目に広がる闇
「それで兄さん、いつ捨てるの?」
まだこの質問してくるのかよ。
「捨てないし、まず桐乃さんは彼女な」
「あたし相手に嘘をつく必要はないわ。恐らくあのセフレ女に脅されてるのよね?一回限りの関係だと約束したのに、あとから急に脅されて」
そういった展開が俺の好みだが、断じて桐乃さんにセフレ役は似合わん!!
可愛すぎる声の女性が、ヤンデレドS役のボイスを担当するのと同じぐらい似合わん!
「だから、桐乃さんとは健全な彼氏彼女の関係なんだって」
「兄さん、そろそろ冗談を言うのもいい加減にしてもらっていい?」
歩歌の声が若干低くなる。
これ以上怒らせてはいけないと、俺のムスコが警告しているが、このまま桐乃さんはセフレだというデマ情報をうのみにされてしまっては困る。
「いや、これは冗談なんかじゃない。桐乃さんと相思相愛で付き合っている」
今度はまっすぐ歩歌の目を見ながら告げる。
俺がそう言った瞬間、歩歌の瞳の中の"闇"が広がった。
「...兄さん、相思相愛って言うのは何かの比喩表現じゃなくて」
「ああ、そのままの意味だ」
ちょっと恥ずかしいな...
「ふぅー」
歩歌の息を吸う音が聞こえた途端。
「「!?」」
テーブルに衝撃が走った。
「「......」」
俺と風珠葉は二人してがくがくと震える。
まさか歩歌が突然台パンをかますとは思わなかった。
しかも実況者の切れ芸のときとちがい、鈍い音が響き渡った。
「兄さんに彼女!?嘘でしょありえない」
何かを呟きながら何度も何度も台パンを繰り返す。
当然何度も台パンをして、痛みが走らないわけもなく、殴った個所にどんどん歩歌の拳の血が付着していく。
「ちょ、ちょっと歩歌ねぇやめなよ!」
そんな様子を見て、風珠葉が慌てて歩歌の拳を抑える。
だが、風珠葉のか弱い力では歩歌の拳を止めることはできない。
「キャ!」
自身の拳を抑えている風珠葉の手もろとも、テーブルに叩きつけようとする。
「くっ...あっ!?」
それを寸前なところで俺の手が身代わりになったことで防いだ。
俺が歩歌の拳を抑えている風珠葉の手に触れたことで、風珠葉は反射的に手を引っ込め、結果、俺の手がテーブルに叩きつけられた。
「いっった!」
痛い、。普通に痛い。
バレーボールのレシーブのときの倍は痛い。
というか普通に手の平から血が流れている。
「お兄ちゃん!?血が...」
風珠葉が慌てて救急箱を持ってくる。
その一部始終を歩歌は見ていたが
「......」
特に取り乱す様子もなく、さっきと同じ闇が広がった瞳で俺のことを見ていた。
「お兄ちゃん、ほら、包帯」
風珠葉から包帯を受け取り、利き腕じゃない方の手でもう片方の手をぐるぐるにする。
慣れない手つきナタメ、包帯も患者がつけるような形ではなくなってしまった。
「ふー、ふー」
呼吸を整えながら、ぐるぐる巻きにした手を見る。
包帯にはもう少し血がにじんでしまっていた。
「...兄さん」
歩歌の声がまた一オクターブ低くなる。
「次は、こんなんじゃすまないからね」
そうとだけ言うと、また何事もなかったかのように食事を再開する。
「フォーク...使える...?」
「一応」
震える手つきでフォークを掴み、ナポリタンをすする。
というかよく歩歌俺の隣で平然と食事を再開できるな。
別に俺は怒っているわけでもないし、どちらかと言うと歩歌の拳を叩きつける力が凄いことに、また新たな扉を開きそうにもなっている。
「...兄さん、食べ終わったらまた勉強を教えてほしいんだけど」
「...嘘やん」
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