彼女と自称ドMゲーマルチプレイ

「あー、もう今日はいろいろと疲れたな」


寝坊事件。

お弁当事件。

凛華との長距離走。

姉妹喧嘩。


「こんだけトラブルが起きて疲れたんだし」


勉強机に置かれたワーク類を見る。


「...今日も勉強しなくてもいいか」


大丈夫大丈夫。

高三と言っても六月だし、今から本気出さなくてもいいだろう。

この状態がずっと続いて共通テスト爆死なんてならないように気を付ければいいのだから。


「さーって、今日は寝る前に」


昨日風珠葉にプレイしてもらった、偽M向けゲームを思い出す。

いや、でもあれは俺一人でやるには難易度が高すぎるからなしだな。

さすがにこの時間に自分から風珠葉を呼び出すなんてできないし。


「...他に寝る前にすることと言ったらアレしかないよな」


学習の方じゃない"夜の勉強"。


テレビの横にあるティッシュ箱をベットの上に置く。


「さーって、今日は何を見ようかな~」


そういえば最近妄想してないな。

そろそろ妄想しないと俺の想像力が衰える頃合いだ。


決心し、必死に何か使えそうな妄想がないか頭の中で調べる。


すると、突如スマホの着信音が鳴った。


「ん?」


これはメールの着信だな。


「俺にメールを?誰からだ」


まぁそんなの一人しかないが。


『ごめん、まだ起きてるかな?』


そう桐乃さんからメッセージが届いていた。


『まだ起きてるよ。今からゲームするとこ』


最近、変に美化しないで自分のありのままの姿を伝えることが大切だと学んだ。

だからここは勉強していたって言って美化するのではなく、素直にゲームするところだったと送った。

実際は勉強でもゲームでもないが...


『ゲームって、今日清人君が妹さんと一緒にプレイしたって言うあの中性のヨーロッパが舞台の...』


『そうそうあれを今から一人でプレイするところだけどさ』


ゲームをするというのは嘘だが、"ソロプレイ"という部分だけは本当だ。


『あのね、実はあのゲームわたしもハマっててさ』


『え?桐乃さんが?』


桐乃さんがゲームを、ましてやあんな厨二病死にゲーをやるイメージがないが。

それに今朝も俺があのゲームのことを話したときに別に食いついてこなかったし。

これは...

まさか俺と一緒にやりたいがために今日買って来たってこと!?


あのゲームはその理不尽極まりない難易度から、お助けとしてネットで協力プレイができる。


『でね、よかったら今から一緒にやらないかな』


『ぜひ、ぜひ!一緒にプレイさせていただきます!!』


まさに即答である。


『桐乃さん、ちなみにコントローラーのマイクって使える?』


『マイク?マイクってどこかな?』


これってまさかソフトだけじゃなくゲームハードも俺のために今日買ったのか?

だとしたら優しすぎんだろ!


その後は桐乃さんにアカウント名を教えてもらい、フレンドになった。

ちなみにフレンドになると、そのアカウントがいつ登録されたのかが見える。

案の定桐乃さんの登録日付を見てみると、今日だった。


「あー、あー、聞こえるかな清人君」


ゲーム越しに聞こえる桐乃さんの声も相変わらず美声ですな。


「聞こえるよ桐乃さん」


一回俺の声がゲーム越しにどう聞こえるのか気になる。

ゲーム越しだとボイスチェンジャーがかかって、若干声が違くなると聞いたことがあるが、それが本当なのか確かめたい。


「桐乃さん、もうチュートリアルはクリアしたかな」


昨日の歩歌のプレイを見ていた感じ、チュートリアルをクリアしないとストーリーの道中の雑魚敵やボスに瞬殺される。

恐らく桐乃さんは今日買ったのだから、チュートリアルのボスに苦戦していると思われるが。


「うん、もうクリアしたよ」


...はい?

今日買って今日倒した?


しかも、今日買ったと言っても放課後に限られているし、桐乃さんは俺の面倒を付きっきりで見てくれていたのだから、買いに行ったとしたら夜である。


「えーっと、ちなみにチュートリアルの最後に闘ったボス戦で大体何回ぐらい死んだか覚えてる?」


「うーん、正確には覚えてないけど、多分二十回以内には倒したはずだよ」


二十回以内!?

今日買って!?


めっちゃ上手いですやん。


「そ、そーなんだ。じゃあ俺のセーブデータでマルチプレイしてもいい?」


「うん、わたしも清人君を手伝いたいし」


...どうやらゲームの中でも俺は彼女にリードされる側のようです。

もちろん妄想の中でも。

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