ご主人様が帰宅された本当の理由
「ほら、兄様。入ってください」
「お、お邪魔しまーす」
颯那の部屋には久しぶりに入るが、いつ見てもどこかの国のお姫様のような作りをしている。
というか、この天井にある大きなシャンデリアはいったいどこから持ってきたんだ。
「そういえば兄様」
荷物を置きながら俺の方を振り返る
「わたくし、まだ兄様に"お帰り"の一言もかけられていないのですけれど」
あ、確かに言うの忘れてた。
というか気づいていたのならそのときに指摘してくれよ。
「お、お帰り颯那」
「ええ、ただいま戻りましたわ、兄様」
...距離が近い。
颯那の方が身長が高いため、距離が近いと俺が見下ろされているという感覚がより露わになってくる。
やっぱりお嬢様は他人を見下してなんぼだ。
「それで兄様、なにか私に対して言うことはないのですか?」
言うこと...?
はて、挨拶以外に何か言うこと..?
「兄様は、本当にわたくしが風珠葉から電話をもらったからというだけでご実家に帰還したと思っているのですか?」
え、そうじゃないの...?
「はぁー。その顔、どうやら本当に分かっていないようですわね。相変わらず能天気なお方」
颯那が俺から離れ、ベッドの上に座る。
「兄様、こちらに来てくださいまし」
言われた通り俺もベッドの方へと移動し、ちょうど颯那の隣に腰掛けようとすると。
「なぜベッドの上に座ろうとしているのですか?頭が高いですわよ」
でました。
人生一度でもいいから女子に言われたいランキングで毎回上位に食い込んでいる言葉。
ネットにあるこういうランキングはテレビよりも全然信用できる。
「兄様の頭は、わたくしの足元ぐらいの高さがちょうどいいですわ」
つまり跪けということですが。
はい、もちろんそうさせてもらいます!!//
俺は特に嫌がる素振りもせず、従順に颯那の足の前で跪きの体勢をとる。
「それで、わたくしが急遽ご実家に帰省した理由、本当に兄様には心当たりがないんですの?」
いや、こればかりは本当に分からない。
以前の颯那にこっぴどく調教された俺だったらすぐに自分のご主人様の考えていることを察することができたのかもしれないが、もう長い月日がたった今の俺では全く予想できない。
「そうですか。自覚があったのならまだ救いようがあったのですけれどねぇ~」
まぁこれらの言葉でおおよその状況は理解できた。
颯那が俺に対して今まで以上にご立腹だということが。
「え、え~と俺、何かしちゃいましたかな?」
恐る恐る聞いてみる。
「まぁいいでしょう。兄様に自覚がないというのなら私から教えて差し上げますわ。兄様、どうやら学校で"彼女"というなんとも不適切極まりない存在を作ったようですわね」
え?なんで知ってるん!?
風珠葉が電話でわざわざそんなことを告げ口したとは思えないが。
「その顔、どうしてわたくしがそんなことを知っているのか気になっている様子ですね。兄様、こちらをご覧ください」
颯那がポケットから何枚かの写真を取り出す。
てかなんで制服のポケットにあんなに何枚もしまっておけるんだよ。
「げっ!?」
それらの写真には何と、俺が桐乃さんと一緒に登下校しているところ、授業中に隣同士でイチャイチャしているところ、昼休みに屋上で一緒に弁当を食べているところ、一緒に塾で自習しているところ、腕組んでデートに行ってるところ、などなどが写っていた。
「実は、兄様の学校には何名かわたくしのお知り合いの方がおりまして、その方たちから送られてきたものですわ」
まさか条棟高校に颯那のスパイが紛れ込んでいたとは…
「それで...このたびたび写っている兄様の隣にいる女性。この方が彼女でよろしいんですの?」
「はい、その通りです...」
もうここまで突き止められているのなら潔く白旗を上げるしかない。
「...この方のお名前は?」
「絹井、桐乃さんです...」
「...わたくし好みの名前ではありませんね」
そこはどうでもいいのだが。
「しかし、わたくしという者がいながらこのようなふしだらなお方を彼女にするとは」
桐乃さんの外見って少なくともふしだらじゃなくね。
「...わたくしは今、兄様の趣味の悪さと裏切りに、ひどく憤慨しておりますわ」
少し顔を上げて颯那の表情をうかがう。
あ、確かに憤慨なさっているご様子。
凛華のときのとの見下すような視線ではなく、無表情なのは変わりないが、まるで子供が自分のおもちゃを他の子にとられたときのような瞳をしている。
...ここから起こる展開を俺はある程度予測し、ただただ股間を抑えることしかできない。
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