新たなジャンル誕生

「あら?凛華、休日は朝食を作らないの?」


颯那はリビングに入ると、開口一番にそう口を開いた。


「休日は全員バラバラの時間に起きます。もし朝食を作ったとしても全員が食べる頃には冷めてしまいます」


「そう。でもそれはただただあなたが甘いんじゃなくて?」


「...どういう意味ですか?」


「わたくしの寮では、たとえ休日でも、朝のチャイムで全員起き、そこから朝の掃除をして、それが終わったら食堂で全員一緒に朝食を食べるというルーティーンを送っているわ」


うわ。俺だったら絶対に耐えられないな。

ていうかお嬢様学校でも掃除とかするのか。

てっきり、それは全部寮に控えているであろう執事とかがやるイメージだったが。

あ、ちなみにクローゼットとトイレの掃除は任せてください!//


「姉様。ここは家であり、集団生活をする場ではないです。さすがに休日の朝に全員揃って朝食を食べるルールなども設けるべきではないですし、平日の朝でさえみんなバラバラに朝食を食べます」


「そういう感覚が甘いと言っているのよ」


両者とも一歩も引かないな。


「とにかく、いくら姉様といえど、勝手に家の規則を追加することは許可しかねます」


「わたくしは別に規則の追加などしようとしていないわ。あくまで指摘をしているだけよ」


指摘と言う割にはずいぶん圧が含まれていませんでしたかね?


「とりあえず、今日は朝食がないっていうことでいいのかしらね?」


「はい、申し訳ありませんが、そこはご理解ください」


「頭を下げる必要はないわ。そんな仕草をしていたら本当にメイドみたいに写ってしまうわよ?ああ、でも、それもいいかもしれないわね」


「いい、とは?」


「立場の弱い者の視点を学ぶために、あなたが何日かの間メイドとして家族に尽くすって言うのもありね」


凛華が...メイド!?

口調の厳しいクールメイド!!

ありですありです!!需要ありまくりです!!!

何か僕が粗相したら容赦なくお仕置きしてくれちゃっていいですから!


「それで、兄様、今日は朝食が作られていないというわけですが、どうしましょうか?」


急に口調が変わるの地味に心臓に悪い。


「どうしようも何も、俺も普段朝食は食べていないからなー」


「だからそんなにもやしみたいな身体つきをしていらっしゃるのですね。これでまた一つ兄様のことについての知識が増えましたわ」


はいはい、そんな言葉じゃ俺のメンタルにダメージ入りませんから。


「...これは提案ですが」


発言の許可を求めるかのような目をする凛華。

もう完全にメイドやん。


「姉様が料理してはいかがでしょう?」


あ...

やばいぞ、凛華。

確かそれは禁忌だった気がする。


颯那の動きが一瞬止まる。

だが、すぐに顔が凛華の方に向き直り


「あら、わたくしが料理する必要があるというの?」


平然と開き直った。


でも、確かにそうか。

わざわざお姫様が自分の食事を作ったりしないしな。

うん、納得納得。


「料理をするのは凛華、あなたの仕事でしょ?しっかり自分の仕事を見極めておくことね」


「では、姉様の仕事と言うのは」


おいおい、ずいぶん食い下がるな。

ここまで食い下がると、そろそろ颯那もイライラしてくると思うが。


「そうねぇ。あなたたちの管理と、兄様の躾かしら」


実質ニートやん。


「清人の...躾?」


おい、なんでそこに反応する。


「姉様、私たちの管理と言うのは理解できますが、清人の躾は普段私がしているので姉様までもがその責務を負う必要はないかと」


「あなたの躾の仕方が悪いのだから、学校で愛人を作るような浮気者に兄様が成り下がってしまったのではなくて?」


一応今までの俺は浮気者よりは立場が上だったのね。

てっきりペットにしか思っていないように見えていたけど。

いや、颯那の中ではペット>浮気者なのかもしれない。


「確かにその点においては私も同意する。だが、その清人を躾ける権利は姉様にではなく私にある」


「兄様のことになると偉く豹変するじゃない。なに?これがあなたのいう兄様への愛かしら?」


「清人と私が最終的に結ばれるというのはもう確定事項だ。それを妨害するのは何者であっても不可能」


「なら、その何者かにわたくしがなってさしあげましょうか?」


「...姉様。一応確認しておく、それは、本気か?」


「ええ、本気よ。高校生になっても夢物語を見ている愚妹にしっかりと現実を直視させてあげるのも長女であるわたくしの責務だもの」


「そうか。分かった」


おいおいおい。

こりゃまた俺が黙っているうちに取り返しのつかない展開になってきましたね。


だが、今回ばかりは傍観に回らせてもらう。

この二人の仲介をして、俺が明日も元気に光を浴びる可能性は低いからな。


というか、颯那の強さはどれぐらいなんだろう?

凛華がああなった以上、また暴力に走るのは明白だ。

それも颯那は十分に分かっているはずだが。


もしかして、颯那もまたとんでもない怪力の持ち主なのか?

だとしたら、怪力お嬢さまというまた新たなジャンル誕生の瞬間を見られるかもしれない。


俺は二人から少し離れ、廊下にある階段から見守ろうと、腰を下ろそうとすると


「兄さん、もう準備はできた?」


ちょうど歩歌が降りてきている途中だった。


「準備ってなんの?」


「は?もちろん塾のよ」


「え、塾?」


えーっと、今日は確か授業はなかったはずだが。


「あたしたちのクラスは今日午前中から授業があるの。もちろん兄さんもついて行くわよね」


「いや、だって俺は授業ないんだし」


「は?行かないの?今度は颯那姉さんの前でアンタを襲ってもいいのよ?」


「行きます行きます」


さすがに颯那の前で襲われるのはまずい。


前みたいに人目につかないところで犯されるのなら俺としても大歓迎だが、もし颯那の前でそんなことされようもんなら、貞操帯どころか、俺とムスコを強制的に引きはがすことも検討しそうだからな。


「分かったのなら早く準備して」


せっかく新たなM向けジャンル誕生の瞬間を見たかったが、仕方ない。


俺は少ない荷物を取りに、自室に戻った。

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