次女の底知れぬ怒り
「清人、気分はどうだ?」
風珠葉が出て行ってから数分経つと、凛華が入ってきた。
「ほぼいつも通りだ。頭の痛みも完全に引いているし」
「そうか。だが、油断は禁物だ。いつまた痛みが発生するか分からん。今日はベッドの上で安静にしとけ」
てかさっきから思っていたけど、なんで俺は颯那のベッドので休むことになっているんだ?
普通に自室のベッドで...いや、ま、まぁこれが命令なら颯那のベッドで寝るしかないよな...//
「ほら、おかゆを作ってきたぞ」
凛華の持っている少し大きなお茶碗にはおかゆが入っている。
もう完全に病人扱いだな。
「ありがとう凛華。じゃあそこの机の上に置いておいてくれ」
ベッドのすぐ隣に置いてあるこれまたヨーロッパ風の机を指さす。
だが、凛華は一向に置こうとしない。
「何を言っている。今のお前に自分で食べさせるわけにはいかないだろう?」
「え、い、いや、別に今熱があるわけでもないし」
「だとしてもだ。お前が今無理に手を動かしたら体に余計な負担がかかるかもしれないだろう」
そういうものなのか?
「えーっと、じゃあどうすれば」
「私が食べさせてやる」
//
確か前にもこういうシチュエーションあったな。
凛華が俺に近づき、木造のスプーンでおかゆをすくい、俺の方へ向ける。
「い、いただきますー」
顔の温度が高くなるのを感じながら、スプーンにがめつく。
「う、うまいな...」
おかゆを食べるのは小学校以来だからもしかしたらおかゆ自体が美味しいだけかもしれないが、それでもやはり凛華の腕は一流だと、改めて実感できる。
これは颯那がマウント取られても仕方ない。
凛華がちょうどいいペースでスプーンを動かしたため、俺も特に急ぐわけでもなく、普段と同じ速度でディナーを楽しめた。
「すまないが、デザートは我慢してくれ」
「いや、さすがにおかゆの後にデザートは合わないよ」
食べ終わった茶碗をあのヨーロッパ風の机の上に置く。
「......」
「......」
...なに、この時間?
凛華は用事が済んだため、特に出て行こうともせず、喋ろうともせず、ただただベッドで横になっている俺を見つめている。
「...っ!?」
と、数秒間お互いを無言で眺めていたら、凛華が俺のほっぺたを触る。
「り、凛華...?」
「...お前の頬っぺたは本当にすべすべだな」
微笑みながら頬っぺたを触ってくる。
ちょ、なんすかこれ!?
こんな...いきなりほっぺたを触られたりなんてしたら、もう俺の"ミサイル"が発射寸前になっちゃうんですけど!!!
「...お前の頬っぺたは...気持ちい」
俺の下半身危機などなどお構いなしに、ほっぺたを触る手を休めない凛華。
あーやばい。
もう無理、もう発射します。
カウントダウン、スタート!
五、四、三、二、いーーーっ!?
「-----っ」
俺のミサイル発射を防ぐかのように、何の合図なしに凛華が俺に唇を重ねてきた。
「-----ー」
「------」
舌を絡めるディープキスではない。
おとぎ話に出てくる、王子がお姫様を起こすときにするキスと全く同じ感覚だ。
「っ.....」
時間としては三十秒ほどのキス。
だが、その三十秒間の間、俺は完全に思考を放棄させられていた。
完全に凛華とのキスに心を持っていかれていた。
「...やはり、許せないな」
「え?許せない?」
キスをし終えてからの開口一番が、"許せない"
...やはり、あくまでクール系にとどまり、執事系までいかないのが凛華だな。
「お前のファーストキスを奪った歩歌が、こんなにも愛おしいお前を傷つけた桐乃と名乗る女が」
凛華は静かに怒っている。
狂気じみた目をするわけでもなく、凍り付くほど冷たい瞳をするわけでもなく、ただ静かに怒っている。
だが、なぜかそれが余計に表現しない恐怖を感じさせる。
凛華が怒る時はこんなに怖かったのか?
よく学校で怒るとものすごく怖い先生は何人もいるが、この恐怖はそれとは比較にならない。
これには完全に俺のムスコも委縮してしまって...ない。
むしろ今ベッドで見えないようにテントを作っている。
「おっと、すまない。そろそろ私はお邪魔した方がいいだろう」
凛華がお茶碗をもって扉の方に行く。
「じゃあ、また明日な、清人」
「あ、ああ、お休み」
...なんか思った以上に静かだったな。
もっと俺のおでこの包帯を見て怒り狂うと思っていたが。
いや、さっきのあの静かな怒りはまさか怒り狂うという次元を超越したときの状態なのかもしれない。
だとしたら...ちょっと真面目に避難所でも確保しておいた方がいいかもしれないな。
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