乱入者

「えーっと、たしかきみは風珠葉ちゃんだよね」


まずい。非常にまずい!


確かにさっき一階のドアが開く音が聞こえたが、そのまま二階に上がってくるとは。


「......」


風珠葉はただただ押し黙る。

だが、その目はなんだか赤くなっているように見える。


「今はきみのお兄ちゃんである清人君と一緒に仲良くゲームしているところなの。だから、出て行ってもらえるかな?」


「......」


桐乃さんは風珠葉が涙目になっているのを見ても容赦しない。


「それとも、また前みたいに無理やりゲームコードを抜いたりでもする?」


「......」


「確か、前に帰り道できみに会ったときに言ったと思うんだけど、あのときは本当に迷惑したんだよ?わたしと清人君が二人で楽しく通信してたのに、きみが一方的にコードを抜いちゃったんだもん」


「......」


「あの後はきみの代わりに清人君が謝ってくれたんだけど、まだきみからの直接的な謝罪をもらってないんだけどなー」


まだ根に持っているのか桐乃さん。


「ほら、ごめんなさい、は?」


「...け」


「なに?もう少し大きな声で言わないと聴こえないよ?」


「出てけ!!!!!!!!」


風珠葉が充血した目で桐乃さんを睨み、ありったけの声で叫ぶ。


「あれ?今回はただただ叫ぶだけなのかな?前みたいに飛びかかったりしないの?」


「だまれ!ここは、オマエなんかがいていい場所じゃない!!!!」


「罵声を浴びせるだけじゃ伝わらないよ。ほら、前みたいに手を出してきなよ~」


挑発するような言い方をしているが、桐乃さんの表情は全く笑っていない。

恐らく二回もゲームを中断させられて、桐乃さんも相当イラついているのだろう。

風珠葉が掴みかかってきたら、前みたいに躱すだけではなく、カウンターを決めてくる可能性だってある。


「お、落ち着け風珠葉!桐乃さんのもあんま煽るようなこと言わないでくれ」


「何言ってるの清人君?わたしは至極当然のことを言っているだけだよ?それなのになんで風珠葉ちゃんの味方するのかな?」


「いや、別に味方しているわけじゃなく」


「お兄ちゃん...わたしの味方じゃないの」


必死に体を押さえている風珠葉が涙目で俺を見上げる。


「...ぐっ」


相変わらずこの目には敵わない。


「清人君はわたしとのゲームよりも、風珠葉ちゃんを優先するんだ...」


「だからそういうわけじゃな」


「当たり前じゃん!お兄ちゃんはオマエなんかより、わたしの方を大切にしてくれるに決まってる」


「...風珠葉ちゃん、ちょっと一回黙ろうか」


あ、ガチなトーン来た。


「ほら、さっさと出て行けよこの不法侵入者」


「...今までは清人君の妹ちゃんってことで許していたけど...そんな言い方をされるともう堪忍ならないよ」


静かにこちらに近づいてくる桐乃さん。


「き、桐乃さん、と、とりあえず落ち着きませんかね」


「清人君、そこどいて。きみの代わりに妹ちゃんをわたしが躾けてあげるよ」


し、躾って//

もしかして、ドS百合展開来たか...なんて妄想している場合じゃねぇな。


「お兄ちゃんに近寄るな!オマエの汚い菌がうつる」


「あはははは...。全く可愛げがなくて頭を使ってない煽り方だね」


今の”あはははは”とか恐怖でしかない。


「ほら、清人君どいて」


「き、桐乃さん...躾って何を...」


「何って...もう二度とわたしに対して舐めた言い方をできなくするまで可愛がってあげるだけだよ」


もしこれが俺に言われた言葉だったら、今俺のムスコはズボンを突き破るぐらい急成長していただろう。


「いいから早く出てけ!!!オマエがいるだけでこの部屋が腐る!」


「清人君、早くそのふざけた口を塞ぎたいから...どいて?」


もう桐乃さんは目の前にいる。

その瞳は今まで以上に冷たい。

これ以上邪魔するのならお前でも容赦はしないと警告しているかのようだ。


よし、逃げよ。


俺は今後ろにいる風珠葉を抱きかかえ、そのまま一階に降りて外に避難しようと試みる。


「風珠葉、逃げる」


ぞ、と言おうとしたとき、部屋のドアが開いた。


「おい、うるさいぞ。さっきからなにを騒いでいる?」


そこにはこの状況では救世主とも言える凛華様が立っていた。

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