謝罪

「...ああ」


やっぱりツンデレ・ヤンデレボイスで目覚めない朝は気持ち悪いな...


「...凛華?」


隣に凛華はいない。

もう起きたのだろうか。


「//」


目を覚ましたことで、体の中に残っている凛華のぬくもりを実感する。


普通男女が一緒に寝るときは男が女を抱きよせるみたいな形になるが、昨日の最後の記憶が正しければ、俺が凛華の体に抱き着き、凛華が俺を引き寄せる形で寝た。


「とりあえず顔洗うか」


凛華の部屋から出て、洗面所に向かう。


「...なんかいつもより顔色良いな」


てっきりasmrで起きていないため、顔色が悪くなっているのではないかと心配していたが、逆に顔色が良くなっている。


「これも凛華のぬくもりの効果なのか...」


自室に戻り、制服を着替え、一階に降りる。


そういえば今日は朝食が用意されているのか?

朝起きた時凛華がいなかったのは朝食を作っていたからだと思うが。

それか結局もう学校に登校したのか。

いや、凛華の性格上それはないな。


などと、階段を降りながらいろいろと思考していたが、リビングに入ると、凛華、歩歌、風珠葉が黙って座っていた。

まるで夕食の時のように。


「お、おはようございます...」


挨拶しながら席に着く。


それぞれの様子を見ると、風珠葉は気まずそうな顔をして、歩歌はあからさまにめんどくさそうな態度をとっており、凛華は静かに目をつむっている。


「え、えーと」


これは食べてもいいのか?

朝食は夕食のときみたいに全員でそろって合掌とかはしないため、もう食べてもいいことにはなっていると思うが。


「食べる前に少し耳を傾けてくれ」


俺がパンを手に取ろうとするのを、凛華の声が制止する。


「先週の土曜日の夜、私はお前たちに姉としてしてはならないことをした」


凛華は全員と目を合わす。


「いや、それ以前にも私は思い上がっていた。自分がこの家の主だと思い込み、自分勝手なルールを強いてきた」


え?そのことも謝罪しちゃうの?


「もうお前たちが私のことを姉として見れないのも無理はないし、他人と思われても仕方ない」


結構言うな...


「でも、それでも、まだ、私を姉として、いや、家族として見てくれるのなら...この朝食に口をつけてもらいたい」


などとなんともクサイセリフを聞きながらも、俺の手はもうすでにパンを握っていた。

こんなの俺が最初に食べるしかないやろ!


パンを手に持ち、大きく口を開け、一気に半分食べる。


それに続き、風珠葉も若干微笑みながらみそ汁をすする。


そして肝心な歩歌だが


「...くだらな」


心底嫌悪感を含みながら一言吐き捨てると、リビングを出て行った。


それにより、俺も風珠葉も固まってしまう。


ただ、凛華は


「よし、食べよう」


特に気にすることなく、食事を開始し始めた。


今、どういう想いで凛華が食事をしているのかは分からない。

ただ、少なくとも歩歌のことをまったく気にしてないということは...あれ?


「我ながらこの目玉焼きは美味しいな」


なんかいつもより清々しいほどに早食いしてない?

これ本当に歩歌のことを気にしてないんちゃうか?


確かにさっきは全員の目を見ながら謝罪していたが、主に俺と風珠葉の方を見ていた気がする。


「風珠葉も今日からテストか?」


「う、うん」


「そうか。なら、お前が納得する点数をとれ」


あ、でもしっかりと丸くなってるな。


前までだと"濡髪家の名に恥じないような点数をとれ"とか言っていたのに。


ってことはもう凛華に成績見せなくていいいてこと!?

それだけでだいぶ肩の荷が下りるぞ。


「あ、やばい」


そうだった。


今日は朝早く行って一緒に桐乃さんと勉強しようって約束してたんだった。

もうそろそろ家でないとあかんな。


「ごちそうさま」


幸い今日の朝食の量は少なかったため、もう食べ終わった。


「清人、もう行くのか?」


「ああ、早く行ってテスト勉強しようと思ってな」


「一人でか?」


なんだろう。

もう流石にあんなことをしないとは思うが...

いや、ここは凛華のことを信じよう。


「いや、桐乃さんと」


「?誰だそいつは?」


...ん?聞き間違いか?


「いや、だから桐乃さんと」


「桐乃?お前の友達か?」


え?記憶を失っている?

もしかして凛華の中では桐乃さんの存在がデリートされた?

憎い女の存在ごと記憶から抹消するとかヤンデレあるあるやないかい!


「ま、まぁとりあえずもう行ってくるわ」


急いで二階からバッグを持っており、逃げるようにして家を出て行く。

もしかして俺の朝食を食べ終わってから玄関を出るRTAが更新されたかもしれない。

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