百合系ヤンデレとクール系ヤンデレ

「ま、まぁ惜しかったじゃないか凛華」


「ねぎらいの言葉などいらない。単に私の練習不足が原因だ」


凛華は初戦突破したものの、二回戦面の終盤で見事な一本を取られてしまい敗退した。

だが、負けたからといってもすぐに帰ることはできず、同じ条棟生全員の試合を観戦していた。

そしてもちろん俺もそれまで残らされた。


今は帰りの電車に乗っているところだ。


「それで」


「...何よ?」


凛華が俺の隣に座っている菊島さんに目を向ける。


「貴女はどうして清人と一緒に会場にいた?」


「そんなの偶然よ偶然。仲の良い後輩を応援しに行こうと思ったら、見知った顔が座っていたから話し相手にちょうどいいなと思って隣に座っただけ」


あれ?さっきは姉の応援とか言ってなかったか?


「それにしてはその仲の良い後輩と一緒に帰っていないようだが」


「そ、それは...あ、あれよ。途中ではぐれちゃって多分違う車両に乗ってるだけでしょ」


そういえば菊島さん観戦中ずっと俺に話しかけたり睨んだりしていて、特定の誰かを応援なんてしてなかったよな。

...もしここまで来た目的が、本当に俺と桐乃さんを別れさせるための何か材料探しだったら執念深すぎる百合ヤンデレだな。


「でさ、凛華ちゃんだっけ?」


「...できれば"ちゃん"とは呼ばないでほしい」


「なんでよ?別にいいでしょ」


「私が世界一不快に思っている女性と同じ呼び名で呼ぶのはやめてほしい」


"世界一"って断言しちゃうの?


「じゃあ妹って呼ばさせてもらうね」


その呼び名もどうかと思うか?


「ねぇ妹、あんた率直に言ってこの兄のことが好きでしょ?」


「そうだが?」


人に向かって堂々と実の兄のことが好きだという凛華。

アイデンティティの崩壊もここまで来たらもうおしまいだな。


「だったら、今その兄が絹井桐乃っていう女子と付き合っているのは知ってる?」


ちょっと!?

それは凛華にとっての放送禁止用語と同じですよ!?


「...あまり今その名を聞きたくはないな」


凛華があからさまに不機嫌になる。


「その様子だと重々承知ってわけね。ねぇ、あんたはその状況を受け入れられるの?」


「到底受け入れがたいものではあるが、あの女との関係を断つように強制すると、清人に嫌われてしまう可能性がある」


俺としては兄と彼女を無理やり別れさせるクール系妹も性癖に刺さるから全然OKだぞ!


「だからと言ってこのまま見過ごしておいていいの?この下半身お化けのことだから既成事実を作ったとしても不思議じゃない」


下半身お化け!?

こりゃまた凄いパワーワードが出てきたな。


「...私は決して清人がそんなケダモノのようなことはしないと信じている」


「あんたは学校での兄の姿を知らないだけよ」


いや、別に俺そんな性欲猿みたいな印象なくね。

どちらかと言うと、教室で下ネタを言う勇気すらないただの陰キャという印象しかないだろう。


「それに、こんなことは絶対にないと思うけど、桐乃の方から無理やり迫ってきたらこんな身長ネズミでモヤシ体系な奴が抵抗できると思う?」


多分俺と桐乃さんがガチ喧嘩したら三分もしないうちに、俺は骨抜き (物理)にされるだろうな。


「実は最近私もそれを危険視している。現に実例があったからな」


「えっ、実例ってことは、こいつ誰かに襲われたことがあるの...?」


頼む凛華、その先は言わないでくれ。


「そういった対策として、清人にはまた一緒にスポーツセンターに行ってもらう必要があるな」


もういいですってスポーツセンターは。

凛華のデートのセンスのなさがよくわかりましたから。


「まぁいろいろと言ったが、将来的に私と清人が結ばれることは確定している。これは天命なのだ」


うわー。

次はクール系中二病ヤンデレ妹にでもなるつもりか。


これにはさすがの菊島さんも引くと思ったのだが...


「そ、そうそう天命よねw 妹とこいつが愛し合うことはもう決まってるものねw」


草をはやしながら焚きつけている。

そうか、菊島さんからしたら俺と桐乃さんが別れることでミッションが完了されるのだから凛華の妄想を煽る方が効率がいいのか。


そんな高校生がするにはずいぶん奇妙な会話をしていると、もう最寄り駅に着いた。


「じゃあね濡髪とその妹。二人の愛が成就することを願っているわw」


菊島さんは、改札を出て俺たちとは逆方向に消えて行った。


あいつ...最後まで草を生やしていたな。


夜の街道を凛華と二人っきりで歩く。


今凛華は真夏のなかジャージを着ているのだからさすがに汗をかいているのかと期待していたが、それらしき匂いは全くしない。


「どうした?私の体をじっと見つめて?もしかして、さっきの会話のような関係になりたいのか」


「Yea...い、いや」


危うくYeahって言いそうになった。


そこからは若干凛華が俺の体に密着するような形で歩き始めたが、やはり汗特有のあの湿った感じはしなかった。


「ただいまー」


家に着き、二人で玄関に入る。

もう夜の八時を過ぎているため、今はリビングで夕食を食べている頃だろう。

まぁおそらく歩歌がはいないと思うが。


「風珠葉ー?」


リビングには案の定歩歌の姿はなかった。

そして風珠葉はというと。


「...?」


なにやら安心しきった様子でコンビニ弁当を食べていた。

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