メイドの我慢の限界

「「「......」」」


なんだろう、今日はやけにみんなからの強い視線が感じられる。


こんな強い視線を向けられたら食事に集中できない。


風珠葉は少し引くような目で

歩歌は笑いをこらえるのが必死な目で

凛華は見惚れている目で俺を見てくる。


まぁもちろん嫌な感じはしないが...


「凛華」


「......」


あのー凛華さん?

お姉様が呼んでいますよ?


「凛華、返事をなさい」


「!?な、なんでしょうか姉様」


「このパンの焼け具合、適切じゃなくて?すこし焦げているような感触がするのだけれど」


「す、すみません。すこし焼き時間が長かったようです」


いや、別に焦げている味はしないし、多分颯那はただ適当にケチをつけたいだけだと思うぞ。


てか、いつの間に休日なのに全員揃って朝食をとるようになったんだ。


「あら、凛華どうしたの?さっきから兄様の方を見て固まっちゃって」


「ね、姉様。清人に付けられているその首輪は?」


やっぱりこの首輪が原因だったか。

確かに、颯那がまだ家にいたころもよく首輪をつけられていたが、それは颯那の部屋だけでこうやって凛華たちが直接俺の首輪姿を見るのは初めてかもしれない。


「どう?似合っているでしょう?兄様にぴったりな黒色の少し太い首輪。それにあの鈴がいいあじしているでしょ?」


「は、はい。とても...」


もう凛華の目がいつとも変わりすぎている。

まるで可愛い小動物を眺めるような優しい目をしている。


颯那がスープを飲み切り、お茶碗を置く音が響く。


「それで...兄様はしばらく外出禁止という方針でいいのよね?」


「異議なし」


「当然よ」


「またいつあの女がお兄ちゃんを襲ってくるか分からないからね」


やっぱりあの案は颯那だけじゃなくて妹全員が話し合って決めたことなのか。


「そういうことで兄様、しばらくの間はわたくしの部屋でしっかりと勉学に励みましょうか」


「は、はい...」


本当だったら小論文だけで一般の勉強一切しない予定だったのに...

そんなこと颯那にまかり通るはずがないんだよなー。


俺ももう食べ終わったため、颯那と一緒に階段に向かう。


「姉様、待ってください」


そんな俺たちに凛華が待ったをかける。


「姉様、清人の勉強は私が見ます。姉様はせっかく帰ってきたのですからどうぞごゆっくり」


おおー、お嬢様にそんなことを言うとは。

なかなか度胸のあるメイドだね。


「せっかく帰ってきたからこそわたくしは兄様とできるだけ長く主従関係...一緒の時を過ごしたいのよ」


今のは完全に言い間違いじゃなくて、あえて凛華に聞こえるように言ったな。


「姉様、失礼なのは重々承知ですが、昨日姉様がいたからこそ清人は頭に大けがを負ったのではなくて?」


!?!?!?!?


「ちょ、ちょっと!」


「り、凛華ねぇ...」


驚いたのは俺だけではなく、歩歌も風珠葉も慌てて凛華を止めようとするが


「二人とも黙っていなさい」


「......」


そんな女王様の一喝で試みも無駄になった。


「凛華、それはどういうことか聞かせてもらえるかしら?」


「確か昨日塾で清人はあの絹井桐乃という同じクラスメイトに殴打されて気を失ったと聞いています」


「続けなさい」


「ですが、私が聞かされていないのはその動機。私は何回も絹井桐乃と会っています。清人の彼女と名乗っているいかがわしい存在であることは間違いありません」


あんた、未だに俺と桐乃さんの関係認めてないの!?って、これは別に凛華に限った話じゃないか。


「ですが、あんな清人に盲目な人が、理由もなく清人本人を傷つけるとは到底思えないのです」


今まで桐乃さんは、妹たちに危害を加えようとしたことが多々あった。

だが、俺自身に危害を加えようとしたことは一度もない。


「...つまり、その原因を作ったのがわたくしと...あなたは言いたいの?」


「おそらく彼女を挑発するようなことでも言ったのかと思います。ですから、自ら清人を危険に晒すようなことをした姉様に、清人を預けるのはいかがなことかと存じます」


...桐乃さんを挑発するようなことはこの場にいる全員が一回は言っていると思うが...

それに別に俺は颯那と一緒にいることを苦だと思わない。


一般の勉強をしなければならないという点に関しては面倒だが、ペットが主と一緒に過ごすのは当然だろ?


あ、それとももしかして凛華が俺のリードを引っ張ったりしてくれるのか?

クール系ドSも当然俺の性癖に刺さる。


「...凛華、やはりあなた、ずいぶん頭が高くなったわね?わたくしの足で、元の高さに戻してあげましょうか?」


言い回しが俺好み...//


「...私もそろそろ限界だ。姉様、貴女は少し私のことを過小評価してらっしゃる」


あ、完全に凛華が戦闘モードに入っちゃった。

先ほどの目つきが百八十度変わり、敵を見据えるような瞳をする。


「...その目、わたくしに歯向かうようなその目、気に入らないわ」


相変わらず颯那は余裕を崩さないが、あの顔は完全にこれから奴隷を処刑するときのお嬢様の顔だ。

同人誌で何回も見てきたから分かる。


さて、このまま時が進めば、大惨事になるのは明白だ。


今度は警察沙汰だけでは収まらない事態に発展するかもしれない。


だが、俺は慌てない。


なぜならこの解決策を知っているのだから。

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