仮入塾②

「やっぱり凛華のあの豹変ぶりを見させられて墜ちるなと言われる方が無理あるよな」


今は塾で国語の授業を受けている。

まだ一応仮入塾状態だが、ここまでくればもうこのまま入塾することは確定だろう。

教室は学校の教室の縮小版で、生徒数も十人ちょっとしかいない。

俺は一番奥の席の窓際にいるため、外の景色を見ながら今日のことを思い返す。


それにしても家に帰ってからは大変だった。


なにせあの凛華が俺をエスコートしている体勢で帰ってきたのだから。

今日俺と一緒に塾に向かうためにずっと玄関前で待っていた歩歌はもろにその光景を見てしまい、殴りかかる勢いで俺と凛華を引き離そうとしてきた。

しかし当然凛華にかなうはずもなく、すんなりと受け流されてしまった。


その後凛華が俺に今日の夕ご飯は何がいいと要望を訊いてきた。

無論、今まで凛華が俺に献立は何がいいかなど訊いてきたことはない。

そろそろ歩歌がカッター等を持ち出してくると思った俺は、適当にハンバーグでと言って、その場を後にした。


「おかげで歩歌はずっと不機嫌だしな」


塾に向かっている途中の歩歌はまさに心ここにあらずと言った感じだ。

ただ、放心状態というわけではなく、何やらもの凄い形相で前を見ていたことから、大方俺か凛華をサンドバックにする妄想にでも夢中だったのだろう。


「あいつしっかり授業受けられているのか...?」


あの様子じゃ授業の内容なんて頭に入ってこないだろうに。


まぁ俺もこんな今日に起きた出来事を思い返している時点で授業など全く頭に入っていないが。


にしても国語まで塾で習う必要はあるか?

読解力という者は普段読書だ度をして身に着けていくものだ。

幸い俺には官能小説という武器があるため、現代文は得意だ。


「ええーじゃ今日はここまで。皆、各自で勉強しておくように」


お決まりのセリフを残して先生は去っていた。


同じクラスで授業を受けていた生徒たちはほとんどが急いで帰りの支度をする。

もう時間を見ると八時過ぎだ。

恐らく夕食を食べずに来たのだろう。


俺もそのうちの一人だが、どうせ歩歌を待たなくてはいけないため急ぐ必要はない。


「あ、でも今日は歩歌授業一コマだけだったよな」


高校受験組と大学受験組の授業時間が同じかは分からないが、もしかしたらもう先に待っているのかも。


教室から出て、カウンターを通る。


「お疲れ様~」


塾長の挨拶を聞き流し、塾の入り口まで行くと、案の定歩歌が不機嫌そうに俺のことを待ってた。


「あれ?もう授業終わってたの?」


「...今日はクラス替えのテストだから。終わった人から帰っていい仕組みになってるの」


この塾の高校受験組には、階級制度があり、名前がかっこよくなるにつれて偏差値の高い生徒が集まるクラスになっている。

この月に一回行われるテストの結果次第で上にも下にも行ける。


「それで...歩歌はどのレベルのクラスなのかな?」


「そんなの、アルティメットクラスに決まってるでしょ」


もう名前からして一番上のクラスだということが分かる。

...なんでこうも濡れ髪の妹たちは全員頭いいんだ?


にしてアルティメットクラスって...

塾長、もう少し名前のセンスどうにかなりませんかね?


「それより...」


と、ここでまたあの憎悪のこもった瞳を俺に向けてきた。


「さっきのアレ、なに?」


「あれ、とは?」


「とぼけないでよ。どうして凛華姉さんと兄さんがあんなにくっつきながら帰ってきたの?」


やっぱりその話ですよねー。


「あんな凛華姉さん見たことない。まるで兄さんを包み込むかのような...」


怒りで歩歌の声が震えている。

...そんなに怒ることか?


別に凛華が俺に急に甘々になっても、歩歌の機嫌を損ねる要因にはならないと思うのだが。


「ねぇ、本当は今日何があったの?」


「何があったの?と言われてもな...」


いや、実際問題いろいろとあったんですけどね。

凛華がああなったのは百パーセント桐乃さんが原因だ。


俺と桐乃さんが付き合っているということを知って凛華は豹変してしまった。


でも、なぜ俺と桐乃さんが付き合っているとしってあそこまで態度が変わる。


一番説として有力...というか、これしか当てはまらないのだが、ヤンデレasmrの台本や、ハーレムギャルゲのように桐乃さんに嫉妬して病んだということしか考えられない。


つまり凛華の言う通り、今までのは本当に愛の鞭だったということか...


実の妹がずっとそんな状態だった。

こんなことを知って興奮...しないわけがないか。


「ねぇ、何さっきから黙ってるのよ」


...さすがに歩歌が俺になにか特別な想いを寄せているとは考えにくい。

ここは正直に言っても問題ないだろう。


「実は」


「おーい、清人君!」

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