彼女の本音

「ふー、て、え、桐乃さん!?」


風呂から出てると、洗面所に桐乃さんが待ち構えていた。

幸いタオルを見に包んでいるため、裸を見られるということはなかったが。


「なんだ。清人君、タオルを身にまとって出てくるんだね」


「ま、まぁ一応風呂から出た瞬間に妹と出くわすかもしれないからさ」


それにしても...


「き、桐乃さんのパジャマ姿はよく似合っているよ」


「そう?清人君にそう言ってもらえるなんて嬉しいな」


桐乃さんのパジャマは全体が薄ピンク色で、イラストが何も描かれていない。

絵が描かれていないからこそ体のラインとかが少し透けて見えている。


「じゃあ部屋まで戻ろうか。またいつ歩歌ちゃんが襲ってくるから分からないからね」


桐乃さん目線では、もう歩歌は立派なレイプ魔になったらしい。

いや、この場合逆レイプ魔か。


部屋に戻ると、勉強机に桐乃さんのテキストが置かれていた。


「清人君っていつも寝る前に勉強するタイプ?」


「いや、寝る前だと睡魔で勉強に集中できないから基本的にはしないかな」


嘘です。

ホントは性欲が襲ってきます。


「そうかー。せっかく清人君と勉強するために清人君に合いそうな参考書持ってきたのになー」


「......」


もう遠回しに一緒に勉強しろと命令されているようにしか聞こえないんだが。


「え、これって小論文の参考書?」


「そうだよ。だって清人君推薦狙いでしょ?だったら文系科目じゃなくて小論文を最優先にしなきゃ」


まさかそこまで考えてわざわざ買ってきてくれたのか...


「分からないことがあったら何でも聞いてね。わたしは小論文も得意なんだから」


もう桐乃さんにおんぶりだっこ状態だな。


そのあとは桐乃さんとひたすら勉強に集中した。


桐乃さんは俺とは違い文系三科目を解いていたが、しっかりと俺の小論文の添削もしてくれた。


「そろそろ眠くなってきたねー」


気づけばもう深夜一時を過ぎていた。


「桐乃さんもう寝る?」


「そうさせてもらおうかな。清人君も一緒に寝よ?」


「も、もちろん喜んで!!」


素早い動作で部屋の明かりを消し、桐乃さんに連れられてベッドに横になる。


「///////」


完全に桐乃に抱き着かれる形で横になる。

そして俺よりも桐乃さんの方が身長が大きいため、俺の顔は桐乃さんの予想よりも大きい胸に直撃している。

この胸に俺の顔だけじゃなくてムスコも挟んでほしいです//


「...凛華ちゃんにキス以上のことはするなって言われたよね?」


「う、うん、確かそう言ってた気...んっ」


その先は桐乃さんの唇が塞いだ。


随分クサイ表現だが、桐乃さんとのキスは優しさを感じる。

昨日の歩歌のむさぼるようなディープキスとは違い、しっかりと俺へのリスペクトを感じさせる純愛に溢れたキスだ。


「...ねぇ、そういえばまだわたしが清人君に惚れた理由話してなかったよね」


そういえばそうだった。

確か告白されてその帰り道に桐乃さんがそれっぽいことを話そうとしたが、話す前に家に到着してしまったため、中断されたんだった。


「はっきり言えば、一目惚れだったんだ」


一目惚れか...確かに同じクラスになる前は一切関わりがなかったのだから、一目惚れ意外に馴れ初めになる話がない。


ただ、一目惚れ?

俺ってまさかイケメンコミュ障なのか!?


「あれは入学してからすぐのことかな。清人君、一回陸上部の仮入部に来たでしょ?」


そういえばそんな記憶がある。

凛華に必ず一回はどこかしらの運動部の仮入部に行くよう言われて、渋々行ったのが陸上部だった。


そういえば、あのときやけに顔が整っている女子がいるなと思っていたが、そうか、あの子が桐乃さんだったのか。


「仮入部のときの内容覚えているかな?最初に一年生だけでアップやタイムを測ったりして、最終的には先輩たちに混ざってリレー対決したでしょ」


あーはいはい。

だんだんと記憶が蘇ってきた。


「あのとき、わたしと清人君は同じチームだったよね。それで、確かわたしがアンカーで清人君がその一個前だった。わたしが足速いのはかなり有名だったから先輩もまだ仮入部であるわたしをアンカーにしてくれたの」


...今にして思えば、アンカーの一つ前とか前菜でしかないやん。


「ちょっと失礼な言い方しちゃうけど、清人君はあまり足が速い方じゃなかったよね。それまで早かったうちのチームが、清人君にバトンが渡されてからどんどん抜かされていっちゃうし」


やめてくれ...忘れようとしていたトラウマが蘇ってくる。


「でも、清人君は決して諦めようとはせず、凄い汗をかきながらもわたしにバトンを渡してくれた。周りもそんな清人君の一生懸命な部分を見て誰一人嘲笑したりしなかった」


一応言い訳させてもらうと、あのときは桐乃さんの顔があまりにも好み過ぎてムスコが元気よく反応してしまい、それを足で必死に隠すことを意識していたから遅かった。

まぁ、おそらく全力で俺が走れてたとしても結果は変わらなかったと思うが。


「わたしね、人が一生懸命努力しているのを見たのあれが初めてだったんだ。わたし小さし頃から、英才教育って言うのかな...?そういうのを受けさせてもらっていたから、ある程度周りもレベルが高い人たちで、努力はしているんだけど、強者の努力っていうか...あまり辛さを感じられなかったんだよね」


つまり才能ゲーってやつか。


「でも、清人君は違った。ネズミがトラップに引っかかってそこから抜け出そうとするぐらいの辛さと必死さが感じられた」


あの...ちょっとたとえが


「そんな姿を見させられたら、なんだかときめいちゃってさ...。でも、結局清人君は陸上部には入らなかったし、違うクラスだったから誰かさえ分からなかった。

でも、この前の始業式の日にクラスに入って清人君の顔を見たときにあのときの記憶が蘇ってきて...」


それで勢いのまま告白してしまったということか。


「本当は清人君が必死になって努力する姿が見たくて、最初は何か意地悪しようかなとか考えていたんだけど...こんな可愛い清人君の姿を見たらそんな気が失せちゃった」


俺のほっぺを優しく触り、また唇を重ねてくる。


重ねられながら、興奮するのと同時に新たに一つ分かったことがある。


桐乃さんが結構腹黒い性格をしているということ。

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