朝のルーティン

いつも朝はスマホから聴こえてくる目覚ましツンデレボイスで目を覚ます。


「ちょっとアンタ!いつまで寝てるのよ!」


「ふん!もう知らない!勝手に寝てれば!」


「ねぇいい加減に起きなさいよ!寂しいじゃない...」


ドSボイスもいいが、こういうツンデレボイスもたまらない。

でももう彼女ができたのだから他の女性の声を聴いて起きるのは浮気だと思われても仕方ない。


「とっとと起きるか」


平日の朝のルーティーンとして、まず起きたら洗面所に行き顔を洗う。

そして制服に着替えてから一階に降り、凛華の作った朝食を食べる。

朝食はトースト、目玉焼き、バナナと決まっている。

流石に朝は夕食のようなルールはない。


リビングに入ると歩歌と風珠葉が黙々と食事をしていた。

凛華はもう朝練に出掛けたのだろう。


「「「......」」」


黙食と言うルールがないにも関わらず、誰も口を開かない。


歩歌はスマホをいじっており、風珠葉はテレビを見ている。

まぁ俺もイヤホンしながらだらだらと動画を見ているが。


こんな朝食現場を凛華に見られたら体罰一択だ。


「...さん」


それにしても最近の動画のコメント欄の民度は終わってるよな。

いちいち語尾に"草"をつけるところとか癇に障る。


「兄さん」


ん?今なんか"兄さん"と呼ぶ女の子の声が聞こえなかったか?

まさか幻聴?ヤンデレasmrの聴きすぎでとうとう耳が汚染されたのか。


「兄さん!!」


すると、さっきまで正面でスマホをいじりながら朝食を食べていた歩歌が思いっきり台パンをした。


「うわっ!?ど、どうした歩歌?」


まさか歩歌も女性向けのasmrの聴き過ぎで幻聴が聞こえたととかか...?


「なんでさっきから呼んでるのに全然応答しないわけ?」


呼んでいた?

ということはさっきのは幻聴でも何でもない...?


「お、驚かさないでくれよ歩歌。俺はてっきりお前が女性向けasmrを」


「何を言っているのか分からないし興味もないけど。今日だからね?」


「今日だからって何が...?」


「は?嘘でしょ...まさか忘れたの?」


歩歌から表情が消える。

え?いきなりどうした?なんか怖いんですけど...


「今日一緒に塾の見学に行くって話...忘れたの?」


心底軽蔑したような口調で俺に問う。


「あっ!?そ、そうだよな。今日だよな。そんなの当たり前すぎて一瞬忘れちまったよ」


まぁずっと忘れていたのだが。


「ったく。今日の六時からね。絶対に来てよ」


「分かってるって」


俺も歩歌も今年は受験生なため、塾に通わなければならない。


俺は塾なんて行く必要ない論者なのだが、当然そんなことを実質的我が家の当主である凛華が許すわけもなく、泣く泣く塾に行かされることとなった。

しかも何故か歩歌と同じ塾に。

今日俺が見学に行く塾は高校受験組と大学受験組に分かれている。

歩歌は中一のときから塾に入っているが、俺は今年初めて塾に入る。


「それと、帰りはあたしの授業が終わるまで待ってて」


「え?その必要ある?」


「あるに決まってるでしょ?兄さんを一人で帰らせたら、どこかで道草を食って後であたしが凛華姉さんに叱られるっていうのがお決まりなんだから」


そんなことをする勇気が俺にあるわけがないというのは歩歌が一番よくわかってると思うが...


「はいはい、分かりましたよ..ってえ!?」


歩歌との会話が終わりスマホの時計を見てみると、もう七時四十分を過ぎていた。


「やばいやばいやばい!」


残されたトーストを一口で食べ、急いで二階からリュックを持ってくる。

台床においてある凛華の作った弁当をリュックに入れ、玄関に向かう。


「?どうしたお兄ちゃん。そんなに急いで。いつもならまだこの時間ゆっくりしてるでしょ?」


慌てて靴を履き、玄関を出ようとしていた俺に後ろから風珠葉が声をかける。


「ちょっと急用が入っちゃってな。もう家を出なくちゃならないんだ」


靴を履き終え慌てて玄関のドアを開いたもんだから、とっさに姿勢が崩れる。


「ちょっとお兄ちゃん!?大丈夫?」


「あ、ああ。大丈夫だ。それじゃ行ってくる」


玄関のドアを閉め、その場から逃げるように桐乃さんの家をめがけて走る。

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