塾での一件
「はぁー、はぁー、はぁー」
相変わらず歩歌の自転車をこぐペースが速い。
学校が終わり、今は塾に向かっているところだ。
と言っても、今日は授業があるわけじゃない。
テスト前には塾で自習大会というのが開かれ、スマホ等を先生に預け、完全に誘惑をなくした状態でテスト勉強に励むことができる。
まぁ俺の場合は妄想という武器があるため、意味はあまりないが。
「兄さん、首まだ痛む?」
さっきからちょくちょく歩歌が後ろを振り向き、俺の首の具合を心配してくれる。
やっぱり歩歌はツンデレ系妹なのか...?
この世の男たちが強く欲しいと願望するツンデレ妹なのか?
心配してくれるのはありがたいが、それならもう少し自転車をこぐペースを落としてくれたら嬉しいかな。
塾の前に着き、駐輪場に自転車を置こうとする。
そしてなんとそこには
「あ、清人君!奇遇だね」
ちょうど自転車を置いている桐乃さんがいた。
今日の桐乃さんはずっと俺の首のことを心配してくれていた。
朝はずっと、誰にやられたかを何回も聞いてきたため、適当に暴漢に襲われたと言っておいた。
桐乃さんになら本当のことを話してもよかったとは思うが、どうしても俺の口から凛華がやったと言うのは躊躇われた。
「で、えーと、きみは、確か三女の歩歌ちゃんだっけ?」
「は?なに?ていうか馴れ馴れしくちゃん付けで呼ばないでくんない?」
やはり歩歌は桐乃さんのことをよくは思っていないようだ。
「ごめんね。馴れ馴れしかったかな。でも、愛しの清人君の妹ちゃんなんだから、できれば親しくしたいと思ったんだけど」
...桐乃さんもちょっと煽ってね?
「...兄さん、行くわよ」
歩歌は無視を決め込み、俺の腕を引っ張り、ビルの中に入っていく。
「あ、ちょっと待ってよ」
「チッ」
桐乃さんが追ってきたことで、軽く舌打ちをし、エレベータではなく階段を上る。
歩歌と桐乃さんも階段を上るペースが速い。
「そんなに急いでどうしたの歩歌ちゃん?どうせ早く塾に着いたって、清人君とは一緒に自習できないでしょ?」
やっぱり桐乃さんも少し煽ってるな。
階段を上り切り、塾の中に入る。
「お、こんにちは。歩歌ちゃんに清人君、そして桐乃ちゃんも。清人君、両手に花だね~」
ちょっと塾長、今の二人相手にそういうのは通じませんって...
「じゃあ清人君、一緒に自習しようか。歩歌ちゃん、また後でね」
「っ」
桐乃さんが俺の腕を掴み、高校生組の教室へ向かう。
歩歌は悔しそうに下を向き、一人で反対方向の中学組の教室に向かおうとする。
「あ、せっかく三人一緒に来たんだし、今日は特別に全員同じ教室で自習することを許可するよ」
「は?」
その気を利かせた塾長の言葉に真っ先に反応したのは桐乃さんだった。
さっきまで笑顔だったのが一瞬にして真顔になる。
「だ、だから三人一緒の部屋で勉強したらどうかと」
普段見せない桐乃さんの真顔に若干塾長も怯えている。
俺はたびたびこういう桐乃さんを見たことはあるが、未だに慣れない。
「せっかくの提案ですけど、やっぱり中学と高校とじゃ全然違いますし、歩歌ちゃんも一人の方が」
「兄さん、行きましょう」
遠慮しようとする桐乃さんを横目に、歩歌が高校生組の教室へ向かう。
まぁ歩歌は身長も大きいし、高校生の中に混じっても何も問題ないだろう。
...多分そういう問題ではないと思うが。
「ねぇ歩歌ちゃん、もしよかったらあの端の方の席に座ってみない」
「兄さん、あたしはここに座るから、兄さんは隣に座って」
完全に歩歌は桐乃さんのことをいないものとして扱っている。
結局歩歌、俺、桐乃さん、と二人で俺を挟む形で席に着く。
幸いこの教室で自習している生徒は少ない。
だが、もしこの中に条棟西校生が混じっていたら、また噂になることは避けられないだろう。
まぁそれでも俺の飯が美味しくなるだけだが。
「ねぇ兄さん、この問題なんでけど」
というかなぜかさっきから歩歌が問題を俺に聞いてくる。
いつもなら歩歌が俺に勉強を聞いてくることなんてありえない。
なんなら三つ年上の俺が歩歌に勉強を教えてもらうことだってある。
しかもさっきから聞いてくるところは基礎中の基礎で、歩歌が解けないはずがないと思わせるところばかり聞いてくる。
「ねぇ歩歌ちゃん。清人君だってテスト勉強に集中してるんだし、そう何回も聞くっていうのは少し迷惑なんじゃないかな」
「あ?黙っててくんない?アンタが口を開ける方があたしにとっては迷惑なんですけど」
最近のJCこわ...
「迷惑って言われても...あ、そうだ。わたしが教えてあげても良いよ」
「アンタ耳ついてないの?あたしさっき遠回しに口を開くなって言ったよね?そんなことも理解できないの?そんな頭で兄さんの彼女が務まると思ってんの?レベル低いわね」
今日は歩歌の毒舌が凄いな...
と、一周して逆に感心していると
「!?」
なんだ?今の鉛筆が折れたときのような音は!?
いや、今のは鉛筆よりももっと頑丈なものが折れた音だった。
いったい...
音の正体を探るべく、辺りを見渡すと、桐乃さんの右手に目がいった。
なんか桐乃さんが握っているペン真っ二つになってね?
下の部分は机の上に落ちてるし。
「...あ、ご、ごめんね清人君。びっくりさせちゃったかな?なぜかペンが折れちゃったみたい」
俺の視線に気づいたのか、桐乃さんが苦笑いをしながらペンを慌てて隠す。
その様子を見ながら、俺の頭の中では凛華と桐乃さんの強さ議論が展開していた。
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