三女と彼女

「おーい、清人君!」


ん?なんだこの美声は?

どこか非常に親しみを感じる美声。


「て、桐乃さん!?」


そう、あまりにも俺と釣り合いが取れなさ過ぎて一時期学校の独身貴族たちに同人誌の世界に転送したと錯覚を与えるほどの高嶺の花、桐乃さんだった。


「はぁ?アンタ誰?今あたしたちお取込み中なんですけど?」


ちょっと歩歌!?

なんでそんな喧嘩腰?


「え、えーっと、きみは誰かな...?」


あまりの喧嘩腰口調に桐乃さんも少し狼狽える。


「あたしはこの男の妹。アンタこそ誰?」


いや兄を"この男"って。

でもそういう冷たいところも歩歌という女性の魅力の一つだと思うぞ!


「ごめん。こういうときは普通わたしから自己紹介するべきだったね。

初めまして。絹井桐乃と言います。清人君のクラスメイトであり、恋人でもあります」


「...はぁ?」


凛華のときとは違い、心底理解できてない"はぁ?"が歩歌の口から漏れた。


「なに?なんかの罰ゲーム。アンタこいつの彼氏って言うことを誰かに強制でもされてんの?」


まぁ普通は誰しもそう思うよな。

桐乃さんのモデル級のスタイルの良さとこの美声を聞いたら。


「罰ゲームでも何でもないよ。わたしは正真正銘清人君とお付き合いさせてもらっているだけ。

あと、自分の兄に向かってそういうことを言うのはよくないと思うな」


少しお説教する桐乃さんの破壊力も半端じゃねえっす。


「え?ほんとに付き合ってんの?アンタと、兄さんが?」


「そうだよ。わたしから可愛い清人君に告白して、無事お付き合いすることになりました」


か、可愛いって...//

彼女からそう言ってもらうと、僕の"ムスコ"の健康もよくなります。


「嘘...嘘よ...?」


「妹さん?どうしたの?あ、そういえば清人君の家には何人の妹がいるの?」


「一応四人の妹がいて、そのうち次女、三女、末っ子と一緒に暮らしてるよ」


「四人いるんだ。で、この子はなんて言うの?」


「歩歌。ちなみに学校であったのが凛華」


「歩歌ちゃんって言うのか~。じゃあこれからよろしくね、歩歌ちゃん」


そう笑顔で言い、桐乃さんが歩歌の頭を撫でようとする。

それを歩歌の手が弾いた。


「...触るな」


凛華の悪寒がする低音とは違い、憎悪の塊を表現するかのような低音を歩歌が放つ。


「お、おい、歩歌」


さすがにこれは叱らなければならんと思い、歩歌に一歩近づく。


「いいのいいの清人君。きっと歩歌ちゃんは人見知りな対応だと思うんだ。だからまだ兄の彼女となったわたしの存在になれてないだけ」


歩歌が人見知り?

さっきの喧嘩腰な口調からして人見知りとはかけ離れている気が...


「...帰るわよ」


俺と桐乃さんが話し込んでいると、後ろから肩を掴まれる。


「ちょ、いたい、痛い痛い痛い!」


いや、ガチで痛い。

歩歌ってこんな力あったか?

見た目は筋肉娘というわけではなく、ただキツそうな雰囲気を身にまとっていて、容姿がすぐれている女子中学生。

そんな歩歌のどこにこんな力があるんだ?


「歩歌ちゃん、清人君が嫌がってるよ?話してあげて!」


「アンタは黙ってろ!!!ほら、いいから来なさい!」


必死に桐乃さんから俺を遠ざけたいがために、エレベーターは使わずに階段を降りて行く。

にしても痛い、痛すぎる!

ほら、よくネットの同志たちも言うだろ。

痛いのはぬけ


「いい加減に放せって!!」


一階に着いたところでようやく肩から歩歌の腕を放す。

絶対これ肩の部分あかくなってるわ。


「...アンタ、なにアレ?」


とうとう桐乃さんをアレ呼ばわりですか...


「なんかアンタの彼女だとか抜かしていたけど、どういうつもり」


「ど、どういうつもりと言われましても...ただの恋人というだけで」


「...まさか兄さんの口から恋人なんて単語が出るとはね」


そう少し悲しげにつぶやいた後に、素早い動作で自転車に乗る。


「...今日は先に帰る」


「え?でも一緒に帰るんじゃ...」


「...今日は一人で帰らせて」


一言そう残すと、通常よりも速い速度で自転車をこいでいった。


もう歩歌の姿が見えないぐらいになってから、俺も自転車に鍵をかける。


「...これはまた帰ってからも気まずいな」

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