執念深いパワー系
「......」
桐乃さんは完全に目が沈んでしまっている。
おそらく、また俺を傷つけてしまったのではないかと思っているのだろう。
物理的には傷ついたかもしれないが、"俺的"にはむしろ回復したと言っていい。
「そんな謝るほどのことでもないよ」
「で、でも実際清人君は出血して気を失って...今もおでこに包帯を巻いていて...」
そうか。この包帯が余計に桐乃さんを怖がらせているんだな。
「いいって。一晩寝たら痛みもほぼ感じなくなったし。それに、桐乃さんだけの責任じゃないしさ」
元はと言えば颯那が桐乃さんを煽り過ぎたことに原因はある。
でも分かってくれ。
ペットには、主の責任を問う資格がないってことを。
「だからそんなに謝んなくていいって。俺は一切桐乃さんのことを恨んでいたりなんてしてないからさ」
「き、清人君...」
「まぁだから今日は仲直りの意味も込めて、泊めてほしいんだけど」
「もちろん!今日はお父さんもお母さんも二人とも出張でいないから、何も遠慮することなく泊っていいよ」
よし、これで今日一日は家に帰らずに済んだ。
これでどんどん颯那のイラつきゲージをためていって、もう限界となったときに俺がしれーっと帰ってきて、強烈なお仕置きをしてもらうという作戦だ。
次はどんなお仕置きが待っているだ...?
俺としてはSMプレイを希望だが、でも、貞操帯だけはNG。
あれは興奮するという次元を完全に超えている。
「そ、それでさ清人君?」
「ん?」
「その首輪...どうしたの}
「あ」
そうだった。完全に首輪のこと忘れてた。
やばい、とうとう俺の性癖が桐乃さんにもバレたか...?
「それ...あの颯那ちゃんに付けられたんだよね?」
なんでわかった!?と驚いたが、まぁあの口調からしてこういうのが好きというのは何となく分かるか。
「......」
桐乃さんが無言で俺に付けられている首輪をいじる。
ちょ、ちょっと首の部分をそんなにいじられたらくすぐったいっていうか...って、普通に痛い!
「あ、ごめん!ちょっと指が首に食い込んじゃったね」
痛みは一瞬だったため、そんなに深くは傷ついていないと思うが、いったい何をしたんだ?
あれ?首輪が取れてる。
「それにしてもセンス悪いよね。鈴は百歩譲って分かるけど、この棘は清人君には似合わないよ」
桐乃さんの手にはちぎれた首輪が握られていた。
...えーっと、つまり無理やり引きちぎろうとしたから、俺の首に指が食い込んじゃったっていうこと。
パワー系すぎるな。
「こんなものを清人君いつけるとか...何考えているんだろうね!!」
首輪を豪快に地面に叩きつけ、何度も何度も踏みつける。
「//」
おい首輪、その場所変われ。
もう首輪が見るも無残な姿になると、足でどこかに蹴とばす。
「あ、そうだ清人君。久しぶりにあのゲームしない?そろそろわたし、ラスボスにたどり着けそうなんだ」
「い、いね。やろやろ!」
いや、だからその切り替えの早さなんなん!?
もしかして今さっきの記憶飛んでる?
「じゃあ、ゲーム機持ってくるね」
二階に上がっていく桐乃さん。
そういえばこの家は何階まであるんだ?
外見からだと四階ぐらいはありそうだが。
それにしても、さっきの俺のムーブ見た?
完全にヤンデレSSの模範的聞き手のムーブやろ!
やっぱり聞き手が変な行動したらあかんねん。
聞き手は大人しく、自分の身の回りにいるヒロインの言うことを聞いて、それをただただ許すことが大切やねん。
変に分からせようとか思っちゃいかん。
分からせ失敗からの逆分からせという展開以外を除けば、聞き手は大人しくヒロインの言う通りに動くというのが王道。
「お待たせ―、持ってきたよ」
桐乃さんが大きなハードを抱えながら降りてきた。
「ちょっと待ってねー」
すると、すぐにこちらに来るというわけではなく、ちょうどテレビがめり込んでいる壁の奥側の部屋に回り込んだ。
何をしているのか確める前に、テレビにゲーム画面が表示された。
「これって壁にめり込んでいるから、後ろにコードとかをつなげている感じ?」
「そうだね。壁にめり込んでいるというのはいろいろとメリットがあるけど、こうったコードとかを取り換えるのは少し作業がいるんだよね」
俺は機械音痴なため、コードとかを扱うのは無理だ。
現に、小学生の頃、俺がコードをいじったのが原因でテレビが映らなくなるという事態が何度も起こったことがある。
こういうのは、妹の中で風珠葉に任せておくのが一番だ。
「...ねぇ清人君」
「ん?」
あれ、なんか桐乃さんのトーンがまたあの無機質に変わったな。
「今日って仲直りとしてお家に泊まるんだよね」
「うん、そうだけど?」
「だったら、あまりわたし以外のことを考えるのはよくないと思うなー」
あら、気づかれてしまいましたか。
でも驚きませんよ。
想い人が自分以外のことを考えていると察しがつくのはヤンデレあるあるですから。
「その顔は...風珠葉ちゃんのことだね」
「!?」
さすがに個人を特定できたのは驚かされたと言わざるを得ない。
「やっぱりあの子かー。あー、なんだかこのゲームをしているとあの子にわたしと清人君の大切な時間を妨害されたことを思い出してくるなー」
まだ根に持っているの!?
...もしかして桐乃さんってずっと粘着してくるタイプ?
「そういえばまだあのときのこと謝罪してもらってないんだよなー」
確かにまだ風珠葉は一度も謝罪してないけど。
ま、まぁいいじゃないですか桐乃さん。
そんな歳が四つも下な小娘に対して怒ることないですよ。
「それに、なんか風珠葉ちゃんのことを清人君が庇っている気がするんだよねー」
えー、そ、そうかな?
てか桐乃さん、なんだかコントローラ握っている手の力強くないですか?
見ているだけでそれが伝わってくる。
「そういえば昨日歩歌ちゃんになんかムカつくこと言われて殴られたんだー」
なんでいきなり昨日のことに飛躍する!?
さっきまで一か月ぐらい前のこと話してましたやん。
あと、昨日やっぱり出てきたのは歩歌でしかも殴りつけてきたんだね。
「あ、ごめん桐乃さん。歩歌が桐乃さんのことを殴っていたのは知らなくて」
「昨日のことは完全にわたしが悪いんだから謝る必要なんかないよ」
それにしても歩歌が桐乃さんのことを殴りつけた、か...
歩歌には凶暴性はないと思っていたが...いや、普通に前に台パンしてたわ。
「じゃあ気を取り直してさっそくはじめ...あれ、反応しない」
桐乃さんがゲームを始めようとコントローラを操作するも、画面には反映されない。
それもそうだ。
桐乃さんが今握っているコントローラは、力の入れすぎで完全に真っ二つに切断されているのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます