食卓(全員参戦)

あれから俺と桐乃さんは夕食ができるまで部屋でゲームに熱中していた。


「...もうこんな時間か。桐乃さん、そろそろ夕食ができる頃だと思うから下に降りよう」


「夕食か...できれば清人君と二人だけで食べたかったなぁー」


まぁそれは俺も思う。

恐らく家族全員で食べさせるというのも、凛華の戦略だろう。


桐乃さんと共に一階に降りる。


リビングに入ると、食卓には五人分の食事が置いてある。

メニューに関してはいつもと変わらず、強いて言うなら魚が肉になっていることか。


それよりも俺が驚いているのはしっかりと五人分の食事が置かれているということ。

凛華が歩歌を他人扱いしてからは一度も歩歌分の食事を作らなかったのに...


俺はすでに席についている凛華に声をかける。


「凛華、風珠葉は?」


「風珠葉なら歩歌を呼びに行かせたぞ」


凛華がわざわざ風珠葉に歩歌を呼びに行かせた!?


どれぐらいありえないかと言うと、俺がソロ夜の営みで快感を長く保つための寸止めを一回もしないぐらいありえない。


「ほら、歩歌ねぇ、入って」


風珠葉に続いてリビングに入ってきた歩歌はすぐに桐乃さんの存在に気づき、目に敵意を...いや、殺意を宿す。


「…なんでアンタがここにいるわけ?」


「いつも塾でお世話になってるね歩歌ちゃん」


殺意を浴びながらも、桐乃さんは笑顔で接する。


「ちゃん付けで呼ぶなと言っているでしょ。ねぇ、兄さん、これは一体どういうこと」


「それが」


「今日は清人君の家にお泊りさせてもらうことにしたんだ」


俺より先に桐乃さんが答える。


「...ちなみに、それは兄さんとこのセフレ女、どちらから言い出したの?」


「わたしから清人君にお願いたよ。それよりも、セフレって何かな」


さっきまでずっと笑みを保っていた桐乃さんから、文字通り表情が消えた。


「はぁ?そのままの意味だけど?アンタは兄さんからしたらただのセフレに過ぎないのに、自分が恋人ポジションにいると思い込んでいるただのイタ女でしょ」


「おい、それは違うぞあゆ」


「兄さんは黙ってなさい!!!!どうせこのセフレから体関係をバラされたくなかったらわたしと恋人関係になれとか言われて脅されているんでしょ」


今日はいつも以上に饒舌ですね歩歌さん。


「...ねぇ凛華ちゃん、ホントにきみはちゃんと妹たちを教育しているのかな?」


「まぁまぁ落ち着け。歩歌も、大事なお客さんに向かってそんな汚い言葉を使うな」


「は?お客さん?この女が?それとアンタなんで他人であるあたしにそんな馴れ馴れしい口調ができるの?」


「今日ぐらい大人になれ。お客さんの目の前でお前と私の子供じみたくだらない喧嘩を続けるわけにはいかないだろう」


「...子供じみたとか言っているけど、一番意地になっていたのはアンタじゃない」


あ、今のは正論やな。


そこからもまた歩歌のマシンガントークが繰り広げられると予期していたが、そこからは何も言わず、席に着く。


「ほら、清人と桐乃さんも席に着け」


さて、この場合どこに座ろうか。


空いているのは凛華の隣の二席だけ。


ここは真ん中に座るべきか。


「あ、いいよいいよ清人君。わたしが真ん中に座るから」


俺が席に着くよりも早く、桐乃さんが真ん中の席を制圧した。


「すまないが桐乃さん、貴女は少し常識に欠けているようだな」


「それはどういう意味かな凛華ちゃん」


今度は凛華から何か桐乃さんとの言い合いの火種になるようなことを言い出すのか?


「こういう女二人と男一人の場合は、女が男を挟むのが普通だろう」


え、そんなご褒美としか言いようのない常識があるの!?

よくM向けSSのタイトルに付けられる未だに正しい読み方が分からない"嫐"という漢字がまさに当てはまるな。


「うーん多分それはきみの創作常識なんじゃないかな」


創作常識?

これも初めて聞いた言葉だぞ。


「凛華ちゃんにとってわたしは大切なお客さんなんでしょ?ならそのお客さんこそ間に挟むべきじゃないかな」


「お客さまにそんな窮屈な思いはさせられない。分かったのならどうぞ端に」


「あのね凛華ちゃん、こういう言い方したくはないけど、それはただ大好きな清人君の隣にいたいきみの苦し紛れの言い訳じゃないかな?」


「清人の隣にいたいというのは事実だ」


「...へぇー。認めるんだ」


「認めるも何も私の愛しい清人の隣にいたいと思うのはおかしいことなのか?」


「...愛しい、ね」


ちょっとちょっと!?

なんかまた警察沙汰になりそうな雰囲気なんですけど!?


さっきから風珠葉がどうにかしろと目で訴えている。

ここはまた俺が一肌脱ぐしかないな。


「き、桐乃さん。べ、別に俺が真ん中に座っても桐乃さんと隣なわけだしさ」


「......」


桐乃さんが無表情のまま視線を凛華から俺に移す。


もう完全に恐怖映像で出てくる顔がひとりでに動く人形ですやん。


そんな無表情も長くは続かず、次第に可愛い困り顔に変わっていった。


「...清人君がそう言うのならいいけど...」


「なら決まりだな。ほら清人、座れ」


結論が出たところで、俺が凛華と桐乃さんに挟まれる形で座る。


「「「「「いただきます」」」」」


五人全員で合掌し、食事が開始する。


これでやっと飯にありつけると思ったら


「ねぇ、凛華姉さん」


「...お前にそう呼ばれるのも久しぶりだな」


歩歌が嫌味な笑みを浮かべて凛華に話しかける。


...なんかとてつもなくいやな予感がするぞ...


「アンタさっき兄さんのこと愛しいって言ったわよね?」


「ああ、私は清人が愛おしくてたまらない」


なんだか隣からの視線も怖いが、それよりもここからの歩歌の言動の方が不安だ。


「だったらごめんなさいね。あたし、そんな愛しい兄さんの唇奪っちゃったわ」

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