仮入塾
「ねぇ兄さん、もう少し早くこげないの?」
「いや、お前が速すぎなんよ」
今は約束通り歩歌が通っている塾に見学に行こうとしているところだ。
「もう自転車ぐらいマスターしてよ。小学生じゃないんだから」
俺のずいぶん前を自転車で走っている歩歌がそう悪態をつく。
塾は基本的に駅の周りにあるため、道に人だかりができている。
その中を自転車で突破するのだから当然慎重になって当たり前だと思うのだが、歩歌は速度を落とさず、うまい具合に人と接触しないようにしている。
なんで俺の周りには運動神経の良い女子ばかりがいるんだ?
「ほら、薄っすらと見えてきたよ」
確かに前方には塾らしき名前が書いてある大きな看板が見えてきた。
他のビルも立て続けに並んでんいるため、ずいぶん近い距離まで来ているのにうっすらしか見えない。
俺の最寄り駅ってこんなに都会だったっけ?
「ここが自転車置き場だからね」
塾がある建物のすぐ隣に自転車置き場が設置されている。
「ちょっと兄さん、そんなところに開いたらみんなが自転車出せないでしょ」
置き場所がないため、入り食いから少しはみ出した位置に泊めようとしたら歩歌にそうダメ出しをされた。
意外と他の塾生のことを気遣っていることが分かる。
歩歌と一緒にビルの中に入り、エレベータで三階を目指す。
もし今いるのが凛華だったら体が怠けるとか言ってエレベータを使わせてもらえず、階段で上ることを強要させられていただろう。
「ねぇ、今凛華姉さんのこと考えてなかった?」
「い、いや、まったく考えていないぞ」
歩歌の瞳が鋭くなる。
こいつらまた喧嘩してるのか?
しょうがない、ここは家に帰ったら俺が二人の仲を
「さっきの言葉であたしが遠回しに凛華姉さんのこと考えるなって言ったの伝わらなかった?」
「...はい」
やっぱり自分のことは自分で解決すべきだな。
エレベータが三階に到着し、歩歌に続いて廊下に出る。
なんだか三階に到着するまでの間が異様に長く感じたが...
廊下に出たら、もうすぐ右に塾がある。
歩歌がドアを開けた瞬間
「「「「「こんにちはー!!!!!」」」」」
作業して先生方が一斉にこちらを向き挨拶する。
うわ、俺こういう雰囲気苦手だわ。
「塾長。今日はあたしの兄が見学していくそう出す」
歩歌に紹介され、よろしくお願いしますと頭を下げる。
「あ、君が歩歌ちゃんのお兄さんである清人君だね」
この科学者みたいな服を着て眼鏡をかけている老年のおじいさんが塾長みたいだ。
「はい、僕は高校三年生でありまして、ぜひとも大学受験に向けて学力をつけてくれたらなと存じます」
俺めっちゃ礼儀正しくね?
「あーそうかしこまんなくていいよ。とりあえず今日は見学ということだよね?それならちょうど今から大学受験組の英語の授業が始まるから見学してきていいよ」
塾長が座っているカウンターはちょうど真ん中にあり、左側が中学受験組の授業スペースであり、右側が大学受験組の授業スペースだ。
俺は塾長に言われた通り、歩歌とは逆の右側に進んだ。
「そういえば今日は清人君のほかにもう一人見学の子が来るんだった。たしか清人君と同じ条棟西高校の」
塾長がまだ何かを言い続けていたが、歩歌の声で妨害される。
「兄さん、あたしの授業が終わるまで絶対に帰らないでね」
「分かってるって」
別れ際にもう一度強く念を押された。
右側にはいくつかの教室があり、プレートにはそれぞれの科目名が書かれている。
英語と書かれたプレートの教室の中に入ると、もう何人かが席について自習をしていた。
まぁ塾で出てきた友達と盛り上がっている雰囲気よりかはマシだが。
俺も適当に持ってきた学校の英語のテキストを眺めていると、担当の先生が入ってきて、授業が始まった。
それと同時に隣の教室でも授業が始まったのか、急に騒がしくなる。
何人かはうるさいと言わんばかりの顔をしているが、俺としては別にどうってことない。
「あ、~乃ちゃんやっほー!来てくれたんだね」
「うん!最初に佳~ちゃんのクラスの見学ができるの本当に幸運って感じだね!」
意外とはっきり聞こえてきてはいるが、こちらももう授業は開始しているため会話の内容までは全く頭に入らない。
そこからは約一時間二十分ほど英語の授業を受けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます