脱走

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


真夏の炎天下の中、俺はただひたすらに走る。

全身汗だくになりながらも走る。


にしても鈴がうるさい。

全速力で走っているためか、住宅街に鈴の音が響き渡り普通に恥ずかしい。


でもこの恥ずかしさが飼い主から逃げたペットという絵図らをより鮮明にしてくれる。


さて、俺がなんでこんなに一人で全速力で走っているのかというと、先ほどの凛華と颯那の一発即発の場面まで遡る。


もしあのとき俺が何もアクションをせず、傍観に徹していたら今頃きっと大惨事が起こっていた。


そうさせないために俺があの場で取った行動。

それは逃走だ。


妹全員の間で俺をしばらく家に軟禁することが決まった。

それにも関わらず、俺がと脱走なんてしたら当然仲間割れなんてしている場合じゃなくなる。


全員が一致団結して俺を捕まえるという展開になるはずだ。


それに、これがヤンデレasmrだったら監禁と脱走はセットだろ?


にしても、これはかけだった。


もう凛華と颯那がお互いのことしか意識しなくなった瞬間を見計らって、瞬時にトイレに駆け込み、トイレの窓から逃げ出した。

幸いなことに窓はすでに開かれていて、俺が小柄なことで綺麗に外へ脱出することができた。


歩歌と風珠葉がすぐに俺の行動に気づいたが、少し反応するのが遅かったようだな。


ドアの扉が思いっきり叩かれる音もしたが、その時にはすでに俺は外にいた。

...おそらく今頃は歩歌か凛華によって粉々になっていることだろう。

RIP トイレのドア


でも、だるいのはここからだ。


さっきからちょくちょく後ろを振り返るが、追っ手は見えない。

颯那の性格上、彼女はすぐに追いかけて捕まえるのではなく、じわじわと俺の外穴を埋めて、肉体的にも精神的にも追い詰めてくるだろう。


「肉体的にも...精神的にも...//」


まぁ普通に考えて逃げ出した俺が悪いからな。

そのような仕打ちは抵抗せず堂々と受けることにしよう...//


さて、こうなった以上、俺もすぐに自分から家に帰るという選択肢がなくなった。


だとすると、どこかで時間を潰さなくては。


「あ、そういえば桐乃さん...」


そうだ。

こういうときこそ彼女を頼るべきなのではないだろうか?


昨日の今日でお互い気まずいかもしれないが、やはり将来ヒモ志望の俺としては、いちいち気まずさなどを気にしない心構えを作らなければならない。


そうと決まれば、俺は早速桐乃さんの家を目指した。


こういうときは事前にメッセージで家に来ることを伝えるのではなくサプライズ的に突然押しかけてきた方が緊張が解けると聞いたことがある。


いつもと違い、遠回りをして桐乃さんの家を目指す。


遠回りをするということは一度住宅街を抜け、大通りに出る必要があった。


「でさー、え、ちょっと見てあれ?」

「なんだあの変質者?首輪つけているぞ?」

「そういうプレイでもしているのか?」

「てか男だけど意外と可愛くね?ワンチャンありかも」

「お母さん、あの人首輪つけてるよ?」

「見ちゃダメ!!!」


なんでこうも聞こえる音量で陰口を言ってくるかなー。

しかもなんか途中BL的な会話も聞こえたぞ?

何がワンチャンあるだよ!


せめて女装してからそういうこと言いやがれ。


と、まぁ聞こえるような陰口を言われ続けて十分ぐらい歩いていると、もう桐乃さんの家が見えてきた。


「にして相変わらずデカい家だな」


確か桐乃さんに姉弟がいるとは聞いてないから一人っ子のはず。

あれか?友達と寝泊まりするスペースでも確保しているのか?

もしかして、もう俺用の部屋を作ってくれているとか!?


と、あれこれ妄想していたら、家の前に着いていた。


前から見ると、映画のマフィアのボスの隠れ家に見える。


自然とチャイムを押す。


そのチャイムが家の中に響く音が聞こえない。

普通どの家もチャイムが響く音は外でも聞こえてくるのに。



つまり、防音もしっかりとされているってことか?


防音...防音...防音...//



...なんでもかんでもエロイワードに変換するのは俺の悪い癖だな。


一分ほどが経過したとき、玄関のドアが電気音をしながら開かれる。


多分今のは手動じゃないな。


「...き、清人君」


中から桐乃さんが顔をのぞかせ、悲しみの目で俺を見つめる。


「おはよう桐乃さん」


「おはよう...」


やはりあいさつし終わったら会話は途切れてしまうか。


いつもだったら、ここから桐乃さんがいろいろと話しかけてくれるが、さすがに今日はそんな気力はないようだ。


「え、えーっと、急なお願いで悪いんだけど、中に入れてくれないかな...?」


「...え?」


俺が何を言っているか理解できないように目を丸くする桐乃さん。


「ちょっといろいろと事情があって、俺を匿ってほしいんだけど...」


「か、匿う?」


あかん、匿うっていう言い方はまずかったか...?


「だめ、かな」


「う、うんうん。今はわたし一人しかいないから全然大丈夫だよ」


桐乃さんが承諾すると、自動で大きな門が開いた。


門を通り、桐乃さんと一緒に玄関の中に入る。

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