一人多い塾通い

「で、なんで颯那姉さんまでついてきているわけ?」


「わたくしがついて来たら不都合でも生じるのかしら?」


いつも通り、俺と歩歌はそれぞれ自転車に乗って塾まで向かっている。

だが、今日はやけに俺の自転車が運転しづらい。


その理由は、ちょうど俺のサドルの後ろに座っている颯那が原因だ。


最近の自転車は、なんで二人乗りはダメだと言われているのに、わざわざ二人座れるような構造にするのかね?


「兄様、少し漕ぐのが遅いですわよ。どんどん歩歌に引き離されています」


「い、いや、やっぱり二人乗りとなると、ペダルを漕ぐのに負荷が」


「つまり、わたくしの体重が重いとおっしゃりたいのですか?」


「い、いえ、そんなことはありせん」


もし今後ろから何かされたら大怪我にもつながりかねないため、颯那のご機嫌取りをしなくてはならない。


「それにしても、あの兄様が塾なんて行ってらっしゃるなんてね。兄様の成長に深く感激いたしますわ」


嘘乙。


「でも兄様、勉強ならわたくしが手取り足取り教えてさしあげましてよ?」


手取り足取り...//


あ、いかんいかん。

今ムスコのテンションが上がったら普通に危ない。


「颯那は学校でも成績上位の方なのか」


「ええ、それはもちろん。全国模試では先輩方よりも高い偏差値をとっておりますわ。まぁ、それが原因で少々寮生の先輩たちからは嫌われておりますけれど」


女子寮の中で嫌われるとか考えただけでもぞっとするな。


これは基本的な話だが、俺たちが言っている”いじめ”というのは性的なことだからな。

そこんとこ、間違わないように。


「よかったら今度兄様をわたくしの寮に招待してさしあげましょうか?」


「...え、がち?」


さらっと言われたから無視しようと思ったけれど、何気にすごいこと言わなかった?


俺をお嬢様学校の寮に招待!?

そんなの、行くに決まってるじゃないですか!!!


「はい、よろこん」


「ストップ!ちょっと颯那姉さん!何言ってるのよ!」


勢いに任せて承諾しようとしたのに、歩歌がストップをかける。


「なにって、兄様を深海女子学園の寮に招待するっていう話だけれども」


「だけれども、じゃなくて!そんなこと許されるわけないでしょ!なんのための女子寮だと思っているの?」


「大丈夫よ。兄様はこんな体系しているから男として扱われないわ」


ねぇ、それってどういう意味?

もしかして中性的ってこと?


それならよろこんで自分から百合シチュエーションを狙いに行くが、ただ単にやせ細っていて、男として脅威に感じられないってこと?


「そういう問題じゃないでしょ!それに、兄さんもなに了承しようとしてんのよ、本気で犯され」


「ああああああああ!!!!」


咄嗟に大声を上げ、歩歌の声が颯那の耳に届くのを遮る。


「どうしたんですの兄様?いきなり汚い雄たけびを上げて」


き、汚い!?


「い、いや、忘れ物をしたことを思い出しただけ」


歩歌に、気をつけろ、と目でメッセージを送る。


歩歌も、悪かったわよ、と目で俺に伝える。


「そ、それよりも颯那、今日も制服なのか?」


瞬時に話題を変えるが、これは俺が気になっていたことの一つでもある。


昨日颯那は制服のまま寝たが、今日朝起きたとき


「今からここで着替えをいたしますわ」


と言ってきた。


慌てて視線を逸らした俺に颯那は


「別にわたくしの裸姿を見たければ見たくていいですのよ」


と、挑発してきた。


まぁさすがにそうはいっても、お嬢様の裸を見ると少しイメージが崩れてしまうということもあり、俺は極力視線をずらしていた (一度も見ていないとは言っていない)


で、着替え終わるとまた制服姿になっていたというわけ。


「そんな制服姿で、暑くないのか?」


「暑いことには暑いですけれど、寮生活ではどんな時期でも制服を脱ぐことは許されなかったのですから、この暑さにも耐えられますわ」


それはホントにお嬢様学校の寮なのか?


さっきはノリで行こうとしたが、そんな昭和のスパルタ学校並みの厳格なルールがあるなら行きたくねぇな。


いや、でも、もしかしたらそういった厳しい環境の中だからこそ、性に飢えた女子たちが異性である俺を使って発散...


いや、何を考えているんだ。

俺には最愛の彼女である桐乃さんがいるじゃないか。


ほら、今だって目の前に桐乃さんがいるという幻覚だって見るぐらいだし...ん、幻覚?


「おはよう、清人君」


「え!?桐乃さん!?」


「そうだけど、そんなに驚いてどうしたの?」


さっきまでは颯那との会話と想像に夢中で気づいていなかったが、もう駐輪場の前まで着いていたのか。


「あ、いや、なんでもないよ。おはよう、桐乃さん。でも、どうして桐乃さんが今日塾に?」


「それはわたしが清人君に聞きたいことだけど...大方、そこにいるお兄ちゃん大好きっこの歩歌ちゃんに無理やりついてこさせられたんだよね」


「は?別に無理やり連れてきたわけじゃないけど」


いや、普通に脅迫して連れてこさせたよね。


「わたしは今日自習室をかりに来ただけだよ」


「そ、そうなんだ」


俺と桐乃さんはいい意味でも悪い意味でも遭遇する確率高いよな。


「ところで」


桐乃さんが俺の後ろに注目する。


「そこの白い髪の毛をした子は誰かな?」

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