駐輪場での修羅場

「そこの白い髪の毛をした子は誰かな」


桐乃さんはまるで幽霊を見つけた幼い少女のようにまっすぐ俺の後ろを指さす。


まぁやっぱり桐乃さんにとって颯那の存在は無視できないよな。

想定内想定内。


「兄様、こちらの方が兄様のおっしゃっていた彼女ですか?」


「うん、前話した絹井桐乃さんだ」


「そうですか。初めまして、絹井さん。わたくしは、濡髪家長女の濡髪颯那と申しますわ」


右足を引き、スカートの裾をつまむという気品を感じさせる挨拶をする颯那。


やっぱりお嬢様学校でいろいろ仕組まれてるんだな。

表ではこんな上品だけど、裏ではペット(俺)に足を舐めさせるほど腹黒い。

そんなギャップに盲目となってしまうのは俺だけでしょうか。

うん、この場にいる中だったら俺だけだね。


「よろしくね颯那ちゃん。清人君から聞いてると思うけど、わたしは清人君とお付き合いさせてもらってる桐乃だよ」


「ええ、ええ、存じていますよ絹井さん」


多分初対面で俺の彼女だと宣言した理由としては、颯那が俺の妹でしかも長女ということでいろいろと桐乃さんも警戒してしまっているのだろう。


「それで、颯那ちゃんは今日何しに来たのかな?」


「わたくしは妹と自分のペット同然の兄様の私生活を観察しにきただけですわ」


「えーっと、清人君が...ペット?」


「ええ、わたくしの愛犬です」


...もう想定外なんだが?


こんな会ってすぐに実の兄のことを愛犬とか言う?

でもまったくその通りなんだけどね。

僕は颯那様の忠実な愛犬です。

今度は足だけじゃなくて脇の下とか...


「でも、少々兄様の趣味の悪さには目が余りますわね」


「?どういうことかな」


「だって、わたくしの愛犬である兄様の彼女にあたるお方が、こんな援助交際をしていそうな...失礼。見た目がふしだらなんですもの」


「姉さん、同感だわ」


あー、もうどうなってもしーらないっと。


「...ちょっとその言い方は失礼なんじゃないかな」


「わたくしはあくまでご自分の意見を言っただけにすぎませんわ。だからそんなに気にすることなくってよ」


「全然気にしていないから大丈夫だよ」


いや、その瞳がめっちゃ効いていると物語っているよ桐乃さん。

しかもたちが悪いのが、颯那は無駄に勘が鋭いため、そういうのにはすぐ気づく。

いや、もう気づいている。


「姉さん、この女は兄さんのセフレだからいちいちそんなこと言わなくても大丈夫よ」


「横からしゃしゃり出てこないでもらっていいかな?歩歌ちゃん」


よし、もう取り返しのつかなくなりそうな展開だから俺はここぐらいで


「あら、兄様。犬が主を放っておいて進むなんてことが許されるとでも?」


はい、わかっています。

分かっていますから背中の皮を引っ張るのやめてください。

首を掴まれるのより痛いです。

これは虐待ですよ?

今すぐ動物愛護団体に通報しますよ?


「...長女はもっとまともだと思っていたんだけどね。まさか初対面で失礼なことを言った挙句、自分のお兄ちゃんのことを犬呼ばわりする子だったなんてね」


「どちらにしてもセフレのあんたよりはマシね」


「だからあまり粋がらないでもらっていいかな歩歌ちゃん」


「まぁまぁお二人喧嘩はおやめくださいまし」


「姉さんが言うな!」


「きみが言うべき言葉じゃないよね?」


おお、凄い。

初めて二人の言い分が同じであるところを見た。


「それで、援交さんじゃなくて絹井さん」


「うん、今のは絶対わざとだよね?わたしの名前とどこも被ってないもんね?」


...正直まだ手を出していないだけ桐乃さんはだいぶ大人だと思う。


ていうかさっきつねられたところがホント痛む。

恐らくドS過ぎて、背中のどこをつねったら痛がるのとか全部把握しているんだろうな。

本当にどこまでも俺好みのご主人様だ...//


「兄様とはいったいどこまで進んでいらっしゃるの?まぁ名前からしてもう肉体関係にまで発展しているのは百も承知なのだけれども」


「...清人君、ごめんね。わたしそろそろ限界なんだ。多分このまま駐輪場にいたら...ね?だからいったん全員塾の中に入らない?」


「は、はい...」


...やばい。

こんないよいよブチ切れ寸前の血が上り切った桐乃さん見たことない。


...限界突破したらDV彼女に豹変することを願います。

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