


「はぁ、ふぅー」


まだ菊島さんは気分が安定しないのか、息を吸ったり吐いたりしている。


「...平気?」


「...一応は。中のものは全部出したから気持ち悪さは取り除けたわ」


この子って、表現に遠慮がないよな。


「一人で帰れそうか?」


「私がこのまま大人しくあんたと桐乃が生々しく肉体関係を結ぶところを見逃すと思う?」


「一応まだ結んでいないていで話してくれてるんだな」


できれば、桐乃さんの方から襲ってくる形の肉体関係がいいな。


「どこから見ていた?」


「さっき言ったでしょ。あんたがこの家に入ってくるところから全てよ」


ってことは昼からずっとあの庭に潜んでいたということ?

...ホントにどれだけ暇人なんだよ。


いや、そういう問題じゃなくて、普通に犯罪だろ。


「もしかして...俺と桐乃さんの入浴タイムも」


「当たり前でしょ」


確かあのお風呂には大きな窓があった。

あそこからのぞいていたってこと!?


これ、もし性別が違っていたらもう社会的に抹殺されているだろ。


「...今日はもう帰るわ」


「え?帰るの?」


おいおいいいのか~い?

このままだと俺が桐乃さんに襲われちまうぞ?


「さすがにあそこまでされて、このままいつ続けるほど肝が据わっているわけじゃないわ」


...やっぱり菊島さんは百合ヤンデレではないようだ。


「それに...あんな桐乃...初めて見たし」


一瞬菊島さんの目が泳いた。


菊島さんはDVモードの桐乃さんを見るのは初めてらしい。

そらりゃ、今まで仲の良かった親友があんなDVするなんて知ったら興奮...じゃなくて、ショックを受けるよな。


菊島さんが立ち上がり、ドアの方へと向かう。


「送っていこうか?」


「必要ないわよ」


玄関の位置まで分かるのか?

あ、でも、今までの二人の仲からして、多分桐乃さんの家に遊びに来たの、これが初めてではなさそうだな。


と、最後にもう一度こちらを振り向く。


「いい、私が帰るからって桐乃と肉体関係を結ぼうとか考えるんじゃないわよ。もし、それが発覚したら、ネットでホモの男を何人か雇って、あんたを襲わせるから」


ひええええええーーーーー!!!!


ホモは絶対嫌だぁぁぁ!!!!


ホモじゃなくて桐乃さんに掘られたいーーーーーー!!!!


そう心の中で叫んでいると、菊島さんは階段を降りて行った。


俺も寝室へと戻る。


「あ、清人君~。はやくはやく」


桐乃さんは再びベットで俺を待っている。


先ほどと同じ位置で、体を密着焦るような形で寝転ぶ。


すると桐乃さんが俺の耳に口を近づけてきた。


え、これってまさかリアルASMR?

それとも耳舐め?


「それで...佳林ちゃんと何してたの」


どうやら前者のようです。

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