祭りの後
「どうもお騒がせしてすみませんでした」
長男として、家に来た警察官に頭を下げる。
近所の人が俺の叫び声を聞き、警察に通報してくれたらしく、すぐに近くの交番のお巡りさんがやってきた。
お巡りさんが駆けつけたころ、まだ歩歌と凛華の攻防戦は続いており、まな板が崩壊する寸前で凛華は引きはがされた。
さすがの凛華でもお巡りさんの力には勝てなかったのか、それとも正気に戻っただけなのかは分からない。
その後、その場でいろいろと状況を聞かれたが、最終的には兄妹喧嘩ということに片付き、厳重注意で済むこととなった。
お巡りさんが帰っていった後
「「「「......」」」」
俺たちはただ沈黙するばかりで、気まずい雰囲気が続いた。
お互いに誰も顔を合わせない。
凛華に至ってはお巡りさんに引きはがされてからずっと俯いている。
「...まな板、戻してくるね」
風珠葉がその気まずい空気から退散するように、崩壊寸前のまな板を持ってリビングに戻る。
「...あたしは風呂に入ってくる」
続けて歩歌も階段の横にある脱衣所のなかに入る。
「お、俺は自室で勉強を」
残った凛華にそう言って、自室へと向かう。
自室に入るとすぐさまベッドに倒れこむ。
「今日はいったい何だったんだ...」
この一言に尽きる。
朝から夜まで桐乃さんとデートして、家に帰ったら闇落ち凛華の暴走。
しまいには警察のお世話にもなった。
「...これって全部俺が桐乃さんとデートするって凛華に正直に話さなかったのが原因か...?」
いや、だってしゃーないやん!
もし朝桐乃さんとデートしてくるって正直に凛華に伝えたらそのまま首絞めコースだったに決まってる。
にしても俺ってめっちゃ優しいお兄ちゃんじゃね?
あれだけ首を絞められたのに、凛華に一切𠮟責しなかったし。
「てか、まだ首痛いな」
今日もっとも驚いたことは凛華の力の強さだ。
首を締め上げられていたときはホント一瞬意識が飛びかけた。
それに、あの感じからしてまだまだ本気じゃない。
まな板にヒビを入れたときだって手は全く震えてなかったことから、本気じゃなかったことが分かる。
自分で自分を褒めつつ、鏡を見てみる。
「やっぱり結構跡残ってるな...」
俺の首には絞められた跡が堂々と残っていた。
これもよくヤンデレシチュボで聴く展開だな。
ヤンデレDV彼女に首輪で拘束されて監禁された彼氏が、ある日彼女が仕事に行っている間に首輪外そうとして、突然帰ってきた彼女にそれがバレるやつ。
そして彼女はお仕置きとして首絞めをして、彼氏の首にはせっかく消えかかっていた跡がまた復活してしまうっていう話だな。
「明後日桐乃さんにどうやって説明しようか...」
当然隠す...というのは無理やな。
明日までに消すというのも現実味がない。
さすがにまだ桐乃さんは俺のM心に気づいていないはずだ。
だからこの跡を見て桐乃さんがドSに覚醒する...ていうのももしかしたらあるかも...//
あ、でも待てよ。
この首の跡を見られたら元同志たちが、俺と桐乃さんがそういうプレイをしたって勘違いをして、桐乃さんがあいつらの夜の慰みの素材となってしまう。
M向けシチュエーションの中ではNTRせというものが一定の人気を獲得している。
が、俺には理解できない。
NTRせものの何にいったい興奮する要素があるというのだ。
あ、でも逆NTRものは大好きやで。
さすがに桐乃さんにそういった趣味はないと断言できるが、それを夢見ていた時期もありました。
「...眠いな」
いつまでも明後日の想像をしていたってどうしようもない。
どうせ今夜はこの首の痛みのせいでなかなか寝付けないということは分かっているのだから早めに電気を消そう。
俺が部屋の電気を落とそうとしたとき
「...ん?」
部屋の外から階段を上る音がした。
「これは...風珠葉か?いや、こんなゆっくり上ったりしないよな」
まるで死刑囚が十三階段を上るときのような速度と音で上ってくる。
「ひょっとして、凛華か?」
さっきの俯いていた様子からして凛華がこのような上り方をすることは推察できる。
音は廊下まで上り終わると、俺の部屋とは反対側にある凛華の部屋に向かった。
「おいおい勘弁してくれよ...」
これはまた明日からめんどくさいことになりそうだな...
そう心の中で嘆きながら、首の痛みから逃れるために早々に目をつむった。
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