彼女がいる学校生活

俺と桐乃さんのクラスは二号館四階にある三年生Eクラスだ。


「おいごら清人ー!」


「わっ!?」


桐乃さんと教室に入った瞬間、俺の唯一の友達と呼べる存在である赤沙汰幸田あかさたこうたに腕を掴まれ、男子トイレまで連行された。


「お前あの絹井さんと一緒に登校してきたってマシか!?」


「ああ、そりゃ一緒に登校するだろ。だって付き合っているんだから」


衝撃の事実が俺の口から告げられ、赤沙汰の顔がまさに開いた口が塞がらない状態となった。


「はっ!?つ、付き...え?お前と絹井さんが?」


「赤沙汰...現実を直視せよ」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


トイレは無駄に響くため、今の絶叫はこの階全体にとどろいた。

いいぞいいぞ。俺はこういう反応を待っていたんだ。


「お前...さては何か弱みでも握ったのか!」


俺の胸倉を掴み壁に押し当ててくる。


「白状しろ清人!まだ間に合う。自習しろ。俺はお前のことを大切なダチだと思っているから言ってんだよ!」


「赤沙汰...」


お前...俺のためを思って...


「ありがとう赤沙汰。俺は今もう一度お前との確かな絆を感じられたよ」


「清人...そうだよな。それでこそ俺のダチだよな!じゃあ今すぐ職員室に」


「その想いは、そっと胸の中だけにしまっておくよ」


そう告げると、俺は男子トイレを後にした。


「ちくしょおおおおおお!!!!」


何やら嘘路から怒号が聞こえてきたが、聞こえないふりをし、教室へと戻る。


「どこに連れてかれていたの?赤沙汰君に何かされなかった」


教室に入るや否や、すぐに俺の安否確認をしてくる桐乃さん。

こんなにも俺のことを心配してくれているのがただただ嬉しくてたまらない。


一方で、そんな俺たちを取り囲むかのようにおびただしい視線が向けられている。

だが今日はそんな視線も俺の飯を美味しくするということをこいつら(敗北者)は知らない。


「よーし、お前らホームルームを始めるぞ。席に就け」


ちょうどいいタイミングで担任の先生が入ってきて善人席に着いた。

あれ?赤沙汰(敗北者)の姿がどこにも見られない。

まさかあいつてトイレで現実逃避して自分で自分を慰めているんじゃ...

いや、まさかな。


「今日一時間目は私の授業だが、前から約束していた通り席替えをするぞ」


うん?これはまさかラブコメで王道の彼女と隣の席になったりして...


本当になった。


「やったね清人君!隣同士になれて」


「う、うん。よかったよ」


彼女と隣の席なんて羨ましいやん。もっと喜べや!

と思われるかもしれないが、さっきから敗北者(男子全般と一部の女子)たちから殺気が放たれているように感じる。

殺気は敗北者たちの視線も気持ちいいなんて想像していたが、ちょっとさすがに身の危険を感じる。

ここでもし俺が"よっしゃーー!桐乃さんと一緒の席になれたー!"なんて声を上げたら即粛清されるだろう。


「あ、そうだ。今日清人君のためにお昼ご飯作ってきたんだけど...食べない?」


「う、うん。楽しみだなー」


さすがは桐乃さん。


こんな殺気が溢れている中でお昼ご飯の約束をしてくるとは。

やはり彼女からしてみればこんな敗北者どもなんて眼中にないのかもしれない。


そしてお昼休み。


俺と桐乃さんは屋上と言うこれまた王道的なスポットで昼食をとることになった。

条棟西校に五号館まであるが、その中で一番街の景色がよく見れる三号館の屋上を選んだ。


「ご、ごめん桐乃さん、せっかく作ってきてくれたのに...」


「う、うんうん。気にしないで。別に頼まれてもいないのに勝手に弁当を作ってきた私が悪いんだから」


朝桐乃さんから弁当を作ってきたと言われたときは忘れていたが、俺には凛華が作ってくれた弁当があったのだ。


「でも美味しそうなお弁当だね」


俺の弁当には置かずに唐揚げとひじきとサラダがちょうど均等に分けられていて、白飯には鳥そぼろがかけられている。

凛華は俺の好き嫌いを把握しているためハズレがない。


「これってお母さんが作ってくれているの?」


「いや、お母さんはほぼ出張で家には帰ってこないよ。代わりに妹が作ってきてくれる」


そう口にした瞬間、桐乃さんの笑顔が少し沈んだ気がした。


「...清人君って妹さんいたの?」


「うん、四人いるよ」


「へぇ~四人もいるんだ...そうなんだ」


あれ?なんか急に桐乃さんのテンションが下がってきている気がする。


「あ、た、多分俺これだけじゃ足りないから桐乃のそのハート型の卵とかもらってもいいかな...?」


「え?あ、うん!どんどん食べていいよ!」


やはり女の子は自分の作った弁当を食べてもらうと嬉しいのか。

それならこれからは凛華にお弁当はいらないって伝えた方がいいのかな。


昼休みが終わり、二人でまたE組まで戻る。


だが、教室に戻るまでの間桐乃さんが一言もしゃべらず、無表情になっていたのは俺の見間違いだったのだろうか?


ちなみに桐乃さんの弁当をつまみ食いばっかりしたので、お腹が膨らんでしまい凛華の弁当を残してしまったが...なんとかなるよな...?

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