修羅場への招待

「これ、清人君と凛華ちゃんだよね?」


あの闇が深い瞳で俺のことを凝視する桐乃さん。


さて、どう言い訳しようか。


いや、そもそもこの写真の何が問題なんだ?

ただ兄と妹が二人でファミレスに来ているだけの写真。

ただの日常を写しただけの写真。


桐乃さんも凛華が俺の妹だということは認知している。

ならば、何も問題はないのではないか?


「......」


でもその主張が今のヤンデレのテンプレモードに入っている桐乃さんに通用したら俺もこんなに試行錯誤する必要がないんだよなー。


知っているぞ。

ここでそんな主張をしたら、スタンガンからの監禁エンドだろ。

しっかりとそこら辺はヤンデレシチュボ台本で予習してきている。


「ま、まぁこれはちょっと二人で...お出かけしたときの写真ですね」


「ふ~ん。二人でデートかー、それは楽しそうだね」


やばいやばい。

だんだん声に抑揚がなくなってきて無機質になっている。


「で、デートと言っても、ほら、ただの兄妹だし、少し違う意味のデートだよ」


「違う意味のデートって具体的にはなにかな」


そう訊かれると、言葉が詰まってしまう。


「それに、これがあの凛華ちゃん?清人君の妹っていうポジションにいながら、一ミリも可愛げがないあの凛華ちゃん?そんな凛華ちゃんがこんなメスの顔をしているの?」


そんなこと言ったら、今凛華に対して無意識に (意識しているかもしれないが)毒を吐いているのも本当に桐乃さん?って疑いたくなるが。

あと、メスの顔ってなんやねん。


確かに写真の中の凛華は少し微笑んでいるようにも見える。


これはあれか。

ちょうど俺が凛華の関東大会に応援に行くって言ったときか。


こんな少し微笑んでいるだけでも、桐乃さんの中ではメス顔判定になるのか。


「ま、まぁこのときは俺と久しぶりに運動ができて凛華も嬉しかったんだと思う」


「運動?」


しまった。

余計なこと言わなければよかった。


「実は、この日は二人で条棟スポーツセンターに出掛けまして」


「デートにスポーツセンター?なんか、凛華ちゃんっぽいね(笑)」


今の(笑)は絶対草の方の笑みだっただろう。


「つまり話をまとめると、この日は清人君と凛華ちゃんの二人で条棟総合スポーツセンターに出掛けて、その夜にファミレスにいたってこと???」


「そ、そうだよ」


ここからの桐乃さんの反応にすべてはかかってる。


「......」


桐乃さんは急に黙り、何かを考え込む。


目はこちらを向いたままだが、何となく"見られている"という感覚がしなかったため、今は必死にいろいろと自分の頭の中で考えているということが分かる。


「...確かにね、清人君と凛華ちゃんは兄妹なんだから、二人で一緒に出掛けたりご飯を食べに来るというのは仕方ないと思う」


一応そこら辺の理解はあったのね。


「ただ、最近の凛華ちゃんは完全に兄妹という概念を超えようとしているんだよね。まぁそうとは知らずにあっさりとデートを承諾してしまう清人君の天然さが可愛いところなんだけど」


可愛い頂きました...//


「でも、わたしとしてはやっぱり見過ごせないからなー。そうだ!ねぇ、この夏休みのどこかでわたしを清人君のお家に泊めてよ」


「え?」


「本当は清人君をわたしの家に泊めさせることを考えてきたんだけど、ここは一回妹ちゃんたちに、わたしと清人君がしっかりと恋人関係だっていうことを見せつけないと」


「き、桐乃さんが俺の家に泊まりに来るってこと!?」


「うん、そういうこと」


も、もう完全に修羅場になることしか予想できない...

けど、今の桐乃さんを止めることはできないな。


それに、"見せつける"っていう言い方がまた俺のドM心をくすぐるしな//


「ねぇ、アンタそこで何してるの?」


俺が桐乃さんが濡髪家に泊まりにきたときの場面を想像していると、また上から声がした。


「...また凛華ちゃんに引けをとらないほど可愛げのない清人君の妹ちゃんの登場だね」


「は?あんな女と一緒にしないでくれない?」


もうまた時間食うやつだこれ。


「でもごめんね。もうすぐ授業が始まっちゃうからきみにかまっている場合じゃないんだ。ほら、行こう清人君」


桐乃さんが俺の手を強く掴み、階段を上る。


...やはり病みモードに入ると力が強くなるのは共通なのか。

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