末っ子の想い

「...ん?なんだこのペニスエクササイズにぴったりなベッドは?」


目を覚まし、体に伝わってきた感触がまさにそれだった。


「...って、颯那の部屋のベッドか」


体を起こし、辺りを見渡せば颯那の部屋だった。


「というか俺はなんで颯那のベッドで寝ているんだ?」


確かに昨日、ここで颯那の凄くいいニオイがする足を舐めたことは鮮明に覚えているが。


ベッドから降り、化粧台の上の大きくて上品そうな鏡で今の自分の状態を確認する。


「ずいぶん大きな包帯だなおい」


この包帯を見た瞬間に大体のことを思い出したが、取り乱さなかった。


別に大したことではない。


今日、歩歌と颯那と俺三人で塾に向かったら、なぜか桐乃さんもいて、今度は桐乃さんと颯那と俺で自習をしていた。

たしかそのとき唐突にお嬢様学校に通っている子とは思えないような口調で颯那が桐乃さんのことを煽った。

すると見事桐乃さんの頑丈すぎる堪忍袋の緒が切れてしまい、颯那に手を出しそうだったところを、俺が身代わりとなり桐乃さんに顔を掴まれ机に思いっきり叩きつけられた。

そして、俺はおでこから出血して意識がなくなったんだっけ。


...改めて思うと、俺ってめっちゃ勇敢じゃね?


ほら、よくアニメや映画でもいるだろう?謎に自己犠牲したがるヤツ。


もしかして俺の根本的な考え方はそいつらと同じなのかもしれない。


さて、おおよそ情報は整理できたが、まだ俺が把握していないのは、俺の意識が飛んでから、ここに至るまでの経緯だ。


大方、颯那がここまで運んでくれたとは思うのだが、問題は桐乃さんのことだ。


確か、あのときの俺の耳が性病にやられていなかったら、颯那は今回のことは穏便に済ませる的なことを言っていたはずだ。


つまり今桐乃さんが警察騒動になって署で詳しく話を聞かれているってこともないだろう。


俺は別に今回桐乃さんに殴打されたということに腹を立てているわけじゃないし、こんなことがこれからの二人の仲に影響を与えるとも思ってない。


それにあれだけ過度に煽られたなら、相手がドMでないかぎり、誰だって手を出しても仕方ないと思う。

それにたかが普段は優しい彼女に血が出るぐらいのDVをされたいっていう一人のM男の願望が叶っただけだ。

むしろ俺の体は桐乃さんに感謝しているぞ。


と、俺がいろいろとあれこれ妄想していると、部屋のドアが開かれ、風珠葉が入ってきた。


「あ、お兄ちゃん、目が覚めた?」


俺の体調の心配しかしていない目で俺に駆け寄る風珠葉。


「どう?意識ははっきりしてる?おでこは痛くない?」


「ああ、意識もはっきりしているし、あまり痛みも感じない」


こんな短時間で、出血までしたのに痛みが引くわけないが、おそらく俺の快感パワーが痛みを塗りつぶしたのだろう。


「そっか。でも、一応まだベッドの上で安静にしておいて」


風珠葉にそう促され、再びベッドの上で横になる。


「風珠葉、俺はどうして颯那の部屋にいるんだ?」


「颯那ねぇのお友達?が、突然お兄ちゃんを担いで家に来て、何があったか聞いても、颯那ねぇに言われたってことしか言わなくて、そのままお兄ちゃんを颯那ねぇの部屋のベッドに寝かせたんだ」


間に?が入ったってことは、厳密に言うとそのお友達は颯那と同じ寮生で、なにか弱みでも握られて颯那のしもべにでもされているのだろう。

そして頼みじゃなくて正確には命令だな。


「で、その後は?」


「お友達が帰って十五分ぐらいしたころに颯那ねぇが帰ってきて来てすべてを話してくれたんだ」


「えーっと、すべてっていうことは...」


「お兄ちゃんあの桐乃っていう女の人に思いっきり机に叩きつけられて、おでこから血を流して意識を失ったっていうこと」


あちゃー。

やっぱり穏便に済ますとは言っても妹たちには話してしまったか。

またしても我が妹たちと桐乃さんとの間が悪化してしまった。


現に今風珠葉は血が滲んでくるぐらい強く拳を握り、手が震えている。

俺の前だからなんだか顔に怒りを出さないよう努力しているのは伝わるが、顔が真っ赤なのは隠しきれていな。


「...お兄ちゃん。もうあんな女なんかと付き合うのやめようよ」


とうとう風珠葉までこの手の話題をするようになってしまったか...


「初めてあの女に出会ったとき、本当は凄く怖かった。お兄ちゃんとのゲームをなんで途中で中断させたのかってずっと表情が死んでいる顔で問い詰めてきたし」


あの桐乃さんの顔は完全に初見殺しだよな。


「そして、あの女が家に泊まりに来たとき、お兄ちゃんがいなかったらわたしも何されるか分からなかった」


確かにあのときはゲームコードで歩歌を絞め殺すほどのオーラを漂わせていたからな。


「そして今日はついに...お兄ちゃんに血まで出させて気絶させたっ!!!」


ここで努力を放棄し、顔全体に怒りを表す風珠葉。

目からは涙が溢れている。


...これはさすがに宥めた方がよさそうだな。


「...俺のために怒ってくれてありがとう風珠葉」


風珠葉の頭に手をのせ、自分でも恥ずかしいほどの優しい笑みを浮かべる。


「お、お兄ちゃん...」


「でも、桐乃さんを責めないでやってくれ。俺からは詳しく言えないが、桐乃さんだっていろいろと追い詰められていたのかもしれない」


「で、でも...」


「頼む、理解してあげてくれ」


「お、お兄ちゃんがそこまで言うのなら...」


と、少しは怒りが沈んだのか、風珠葉が俺から距離をとる。


「あ、あともう少ししたら凛華ねぇが夕食を持ってきてくれるから、それまで安静にしておくんだよ」


顔を赤らめながら風珠葉は退出する。


そんなに俺の笑顔がさわやかだったもんだから照れてるのか?


でも悪いな颯那。


やはり俺は素直に照れる可愛い女の子より、過度に俺に苦痛を与えてくれる女の子の方が好みなようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る