兄妹の食卓
俺の家は桐乃さんの家までとは言えないが、それなりに広さのある一軒家だ。
まぁ兄妹が五人もいるのだからこれぐらいの広さでなくては。
「ただいまー」
「お帰りなさい、兄さん」
帰ってきた俺を出迎えてくれたのは三女の
歩歌は俺とほぼ身長が同じで、金髪を後ろで結んでいて常に少し蔑んだ瞳をしているという同人誌で出てきそうな女の子だ。
「兄さん。今日は随分帰るのが遅くなったみたいだけど何かあったの?」
「い、いや別に何もないぞ。ただ久しぶりに友達と遊んでいただけだぞ」
咄嗟に嘘をついてしまう。
本当のことを話してもよかったが、どうせ信じてもらえないのがオチだ。
「ふーん。友達ねぇ...」
歩歌は全く納得していない表情をした。
え?そんなに俺が友達と遊んだって言うのが現実味ない?
まぁ確かに今まで俺が友達と遊んで帰ってくるという経験は少ない...というかないが。
「まぁいいわ。とりあえずそういうことにしておいてあげる。それよりもう
「ああ、分かった」
正面のリビングに通される。
いつも夕食は次女の凛華が作ってくれている。
本当に凛華には頭が上がらない。
しっかり者で、手を抜かずに家事をこなしてくれている。
朝食もお昼の弁当までも作ってくれている。
「お帰りお兄ちゃん」
「遅いぞ。清人」
リビングに入ると、凛華と末っ子の
なぜか濡髪家では長女以外の兄妹全員一緒に夕食を食べなくてはならないというルールがある。
その決まりを作ったのは凛華だ。
「ほら、早く席につけ」
荷物を降ろし言われた通りに凛華の隣に座る。
席の位置は年順となっており、中学二年生の風珠葉と中学三年生の歩歌。
高校一年生の凛華と高校三年生の俺で別れている。
「おい清人。夕食を食べる前に何か私たちに言うことがあるだろ」
短髪黒髪で、中性的な顔立ちをしている凛華が俺に謝罪を促す。
「えーっと遅れたのは悪かった。久しぶりに友達と遊んでいたからつい」
「お兄ちゃんに友達?冗談でしょ」
小柄で茶髪をお団子結びにしている風珠葉が途中で遮る。
「あのなぁー。俺みたいに普通に過ごしている男子高校生に友達が一人もいないはずがないだろ」
「兄さんが普通なわけないでしょ」
呆れながらつぶやいたのは歩歌だった。
こいつら、ちょっとは俺を持ち上げるようなことを言ってくれてもいいんじゃないか?
「お前が本当に友達と遊んでいたかは不明だが、次から遅くなるとき必ず連絡すると肝に銘じておけ」
「わ、わかった」
凛華は面倒見はいいが、その分家のルールや生活態度には厳しい。
現にまだ中学生である歩歌と風珠葉には門限を設定している。
凛華は小さい時から剣道をしているため、このせいで俺の中では剣道女子は常に男口調であるという偏見が生まれてしまった。
「では、いただきます」
「「「いただきます」」」
全員で合掌をし、食事を開始する。
凛華が作るご飯は、基本定食型だ。
ただ、飽きないようにみそ汁や魚の種類が日によって変わっている。
量も一人一人に合わせてちょうどいいぐらいに収まっている。
俺なんかは結構小食なためこの量でもきついが。
かといって残すなんてとてもじゃないができない。
「おい清人、肘をつけるな」
「さーせん」
「風珠葉、みそ汁をすするときに音を出すな」
「はーい、凛華ねぇ」
見ての通り凛華は食事のマナーについても厳しい。
もし残したりでもしたら本当に竹刀を持ち出してくるかもしれない。
「「「「......」」」」
我が家では食事中に会話をするのもマナー違反とされている。
そのため気まずい沈黙が続く。
ってあれ?
今日この時間って確か俺が見たかったアニメの一時間スペシャルが放送するんじゃなかったっけ?
まずい、予約するの忘れてた!
「えーっと、少しテレビつけてもいいかな」
「逆にそんなことを私が許すと思っているのか?」
ですよねー。
仕方ない。もう少し待ってDVD買うか。
再び沈黙に戻る食卓。
「ご馳走様」
歩歌が最初に食べ終わった。
食べ方もとてもきれいで、茶碗には米粒一つついていない。
「......」
だが歩歌は席を立とうとしない。
それは我が家特有の全員が食べ終わるまでは食器を片付けてはいけないという古臭いルールがあるからだ。
「はぁー。早く食べ終わってよ」
歩歌がイライラまだ食べ終わっていない三人...具体的に言うと一番食べるスピードの遅い俺に悪態をつく。
「歩歌。自分が食べ終わっているからってせかすようなことを言うのはやめろ」
「......」
凛華に注意を受けるが、歩歌は無視を決め込む。
最近歩歌はよく家族内で衝突することが多い。
恐らく凛華の定めた厳しすぎるルールに不満を覚えているのだろう。
どうしよう。
ここは長男の威厳として凛華にルールを緩和させるように言うか。
「なぁ、り」
「黙って食べろ」
...もしかして俺長男向いてない?
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