終焉を意味するインターホン

「「「「......」」」」


誰一人言葉を発さず、沈黙が続くリビング。


昨現在は夕食を食べ終えたところだ。


昨日の衝撃的な予告からちょうど一日経ったぐらいの時刻だ。


今日は歩歌も家で夕食をとったが、食事中も今と同様、誰一人言葉を発しなかった。


それもそのはず。

あともう少しで、あの暴君颯那が帰ってくる。


颯那とは一歳差で、俺が高二に上がるまでは一緒にこの家で暮らしていた。


中学を卒業し、全国でもトップクラスのお嬢様学校である深海女子学園に進学した。

深海女子学園はここからかなり距離があり、到底家から通えないということで現在寮生活をしている。


ん?颯那が家を出て行くときはさぞシリアスな雰囲気じゃなかったのかって?

風珠葉なんて泣きながら必死に駄々をこねていたんじゃないのかって?


それが違うんだよなー。


颯那が家から出て行ったあの日 (正直に言えばもうほとんど覚えていない)

みんな悲しい素振りを見せてはいたが、明らかに演技クサイものだった。


歩歌なんか途中我慢できずに小さくガッツポーズしてなかったっけ?


凛華は当然あの性格だから、そんな喜んだりはしなかったが、なんだか颯那を見送るときの目が完全に冷め切っていたはず。


風珠葉はもしかして演技ではなく、ある程度本気で悲しんでいたかもしれないが、少なくとも涙を流したりはしていなかった。


俺に関してはあまり記憶にないということは、眠気と闘ったりしていたのだろうか?


とにかく、颯那はあまり俺たちから慕われていたとは言い難い。

その原因は、なんといってもあの性格だ。


やはり長女ということもあり、凛華と同じぐらい妹たちのことをよく観察していて、非常にしっかりものだった。


ただ、ことあるごとに嫌味を言ってきたりする。

ていうか、簡単に言えば見下している感が凄いのだ。

そう感じてしまうのは、あのお嬢様口調も関係しているし、あの明らかに人を小馬鹿にするような笑みも要因として挙げられる。


ただ、よく動画サイトに上がっているスカッと漫画や、スカッとlineに出てくる主人公のセレブママ友と違うのは、非常に優秀であること。


容姿も俺の周りの女子の誰にも引けをとらないぐらい整っていて、勉強も運動もトップクラスにできる。

そして日常生活において、何とか颯那のあらさがしをしようにも、本当に隙がないため、たとえ見下されてもなんだか納得してしまう。


でもまぁ凛華はだいぶ颯那から屈辱を受けただろう。


凛華も俺からしてみれば十分に完璧人間だが、やはり颯那と比較すると一歩劣ってしまう。


そのことは周りも凛華自身もよくわかっていた。

そして当然颯那も。


颯那は口癖のように凛華のプライドが傷つくようなことを言っていて、それもまた的に得た発言だったため、凛華も反論ができない。


もしかしたら颯那は、ただ真面目で可愛い妹を少しからかってみただけの感覚かもしれないが、それが凛華の自尊心に雲を宿したのは事実。


そして、そんな姉へのコンプレックスを解消するために剣道に打ち込むようになった。


皮肉にも、結果的に颯那がやったことは、凛華自身の成長につながったと言えるが、もしかしたらこうなることを想定して日ごろからあんな言葉を凛華に投げかけていたのではと最近だと思うようになったが...まぁあの性格からしてそれは十中八九なさそうだな。


そんな長女がいなくなったことで、実質的に凛華がこの家の主導権を握り、前よりも厳しいルールなどを設けた。


ちなみに家族カースト最下位の俺は彼女に家畜のように扱われた。


まぁまさにドMホイホイとタグが付いてあるSSのようなことを実際にされたし、”俺”を”今の俺”へと改造した。


「...ねぇ、ほんとに颯那姉さんが今から帰ってくるの?」


歩歌はまだ現実感が湧かないようだ。


昨日夜遅くに帰ってきた歩歌に、明日颯那が帰ってくると伝えると、めんどくさそうに


「なに?前無理やりキスされたことへの仕返し?ならもう少し現実感のある嘘をつきなさいよ」


と、明らかに信じてない様子だったが、あとから風珠葉と凛華からも伝えられたのだろう。

食事中も、食後も俯いていたが、どうやらまだ現実を直視できないようだ。


「...歩歌、受け入れろ」


凛華の無念そうな呟きに、歩歌もやっと目が覚めたのか、顔が暗くなる。


昨日はあれだけ安心顔だった風珠葉も自分のやってしまったことの重大さが分かったのか気まずそうにしている。


そして俺はただただこれから起こることを想定していて、性欲が上がったり下がったりをずっと繰り返している状態だ。


ただ、そんな状況に、たった今聞こえてきたインターホンにより、終止符が打たれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る