三人だけの食卓
「あ、お兄ちゃんと歩歌ねぇ、お帰り」
歩歌と一緒に家に帰ると、風珠葉が玄関で出迎えてくれた。
「ただいま風珠葉。それで...夕食は」
「...今日も各自で取るみたい」
あの凛華が二日連続で夕食の支度をしないなんて想像ができないが、学校を休むほど引きこもっているとなると、それも当たり前か。
「今日はわたしが近くのコンビニで買ってくるよ。メニュー言って」
風珠葉にナポリタンと、告げ、そのまま二階に上がろうとする。
「待ちなさい」
そんな俺の手を歩歌が掴む。
歩歌も何気に力が強いので痛い。
「今朝も言ったけど、兄さんがあの女の様子を見に行くことないわ」
とうとう凛華のことをあの女呼びか...
「でも、いつまでもこのまま放っておくわけにもいかないだろ?今週はテストもあるんだし?」
「別に放っておいたとしてテストを受けられずにあの女の進級や成績に響くだけでしょ?兄さんには何にも影響がないわ」
「いや、でもさすがにこのまま引きこもらせるっていうわけにも...」
「そうなったら追い出せばいいだけの話」
「......」
あの、普通に怖いんですけど...
歩歌は完全に凛華に対してキレている。
原因は確実に一昨日の件だろう。
最初は、歩歌が俺のために怒っていることを嬉しく思ったりもしたが、もうここまでくると俺にとってはただのホラーだ。
「それよりもほら、リビングに行きましょう?塾ではあの桐乃とかいうメス猫が邪魔してきたせいで全然兄さんに勉強を教えてもらえなかったんだから」
十分聞いてきたやん...
まぁ幸いなことに、俺のテストの予習はほぼ終わっているため、まだテスト前日までは余裕がある。
いつもの食卓のように、正面に向き合うようにして座る。
「で、聞きたいところはどこなんだ」
「この単語なんだけれどね...」
単語なんてスマホで調べれば一瞬だろうに。
そこから俺は歩歌に基礎中の基礎な部分を聞かれ、それが十五分近く続いた頃に。
「はい、お兄ちゃんと歩歌ねぇ、買って来たよ」
風珠葉がコンビニから帰ってきた。
「ありがとう風珠葉。ほら、兄さん、一緒に食べましょう」
歩歌が風珠葉からコンビニ弁当を受け取り、俺の隣に座る。
「歩歌の席はあっちじゃないのかな」
「そんなのあの女が勝手に決めたことでしょ?いつも兄さんの隣に座って密着しやがって...」
とうとう口調も崩れ始めてきた。
「え?歩歌ねぇそっちに座るの?ならわたしもそっち」
「は?アンタみたいなガk...椅子が二つしかないのだから、アンタはそっちに座りなさい」
今ガキって言おうとした!?
最近の中学生は一つ学年が離れているだけでガキ呼ばわりするのか...
「...はーい」
しぶしぶ風珠葉が正面に座る。
そこから合掌もなしに、三人の夕食が始まった。
昨日はリビングに降りなかったので、凛華抜きにして三人で夕食を食べるのは一応これが初めてになる。
凛華がいないため、食事中にテレビ見放題だし、スマホもいじり放題だ。
「それで兄さん」
「ん?」
意外なことに、歩歌はスマホをいじることなく、俺との会話を続けてきた。
「あのセフレはいつ捨てるの?」
「んっ!?」
危ない危ない。
今ジュースを口に含んだばかりで、危うく噴き出すところだった。
「セフレって...」
「?当然あの桐乃とかいう女のことでしょ」
歩歌の目には桐乃さんは俺のセフレだと映っていたの!?
俺がセフレを作れるような男に見えるのか...?
見えるのならそれはそれで悪い気はしないが。
「いや、桐乃さんはセフレじゃなくてな」
「ねぇ、セフレって何?」
風珠葉が不思議なように首を傾げる。
うわぁ、あるある展開きました。
幼女にそういった言葉の意味を聞かれるパターン。
「アンタみたいなガk...じゃなくてお子様はまだ知らなくていい言葉だわ」
またガキって言おうとしたな。
もう一回言うけど、君たちたったの一歳差だからね?
「なにさ、歩歌ねぇだってわたしと一歳しか離れてないじゃん」
正論だな。
「あたしが言ってるのは精神年齢のこと。アンタは見た目も精神年齢も幼いんだからまだそういった言葉を覚えなくてもいいの」
確かに風珠葉は見た目は完全にロリコン向けの同人誌に出てくるような女の子だし、声も高いし精神年齢も...
いや、死にゲー上手かったし幼いというほどでもないな。
「じゃあもう知らない!勝手に二人で盛り上がっておけば!」
怒ってそっぽを向く風珠葉。
普通ここは姉である歩歌が折れるところだが。
「それで兄さん、いつ捨てるの?」
...どうやら、濡髪家の妹たちは思いやりの心が欠如しているようです。
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