妹フラ

「お、この通知は桐乃さんからか?」


夕食を食べ終わり、風呂に入り、上がって自室に戻ったところでスマホの通知が鳴った。


『清人君、こんばんは。テスト勉強進んでいるかな?塾にいたってことはもう今日は十分勉強したってことだよね?なら息抜きにまたあのゲームを一緒にプレイしませんか?」


今日は塾に行っただけで全く勉強してないが、まだテスト一週間前に入ったばかりなんだし本気出す前の準備運動って大切だよね。

前までの俺のテスト前の準備運動はもちろん自分のムスコと運動することであったが、彼女ができたのだからそんなことする必要がない。

どうせこの言い訳をこの一週間ずっと使うつもりだろと思われるかもしれないが、俺はやる時はしっかりやるタイプだ。

...禁欲は三日坊主どころではないが。


「えーっと、フレンドフレンド..いた」


桐乃さんのプロフィールのところにしっかりとオンライン中の明かりがついていた。

というか桐乃さんってテスト期間中にゲームとかするタイプだったのか。

それでいて学年上位をキープできるとは尊敬以外の何者でもない。


こうなってくると俺が釣り合いをとれなさ過ぎて自己嫌悪に陥ってしまう。

そういうことへの対処法として、この状況に興奮を見出すという方法がある。


このシチュエーションって全国のM気質男子全員の夢のような状況であるはずだ。

そんな状況に今自分はいる。

そう考えると自己嫌悪の念は多少は安らぐ。


「あ、もしもし聞こえる清人君?」


桐乃さんの部屋に入ると、通話特有のボイチェンがかかった美声が聞こえてきた。


「もしもし、聞こえるよー桐乃さん」


「今日は昨日のボスを倒したところからでいいかな」


桐乃さんの言う、昨日のボスというのは、中盤のボスのことだ。

つまり昨日の夜だけで俺と桐乃さん(実質桐乃さんだけ)はもう序盤から中盤まで進めた。

...もうマジで超人としか言いようがない。


「じゃああの中ボスのところか」


「お兄ちゃん」


言いかけたところで、部屋のドアが開き、風珠葉が入ってきた。


「ん?どうした風珠葉?」


「ほ、ほら、一昨日兄さんと一緒にあの死にゲーをプレイしたでしょ?だから、今日もどうかなーって」


まさか風珠葉から誘ってくるとは思わなかった。

だけど今日はもう先客がいるし...

もっと早く言ってくれれば風珠葉とやっていたけど。


「すまん、今日は先客がいて」


「清人君?今部屋に誰かいるのかな?」


てやべ!?

コントローラにイヤホン指すの忘れてた。


「え?何今の声?」


当然風珠葉の耳にも届き、辺りを見渡す。


「もしかして、ボイスチャット...?」


「ねぇ、やっぱり誰かいるのかな清人君?」


...どうして今日は妹たちと桐乃さんが何らかの形で遭遇する確率が高いんだ...

それと桐乃さん。さっきから口調が少し怖いです。


「あ、あの~もしもし?ど、どちら様ですか」


風珠葉はコントローラのマイクに向かって話しかける。


「それはこっちのセリフだよ。きみこそ誰かな?」


「わ、わたしはお兄ちゃんの妹ですけど...」


「清人君の妹さん?ていうことは末っ子ってことだね。

それで、きみの名前は?」


「ふ、風珠葉です」


「風珠葉ちゃんか。清人君のおうちの子ってみんな名前可愛いよね」


意外と風珠葉がちゃんと会話できているというのが驚きだ。

風珠葉は姉二人と違い非常に人見知りするタイプだ。


たとえ同性相手だとしてもこんなに普通に会話できる印象はなかった。


「それで...あなたは?」


「わたしは絹井桐乃。清人君のクラスメイトで彼女だよ」


「クラスメイト...え、彼女?」


なに今の間?


「そう、清人君の彼女」


さて、風珠葉はどのような反応を示すのか。


「お兄ちゃんの...彼女...っ!」


てっきり放心すると思ったが、それはたったの数秒で、風珠葉はすぐに行動に移した。


「ん!!」


「は!?ちょっと!?」


まさかのゲームコードを抜くというパワー系に走った。


「な、何するんだよ風珠葉!?」


「...あ、ご、ごめんなさい!!」


突然、正気に戻ったかのように涙を浮かべ頭を下げる。


そんなことされたら怒る気が失せてしまう。


「あ、あの、さっきの女の人がお兄ちゃんの彼女とか言って、頭がカーってなって...」


つまり情緒不安定ってこと?


「ほ、本当にごめんなさい!もしもう結構進んでて、セーブする前とかだったら、私が責任もって進めるから」


まさか最初からこれが目的?

いや、風珠葉に限ってそんなことはないか。


「い、いや、今日はまだ進めていないし、今さっき始めたばかりだから」


だからそんなに謝んなくてもいい、と諭す。


「桐乃さんには俺の方から謝っておくから」


「うん...本当に迷惑かけてごめんねお兄ちゃん」


風珠葉が涙を拭きながら部屋から出て行く。


「...にしても、飴と鞭を使い分ける次女に、ツンデレをこじらせている三女に、情緒不安定な末っ子か。

…まさか本当に俺同人誌の世界に転移した?」

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