招かれざる客

「...暇やな」


いつものごとく自室で引きこもっている。


本当は今日塾がある予定なのだが、昨日あんなことがあったのに、のこのこと桐乃さんと歩歌のいる塾に行けるわけがない。


「//」


歩歌とのディープキスの感覚はまだ残っている。

あのぬるっとした唾液と舌の感触…//


もし、今日歩歌と桐乃さんと俺の三人が出会ったら、歩歌が昨日のことで桐乃さんにマウントをとりかねない。


「やっぱり休むのが一番の得策やな」


かといって一人で勉強するのかと聞かれれば、そう言うわけでもない。


俺の評定から見て、どこかの推薦は取れることがほぼ確定しているので勉強する必要がないという気持ちが本音である。


「風珠葉も凛華もいないな」


風珠葉も凛華も今日は部活だ。


凛華は以前自身を見つめ直すということで、しばらく部活を自粛すると言っていたが、さすがに関東大会が近づいてきているためそういうわけにもいかなくなったのだろう。


「飲み物持ってくるか」


重い腰を上げ、一階まで降りる。


「......」


誰もいないリビング。

そんなリビングを見てみると、自分は今自由だという気持ちが高ぶってくる。


あれだ。

放課後の誰もいない教室で暴れたい的なやつ。


「よし!」


その欲求がどうしても抑えられなかった俺は上半身裸になる。

こうしてみると俺めっちゃヒョロガリやん。


「うりゃああーーー!」


そのままソファーにだいぶする。


やばい。誰もいないリビングで暴れるの気持ちよすぎる...


「うぉッほい!」


今度は奇声を上げながら食卓の上に寝転ぶ。


いつもなら絶対にできないことをすることで日ごろのうっぷんが晴れる。


「......」


いや、冷静に見たら俺何やってるんだ?

誰もいないリビングで一人で暴れて。


「なんか虚しいな」


一人そう呟き、脱いだ服を拾おうとしたとき


「ん?」


家のインターホンが鳴った。


毎回思うのだが、このインターホンの音、スマホの通常アラームと同じぐらい不快すぎる。

なんでこんな不協和音を採用したのか。


どうせ宅急便だろと思い、モニターを確認せずに玄関のドアを開ける。


「はーい、ハンコならあり」


「あ、きよ...え、な、なんで上半身裸なのかな?」


ドアの向こうには、門の中まで入ってきている桐乃さんがいた。


「き、桐乃さん!?なんで?」


「それはこっちのセリフだよ清人君。なんで上半身裸なのかな?」


「え、上半身裸...?」


言われて気づいた。

服を拾っただけで着ていない。


「ねぇ、もしかして今家に妹ちゃん以外の誰かがいるのかな?」


また桐乃さんから冷たいオーラが出ている。


「い、いや、今日は妹たちは全員部活だし、今家には俺しかいないよ」


「じゃあなんで服着ていないの?」


多分桐乃さんは今、家の中に俺の浮気相手がいて、そういう行為をしていた途中だと思っているな。


「これは...その、熱かったというか」


「熱かった...つまり汗をかいてたってことかな?」


そうなんだけど桐乃さんが想像しているのは違う意味での汗をかくだな。


「とりあえず中に入れて」


「は、はい、どうぞ...」


もうこれは実際に家の中を見てもらって俺の潔白を証明しなければ。


というかさっきから桐乃さんが手に持っているスーツケースが気になる。


何だか嫌な予感がするぞ...


桐乃さんを玄関に通すと、まず靴を確認し始めた。

しっかりとシューズラックも確認する。


「特に怪しいのは置いていないかな」


それ、聞こえないように言っているのなら、だいぶもろに聞こえちゃってますけど?


そこからは探偵のように桐乃さんは家の隅々まで探索した。


廊下の隅、トイレ、リビング、階段、二階の廊下、二階にあるすべての部屋、三階への階段、三階の長女の部屋。


俺はその間玄関に待たされたに待たされた。

恐らくその場で証拠を隠蔽したりするのを防ぐためだろう。


ちなみに、長女の部屋は完全に鍵が掛かっており、俺たちでさえ入ることができないため、物音がしないかドアの前で聞き耳を立てていたらしい。

…そこまでする?


「一通り調べ終わったけど、妹ちゃんたち以外の女の痕跡はなかったね」


桐乃さんが降りてくる。


熱い玄関にかなりの時間待たされていたため、本当の意味での汗でもうべたべただ。


「ごめんね清人君、疑うような真似しちゃって」


「いや、今回は普通に服を着ないまま外に出てきた俺が悪いんだからさ」


桐乃さんを一階のリビングに通す。


「にして本当に広い家だよね。清人君の部屋とか三人ぐらい過ごせそうだよ」


「そりゃどうも。何か飲む?」


「じゃあお茶をもらおうかな」


余ったコップに、冷蔵庫の中にある緑茶を注ぎ、桐乃さんに提供する。


「ありがとう清人君」


渡されたコップをゆっくりと飲む桐乃さん。

もう飲み方も一流って感じがする。


「で、今日はどんなしたのかな」


「え?前に言わなかったっけ?一日清人君のお家にお邪魔するって」

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