姉妹喧嘩

「ただいまー...」


学校から帰り家の玄関を開ける。


六時間目の後、保健室に運ばれたが熱とかはないと診断された。

やはり顔色が悪かったのはただ昼飯の食い過ぎで吐き気がしていたからだろう。


「......」


玄関には珍しく凛華が立っていた。

俺の帰りが遅いときは大体風珠葉か歩歌が出迎えてくれる。

凛華は剣道部に所属しているため、帰りが俺より遅くなることもざらにある。


「...体調はどうだ?」


「え?」


聞き間違えか?

今、凛華が体調はどうか?と俺に訊いてきた気がしたのだが。


「だから、体調はどうだと聞いている」


「あーっと、保健室で見てもらったけど、特に異常ないってさ...」


凛華が俺の体調を心配している!?

逆に俺の方が凛華を心配になってきた。


「...そうか」


凛華一度頷き、姿勢を整える。


「今日はすまなかった」


すると、なんと俺に対し頭を下げ、謝罪をしてきた。


...なにか学校で嫌なことでもあったのか?

どうしたん?お兄ちゃんが話聞こうか?


「いや、いいってーいいって。別に何ともなかったんだし」


そんな深刻に受け止めるなよ、と肩を叩こうとしたが、さすがにまだそこまでの勇気が俺にはなかった。


顔を上げた凛華の顔つきは相変わらず険しいが、それでも少しは明るくなったと言える。


「もう夕食はできているから早く席に座れ」


俺に背を向けリビングに向かう。

その後ろ姿に続き、俺もリビングへと向かう。


「「......」」


リビングの食卓には、風珠葉と歩歌が座っているが、凛華とは対極するように明らかに不機嫌だ。

どちらも俺を...いや、今回は俺と凛華を睨んでいるな。


「...遅いんだけど」


歩歌がイラつきを露わにしてそう吐き出す。


「ご、ごめん。ちょっと俺今日学校で体調が悪くてさ」


「そんなことは聞いてい。どうして兄さんが玄関のドアを開けてからここに来るまでにそんな時間がかかるの?」


歩歌が追い打ちかける。


え?別にそんなかかってなくね?

ただ凛華が俺に謝罪してきただけだから三分も行かないぐらいだったと思うが。


「おい、今はそんなことどうでもいいだろ。それよりも早く食べるぞ」


今日の俺の夕飯は全体的に量が少ない。

かといって一番早くに食べ終わる自身はないが。


そこからまた黙食が始まった。

ただ今日はいつも以上に空気がぴりついている。


こんな空気の中だと、自然と箸を動かすのが早くなるというが、まったくそんなことはない。


ただこれは俺だけが当てはまらないようで、歩歌はもう食べ終えていた。


何食わぬ顔でお茶碗を片付けようとする歩歌。

しかしそんなことをすれば当然


「おい歩歌、お茶碗を片付けるのは全員が食べ終わってからだといつも言っているだろう」


このように凛華の制止が入る。


いつもだったらここで歩歌は嫌な顔をしながらも嫌々従うが、今日はそういうわけにいかないようだ。


「あのさー凛華姉さん。みんなが食べ終わるまで待てって、ばかばかしいとか思わないわけ?」


「なんだと?」


歩歌の言葉に凛華の声が二オクターブ下がる。


「いつも思ってたけど兄さんとか食べるの遅いし、それを待つとかどう考えても時間の無駄じゃない?」


さりげなく悪口を言われて傷ついたの半分、興奮したのが半分だ。


「とにかくもう今日からあたしは夕食もできたら勝手に一人で片づける。あ、別にあたしが気に食わないんならもう凛華姉さんあたしの分作らなくていいよ。勝手に友達と外食とかしてくるから」


歩歌ちゃんそこまで言う!?


「......」


凛華は何も言わない。

ただ黙って歩歌を凝視する。


「じゃあ、もう自分の部屋に戻ってるね」


歩歌がうんざりした様子で茶碗を片付け、二階へと上がっていってしまう。


「ちょっと歩歌ねぇー!」


「風珠葉、まだみそ汁が残ってるだろ」


慌てて追いかけようとした風珠葉を凛華が止める。


「でも歩歌ねぇが...」


「いいから最後まで食べろ。食べ残しは許さんぞ」


「うん...」


食卓はまた静まり返った。

一連の出来事に、俺はないもできずにいたが、まぁしゃーないよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る