仲介者

「ん?貴女は確か桐乃さんと言ったか」


「そういうきみは凛華ちゃんだよね。久しぶり」


凛華は桐乃さんがいても特に慌てる様子もなく冷静を保てている。


「そう慣れ慣れしくされるほど、貴女と友好関係を築けていたとは思えないが...まぁ、それはいい。ところで、なぜ貴女が清人の部屋にいる?」


あ、今完全に鞭モードに切り替わったな。


「今日は清人君の部屋に前から泊まろうって約束してたんだ」


「...私は何も聞いていないが」


いやだぁ凛華さん。

そんな怖い顔でこちらを見ないでくださいよ、

俺もそれが今日だとは知らされていなかったんですから。


「まぁそれはあとでたっぷりと清人に尋問するとして、さっきまで何かを揉めていたようだが?」


ようやく本題に入る。


「それがね、さっきまでわたしと清人君が仲良くゲームしていたら、突然そこの風珠葉ちゃんが部屋の入ってきて、"家から出てけ"とか言って大騒ぎし始めたんだ」


「...それは本当か風珠葉?」


風珠葉はただ俯くだけで答えない。

まるで両親に叱られそうになって大人しくなる子供みたいになっている。


「ところで、凛華ちゃんは次女だよね?」


「そうだが、それが何か?」


「今から長女を呼んできてもらえないかな?」


「申し訳ないが、長女は女子高の寮生であるからやすやすと家に呼ぶことはできない」


「ってことは、実質きみがこの家の責任者ってことでいいかな?」


「そういう認識で構わない」


いやいや俺は!?

一応俺この家の長男ですけど!?


「ねぇ、きみはいつも妹ちゃんたちにどういう教育をしているのかな?」


「...なにか気に障ることでもありましたかな?」


「ありまくりだよ。さっきも言ったけどここにいる風珠葉ちゃんは二回もわたしと清人君のマルチプレイを妨害してきて、さらに前はいきなり私につかみかかってきたんだよ?」


言っていることは事実なので風珠葉は何も反論できない。


「それともう一人の歩歌ちゃんだっけ?あの子はなんかいっつもわたしに喧嘩腰で、塾でわたしと清人君がいちゃついているのを邪魔したりしてくる」


あれはいちゃつきなのか...?


「これも全部きみの普段からの教育が行き届いてないからじゃないのかな?」


「......」


風珠葉は黙って桐乃さんの話を聞いていた。


「...それはすまなかった。少なからず、妹たちが貴女に迷惑をかけたことには謝罪しておくとしよう」


「少なからず?これのどこが少なからずなのかな?」


桐乃さんはまだ納得していない様子だ。

でもまぁ桐乃さんの怒りも理解できる。


「だが、私は貴女にも問題はると思ってる」


凛華からの予想だにしなかった一言で、部屋の温度が下がったのを感じだ。


「...わたしのどこに問題があるのかな?」


「それは、貴女が清人の恋人だというつまらない冗談を吹聴しているところだ」


あーちょっとそれは今一番触れてほしくないことかな...


「冗談?何言ってるの?わたしと清人君は正真正銘の恋人同士だよ」


「行き過ぎたジョークはつまらなくなることを知らないのか?」


「きみこそ、いつまで現実から目を背ける気?」


おいおい、どんどん話が泥沼化していく予感しかしないぞ。


「それときみ自身にも何も問題がないわけじゃないからね」


「ほう、聞こうではないか」


「きみはことあるごとにわたしと清人君の登下校を妨害してきているよね?しかも一回わたしのことが誰か忘れたみたいな演技をして」


「...本当に誰か分からなかったのだが...」


「だからそういう下手くそな演技がわたしを不快にするっていい加減学習してくれないかな」


どんど桐乃さんの口調が荒くなっていってるな。

でもそんな桐乃さんも好きだよ。


「はぁー、それにしても何の面白みもないジョークだ。貴女が清人と恋人関係だと?実につまらん」


「つまらないも何も、事実だよ?なんできみはそうやってかたくなに拒否しようとするの?」


「貴女こそ、いつまでその冗談を突き通すつもりだ?」


二人は互いに詰め寄る。

これは前に俺が頭の中に妄想していた凛華と桐乃さんの強さ議論の結果が出るか?


だが、俺の予想は外れ、凛華は一歩引く。


「とりあえず、今日は我が家に泊まるのだろう?ならゆっくりしていくがいい」


「...意外だね。きみはてっきり風珠葉ちゃんと同じように意地でもわたしを追い出そうとすると思っていたのに」


「なに、どうせ最終的に清人と私との愛が成就することは確定事項なのだから。それまでの間、清人の女遊びの一つや二つ、目をつぶったとしても損はない」


「...今の発言、どういう意味かな」


「どうとらえるも貴女次第だ。これから私は夕食を作ることにする。なにせ、今日は一人分多く作らなければならないのだからな。おい、風珠葉。罰としてお前は今日一緒に私と夕食の準備をしろ。それと清人。夕飯を食べ終わったら私の部屋に一人で来るように」


「「...はい」」


二人して返事をすると、凛華と風珠葉は部屋から出て行った。

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