添い寝
「...あ、謝るな」
凛華が恥ずかしそうに顔を歪ませ、俺の体から離れる。
「いてててて」
掴まれていた腕を見てみると、手首が赤くなっている。
ホントにどれだけ力が強いんだ...
「すまない...またお前を傷つけてしまって」
「いや、いいんだむしろ」
いや、さすがに凛華にそういうネタが通じるとは思えないな。
「頭を下げさせてくれ。あの日、お前の首を締めて申し訳なかった」
凛華がベッドの上で正座をし、頭を下げてきた。
「気にするな」
当然それに対する俺の返答は決まっていた。
が、実際に言ってみると恥ずかしいな...
「で、勉強机で何していたんだ?テスト勉強?」
「そんなところだ」
ということは、もし今日俺が来なくても、明日は学校に行っていたということか...?
「情けない話だが...明日の朝、お前たちがまだ寝ている時間に一人で学校に行き、部室に籠って勉強する予定だった」
おいおい、なに俺と同じようなことしようとしてたんだよ。
まぁ俺の場合、籠るのは部室じゃなくて便所だが。
「明日の朝、全員の前で謝罪させてほしい」
凛華が真剣な口調で言う。
正直俺としてはあまり推奨したくない。
というのもここ最近で分かったことだが、歩歌は凛華に想像以上の敵意を抱いている。
もう前みたいに"凛華姉さん"ではなく、"あの女"呼びしているほどだ。
「お前の言いたいことは分かる。私が謝ったところであいつらの怒りが収まる保証はないし、それどころかもっと飛び火する可能性があるということだろう」
「......」
無言でうなずく。
「だとしても、私は実質今この家を預かっている身だ。その私がしでかした過ちに対し謝罪しないというのは無責任が過ぎる」
やっぱり凛華は根っからの真面目だ。
多分俺だったら“俺は悪くない”って言って、逆ギレしていた。
「まぁ凛華がそう言うのなら止めはしない」
「ああ、お前にももう一度誠心誠意込めて謝罪する」
だからもう俺への謝罪はいいって。
「あれ?そういえば」
ここで俺はあることを思い出す。
「なぁ凛華、なんで部屋の鍵開けていたんだ?俺に入ってきてほしくなかったのなら普通は閉めておくだろ」
「!?そ、それはその...」
言いどよみながら、また顔が少し赤くなる。
「やっぱりお前、本当は俺に入ってきてほしかったんじゃ...」
「ち、違うぞ!それだけは断じて違う!」
いや、絶対そうですやん。
やっぱり、口ではそう言っていたとしても、まだまだお兄ちゃんに甘えたかった
「おい清人、お前今何を想像している...?」
わけないですよね。
うん、だから一回その手に持っている竹刀しまおうか。
「そ、それで凛華、明日はテストだが勉強は完璧なのか?」
咄嗟に話題を変える。
「当たり前だ。今は最後の確認をしていたところだ。私が一夜漬けなどするわけがないだろう」
竹刀を床に置き、もう一度勉強机に向き直る。
「だが...もうその最後の確認も何回行ったか自分でも覚えていない」
ホントこの子の集中力どうなってるの?
しかも最後の確認を何回もやるって、言葉的に矛盾してるし。
「と、ところで清人」
「ん?どうした?」
今日は珍しく何度も言葉に詰まるな。
「きょ、今日はもう寝るのか...?」
「え?あー、確かにもうこんな時間だし」
もう深夜の二時を過ぎている。
「自室のベッドで寝るのか...?」
「そ、そうなんじゃないの?」
本当にどうしたんだ?
凛華がそんなことを聞いてくること自体がありえないし、そんなことを聞いてどうするんだ?
「その...よかったら」
「?」
「よかったら...私のベッドで一緒に寝ないか...?」
「...はい?」
凛華と一緒のベッドで寝る...?
「べ、別に変な意味じゃないぞ!」
逆にそういう意味以外に何があるんだよ。
「お前の首も絞めたし、さっきもお前の手首を掴んで赤くしてしまった。だからその癒しと言う意味で一緒に寝ないかと提案しているだけだ」
どいう原理!?
ま、まぁ俺としては凛華と一緒に寝るなんてご褒美だから拒否はしないがな//
「じゃ、じゃあ一緒に寝ます...か」
というか、俺はすでに寝転んでいる。
「で、電気を消す」
宣言通り、部屋の電気を消すと、俺のすぐ横に凛華が横になる。
...近くね?
これじゃあほぼ密着している。
凛華の体温は温かい。
俺よりもだいぶ凛華の方が身長が高く、俺を抱きしめるような体勢をとっているため完全に絵柄が男女逆転している。
…あれ?こう女子と体を抱き合わせて眠るときって胸が背中に当たって男が必死に自身のムスコの成長を抑えるっていうのが王道じゃないの?
なんか全く背中に胸が当たっている感覚がしないのだが。
むしろまない
ってあかんあかん。
その地雷ワードを言って歩歌が死にかけたんだった。
「「......」」
お互い何もしゃべらない。
「き、清人」
しばらく無言状態だったのを凛華が破る。
「夏休み、二人でどこか行かないか...?」
「あ、ああ。それはいいな」
思った以上に緊張しすぎてうまく会話のキャッチボールができない。
てかこんだけ近くで話しかけられるもんだから耳が反応しちまう。
頼むから今は耐えてくれよ俺のムスコよ…
ここで勃ったらさすがにバレる。
「「......」」
必死に頭に浮かんでくる数々の妄想を消しているせいか全然眠れない。
だが、眠れないのは向こうも同じ。
寝息が聞こえないということはまだ起きている。
起きているが会話をしようとしない。
そんな雰囲気なまま、夜は明けて行く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます