クール系妹の籠城

「...ぁぁ」


長かった土日が終わり、月曜日がやってきた。

昨日は一日中部屋に肝ってテスト勉強をしていた。


一昨日あんなことがあったんだ。

恐らく家族誰一人として外出しなかっただろう。


夕食もまさかの各自で食べるという前代未聞の出来事が起こった。

どうやら凛華が一回も部屋から出ず、夕食を作らなかったらしい。


「...朝食はどうなってるんだ...?」


あんな状態だったため、さすがに弁当を作っているとは思えないが、朝食はどうなのだろうか?


顔を洗い、制服に着替え、一階のリビングに向かう。


「「......」」


部屋には歩歌と風珠葉がそれぞれ黙ってスマホをいじっていた。

食卓を見ると、朝食は置かれていない。


「今日は朝食なしみたいよ」


俺の言いたいことを察し、歩歌が先手を打つ。


「...凛華はもう学校に行ってるのか?」


「玄関にまだ靴が残っているから、行ってないみたいだね...」


風珠葉が少し悲しそうに答える。


つまり簡単にまとめると、凛華は部屋に籠っていると。

あの凛華が...


結構王子様系彼女が調子に乗っていたら彼氏に振られそうになって堕ちるというシチュエーションは知っているが、俺はそういうのはあまり好きじゃない。


「...そうか」


朝食がないと分かり、俺も二人に続いてスマホをいじる。


凛華からのメッセージは...来ているわけないか。

そもそも凛華がメッセージでやり取りをすること自体少ない。


スマホをポケットにしまい、リュックを持ってくるために二階に上がろうとする。


「ねぇ」


すると、歩歌の視線がスマホから俺に移動する。


「もし、凛華姉さんの様子を見に行くつもりなら辞めといたほうがいいわ」


「なんで?」


「だって正直今の姉さんの状態って自業自得でしょ。自分が勝手に兄さんの首を絞めて警察沙汰にしたんだから。そんなやつに、今の兄さんからの施しを受ける資格はない」


「あ、歩歌...」


「歩歌ねぇ...」


歩歌の目には静かな怒りが浮かんでいる。

そうだった。

歩歌と凛華は一昨日の出来事以前に喧嘩中だった。


「別に様子を見に行ったりしない。ただリュックをとりに行くだけだ」


リビングから出て、階段を上る。


歩歌にはああ言ったが、さすがに学校に行く前に様子でも見てきた方がいいのだろうか。


考えているうちに、凛華の部屋の前まで来た。


そっとドアに耳を近づける。


「......」


何も聞こえてこない。

ただ、確かにこの中に凛華がいるということだけは分かる。


俺は気づいたらノックをしていた。


「反応なしか...」


ノックをしたところで、声や何か音が聞こえてくると言ったこともない。


...これ結構まずくないか?

あの凛華が完全にふさぎ込んでしまっている。

あの剣道少女が。


「とりあえず学校に行くか」


無責任に思われるかもしれなが、俺にだって学校がある。

それに今秋には期末テストだって控えている。


いつも期末テスト前の授業となると、先生がさりげなくテストにそのまんま出てくる問題とかを教えてくれることがある。

俺は今までそれを聞いてきて、ある程度高い評定を手に入れることができた。


それに、桐乃さんも待たせているしな。


凛華に心の中で謝りながら、反対側の自室へと戻り、リュックを持って玄関に降りる。


「...いってきまーす」


小さな声でそう告げ、桐乃さんの家まで急ぐ。


あ、そういえば顔を洗った時に注目しなかったけど、首の跡はどうなっているだろう。


昨日の夜は確かまだはっきりと残っていた。

やだ、今はどうなっているだろうか。


まぁ、完全に消えてないにしても、特段目立ったりしてないほどには落ち着いているだろう。


「あ、桐乃さんおはようー」


「清人君もおはよ...ねぇ、その首どうしたの?誰かにやられたの?その人の名前教えて」


...全く消えてなかった。

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