試合の応援

「...朝早すぎだろ」


桐乃さんとのお泊り会が終わったと思ったら、そこから数日もしないうちに今度は凛華の関東大会が始まった。

応援しに行くと言ってしまった以上、行かないわけにはいかないため、こうして朝早く電車に乗っている。


本当だったら風珠葉も一緒に行くはずだったが急遽予定が入ったらしい。

...最近少し精神がつかれているのではないかという疑念もあるため、その用事とやらでしっかりと休んでほしい。


にしても桐乃さんと妹たちを混ぜると危険だということがあのお泊り会で嫌というほど身に染みた。


まず、あの気が弱い風珠葉が何のためらいもなく桐乃さんに暴行を加えようとしたこと。

歩歌が桐乃さんを煽りまくって、結果的に気絶?させられたこと。

凛華は...平常運転だったな。


「もう気絶だなんてホントだったら傷害事件もんだろ」


あのとき前みたいに叫ばなかった俺の判断は合っていたということか。


回想しているうちに、電車は目的の駅に近づいてきている。


「...もう本当になんもないな」


電車から見る景色は、山と畑しかない。

おそらくもう聞いたこともなさそうな名前の市に入っている頃だろう。


「...帰りたい」


幸い、大会は今日一日で会わるため、宿泊などの心配はない。

ただ、帰りは今よりももっと疲れているため、余計電車に乗っている時間が長く感じるだろう。


「あーやばい。眠くなってきた」


ここで寝たら、結局駅を通り過ぎて、終点で起こされるというのがオチだ。


もしそれで俺が凛華の試合を見損ねたら...

少ししか想像しなくても、俺が気絶以上のことをさせられるのは確定している。


「...この駅だな」


何とか一回も目をつむらずに、会場の最寄り駅で降りる。


会場は駅から意外と近く、そういった面ではかなり立地がいいと言える。


駅から近いと言っても、その駅がほぼ無人駅なのだから山の中にあるのには変わりないが...


「はぁー、はぁー、はぁー」


喘ぎ声にも聞こえる吐息を漏らしながら、何とか坂道を登り切る。


「田舎な上に熱いとか、もう生きてる心地がしないな」


だが、そんな状態も長くは続かない。

坂道を上り切ったところで、もう会場は見えてきた。


「ふー、ようやく涼しくなったな」


会場である武道館の前に着き、受付を済ませて中へと入る。


やはり関東大会ということだけあって学校にある武道館の何倍も大きい。

これだけ大きかったら凛華の姿も見つけられないな、うん。


俺は早々、試合前の凛華に会うことを諦め、観客席へと移動する。


朝早いということもあり、まだ観客席はさほど埋まっていない。


人との間隔を保つため、俺は一番人気がないであろう端に座る。


確かに端だと試合が見えにくいというデメリットもあるが、その分武道館全体を見渡せる。


「...やっぱり全員凛々しい顔してんなー」


さすがは女子剣道大会。

選手はさほどが凛華ほどではないが、凛々しい顔をしている。


もしここに俺の元同志たちを連れてきたら、観客席があっという間に満員にあり、さらに、プールの塩素の匂いが会場全体に広まることだろう。


「あれ、あんた」


そんなくだらない妄想をしていたら、これまたよくクラスで聞き覚えのある声がした。


「濡髪じゃない。妹の応援にでも来たの?」


そう言って俺の隣に座るのは桐乃さんとの百合候補である菊島佳林だった。


「えっと、菊島さんはなぜここに」


「わ、私は姉の」


姉?

これは高校生の部であるはずだが。


「も、もうそんな細かいところはどうでもいいの!」


菊島さんが可愛く大胆に話を逸らす。


「それよりもあんた、今日あのA組の妹の応援に来たのよね?」


「そ、そうだけど」


「そんなに妹想いならもういっそ桐乃じゃなくて妹を選んじゃえば?」


おーこれはなかなかの大胆な行動に出ましたねー。


「なんだかんだ言ってあんたとあの妹って正反対過ぎて逆にお似合いだもの」


まぁそれは薄々俺も思っていたことではあるが、菊島さんの場合は俺と桐乃さんを引きはがすために口から出まかせを言っているだけだろう。


「それでさ、あんた、桐乃を家に泊めたんだって!?」


いきなりドスの利いた声に変わる。


「まさか...部屋で何かいやらしいことしたわけじゃないでしょうね?」


「さ、さすがに妹もいるのにそんなことできるわけないだろ!?」


実際は一緒のベッドで寝たりキスしたりはしたんですけどね。


「はっ!?さてはあんた、妹も混ぜて3Pしたんじゃ...」


「女子が話す内容じゃないな...。あと、一応家には妹が三人いるんだから正確に言えば5Pな」


あ、つい心の声が。


「は?」


「い、いや...それは俺がもし全員を巻き込んだらの話で...!?」


菊島さんが俺の”玉袋”を掴もうとしている姿を見て、続きの言葉は吹き飛んだ。


「あんた、ホントにこの玉袋握りつぶすわよ...?」


やばい、目がマジだ。


「は、はい。すみません...」


ちなみに、菊島さんに潰すと脅されたときはあまりの恐怖に萎えてきたが、徐々に菊島さんが俺の玉袋を握るという絵図らを想像してしまい、凛華の試合で応援している途中に、俺のズボンが大きなテントを張っていたというのは内緒だ。

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