デートへの誘い

「...あーもうこの長文本当に読みにくいな」


今日は土曜日。

これまでの休日なら、一人だらだらとネットサーフィンをしたり、ゲームをしたりしていたが、受験生となるとそうはいかない。

今は塾の英語のテキストの長文を解いている。


「こんな見たことない英単語並べやがってよ。第一、英語ができるからって将来何の役に立つん?」


恐らくこれは全受験生の大半が思っていること。

"英語なんて日本からでなければ使わないんじゃん"と。


まぁ中にはこれまた同人誌の読み過ぎで、白人の金髪美女と付き合いたいなんていう夢物語を本気で実現させようとしてる輩がいるので、そういう場合は当然英語は必要になってくる。


「別に日本の女性だってレベル高いだろ」


たしか前見たまとめサイトでは日本の女性は海外でも高く評価されていると書かれていた。

現に俺の周りの女子の美女率高いし。


「おん?」


一人で英語不要論を唱えていると、スマホの着信が鳴る。

見なくてもわかる。桐乃さんからだ。


「はい、もしもし」


「もしもし清人君?ごめんね土曜日に突然電話してきちゃって」


「いや全然自分暇だったんで」


「暇なんだ...ねぇ、よかったら今日さ、二人でどこかお出かけしない?もうすぐテストだし、一緒に勉強したり」


「するする!」


最後まで聞かず、即答する。


こんな長文、桐乃さんに訊けば楽勝っしょ。


「じゃあ今から三十分後の十一時に西条棟駅集合でいいかな?」


西条棟駅は、俺と桐乃さんの最寄り駅のことである。


「はいはーい、西条棟駅ね」


「うん、待ってるね」


桐乃さんとの通話が終わると、俺はすぐさま荷物をまとめる。

さすがにただ遊ぶだけじゃなく、勉強も見てもらった方がいい。


「古典、世界史、英語」


それぞれの教科のワーク類をカバンに押し込み、一階へと向かう


休日の朝食は作られていない。

その為、今日はまだ妹たちと顔を合わせていない。


一階の廊下に降りたらリビングに向かう...じゃなくそのまま玄関に直行する。


最近の妹たちはどんどんギャルゲのヒロインみたいになってきているからな。


「おや、清人、どこに行く?」


俺が一階の廊下に降りた途端に、リビングのドアが開き、中から凛華が出てきた。

...なんでバレた?物音一つ立てずに降りてきたはずなのに。


「う、うん。ちょっと用事が出来て...あ、多分夕食はあっちで食べてくる」


しまった。

確か外食は凛華が最も嫌う行為の一つだ。

これは面と向かって言うのではなく、メッセージ越しに伝えるべきだったな...


「そうか。では、くれぐれも気を付けて行ってくるんだぞ」


「あ、ごめん。やっぱり夕...え?」


凛華が外食することに対して何も言ってこない?

それどころか気を付けて行ってこい...だと?


「どうした?」


「い、いや、凛華が外食を許してくれるなんて意外だなーって」


「おい、私は実の兄の外食を許さんほど、兄離れできてないわけじゃないぞ」


少し不服そうにこちらを向く。


「お前にとってはもう高校生活最後の夏だ。恐らく友人と一緒にどこかに出掛けるのだろう?なら今を存分に味わえ」


なに?このまるでお年寄りに若いうちの生き方について説かれている感覚。

言っておくけど、自分君よりも二つ年上だからね!?


「まぁ最もそれは...その友人というのがあの桐乃とかいういけ好かない女じゃなければの話だが...」


「ギク」


おっと、効果音がそのまま口に出てしまった。


また凛華が鞭のときの冷酷な瞳で俺を射抜いてくる。


「や、桐乃さんは今もう勉強してるから俺にかまってる暇なんてないよ」


「......」


凛華の表情は変わらない。

俺の冷や汗が見られたか?


「ならいいんだ。楽しんで来い」


よかった、どうやら納得してくれたようだ。

これで凛華もリビングに戻ることだし早速行こくと


「......」


あれ?凛華がリビングに戻らない。

というかずっと俺のことを凝視している。


凛華に見られている緊張の中、ぎこちない動作で靴を履き、玄関のドアを開ける。


「......」


もう後ろは振り向いてないが、まだ凛華の視線がする。


それも後ろで玄関のドアが閉まったことで完全に途切れた。


「...まさかバレてるとかないよな?」


そう自分に言い聞かせながら、俺は駆け足で最寄り駅へと向かった。

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