彼女との初登校
「はぁ、はぁ、はぁ」
息を切らしながら走り、何とか桐乃さんの家の前の路地までたどり着いた。
「こ、ここを曲がると桐乃さんの家か」
疲れと緊張を感じながら路地を曲がる。
「あ、おーい清人君。こっちこっち」
すぐに元気よく手を振るう桐乃さんの姿が目に入った。
あんなスタイルのいい美人が背伸びをしながら手を振るう姿を見ただけで、俺は今日休まずに学校に来た恩恵を受けたと言える。
「ご、ごめん桐野さん。待った?」
「全然待ってないよ。わたしも今家から出てきたところだし」
このセリフが出てきたということは、桐乃さんに気を使わせてしまったということだ。
クソ、やっぱり朝はヤンデレボイスで目を覚ました方が朝食を食べるスピードが速くなるのか。
「それじゃあ行こうか」
桐乃さんが手を差し伸べてくる。
これはまさか手をつなぎながら登校するってことですか!?
こんなシュチュエーションは恋愛小説やラブコメ漫画の中だけだと思ってた。
条西にもカップルは何件かは成立しているが、手をつなぎながら登校している場面に遭遇したことはない。
俺は迷わずその手を取った。
「え?清人君手を怪我してない?」
「え」
言われて手を見てみる。
すると確かに手のひらに少しあざができているのを確認する。
さっき玄関から出たときにつまずきそうになったのを地面に手を付けて抑えたときにできたものだろう。
「あー全然気にしなくていいよ。かすり傷みたいなもんだから」
「そんなにけがを軽視しちゃだめだよ!」
すかさず桐乃さんはリュックの小さい方のポケットからばんそうこうを取り出し、俺の手のひらに貼る。
「あ、ありがと...」
「全然いいよ。恋人がけがをしたらすぐに手当てするのが当たり前だもん」
...普通にキュン死しそう。
「さすがにばんそうこう貼った手だと痛いと思うから、反対の手でしようか」
桐乃さん俺の右手を掴む。
やっぱり陸上部ということだけあって力が強いな。
少し痛みを感じる。
そこからは二人で手をつなぎながら登校する。
と言っても、桐乃さんの歩くスピードが速く、横に並んでいるというわけでもないが。
「ねぇ、清人君の趣味って何?」
そんなペースで歩いているのにも関わらず、こうやって桐乃さんの方から話題を振ってくる。
無理をしているという感じでもない。
「読書することかな」
嘘です。
休日のほとんどをギャルゲーに費やしています。
「へぇ―そうなんだ。何系の本を読んだりするの?」
まずい。なんて言おうか。
正直なことをいえば純文学はほとんど読んだことがない。
大体はラノベと漫画で、しかもハーレム系だ。
「ミステリー系とかかな」
勝手な偏見だが、純文学の大半はミステリー系だろ。
「清人君ミステリー系好きなんだ。ちょっと意外かも...」
逆に桐乃さんが俺がどういう系の本を読んでいると思っているのか気になる。
「わたしは漫画が好きで、特にデスゲーム系が好きかな」
「で、デスゲーム?」
「うん。特に最近読んでいるやつだとある高級ホテルに修学旅行中の高校生たちが閉じ込められて、そこで殺人鬼と鬼ごっこしているっていうのが好きでさ」
「そ、そうなんだ」
桐乃さんがデスゲーム系を読んでいるのなら、俺も素直にハーレム系を読んでいますって言えばよかったな。
そんな会話をしていると、登校中の生徒と遭遇し、続々と視線が集まる。
「おいあれ絹井さんだよな?隣の奴誰だ?」
「まさかあの絹井さんが彼氏持ちだったなんて...夢が完全に崩壊した」
「とりあえずあの隣にいる男は粛清だな」
負け惜しみの声がたくさん聞こえてくる。
いや~この優越感がたまらない!
「桐乃ちゃんおはy...え?彼氏できたの?」
クラスで一番桐乃さんと仲の良い
童顔な顔が特徴的で、桐乃さんの隣にいるということもあって、いつもニコニコしていて優しいという印象がある。
「そうだよ。同じクラスの清人君」
「へぇ~そうなんだ」
顔には笑みを浮かべているが、一瞬俺のことを睨んだのを見逃さない。
「じゃあ私は先に教室で待ってるね」
空気を読んで彼女は去っていく。
「あ、もうすぐ予鈴がなっちゃうね。清人君。ちょっと早歩きしようか」
「う、うん」
こうして俺の彼女ができてからの最初の一日が始まる。
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