第9話 冒険者デビュー

 週末になった。

 入学してから初めての土日、初めての二連休である。やはり休日というのはいい。日々の疲れを癒し、趣味に時間を費やし、家でまったりゴロゴロするもよし、遠出するもよし。

 でも五日の疲れを二日で取れると思うなよクソが。五日働いたんなら五日休みくれよ。


 などと思っていたのも一ヶ月前くらいまで。

 学生である今は、正直言って毎日休日みたいなもんだ。仕事に比べて楽すぎる。

 いや、ルナーリアの監視やらなんやらの仕事中でもあるんだけど。


 そして残念なことに、今日もそんなお仕事の一環だ。

 軍の仕事で不在のリリを除いた四人、俺を含めた五人で冒険者ギルドへ行くことになっている。

 一度屋敷に戻った俺と、恐らく集団行動しないだろうルナーリア以外の三人は学園から一緒に向かってるだろう。俺は現地集合。


 ドロシーに貸す銃と、自分の使う冒険者時代の装備を準備していざ鎌倉。


 帝都の大通りに面している冒険者ギルドは、フェンリル邸から徒歩20分ほどの距離。集合時間まで余裕もあるのでゆっくり歩いて向かったのだが、ギルドの扉を開けると制服姿のドロシーとベルクの姿が見えた。


「よっ、早いな」

「おお、来たかガルム」

「お、おはようございます……」


 堂々としているベルクとは対照的に、ドロシーは極限まで肩を縮こまらせていた。まあ、分からんでもないけどね。ここうるさいし。


 冒険者ギルドはひとつの建物に様々な施設が詰め込まれている。

 依頼受付のカウンター、素材の買取カウンターだけでなく、冒険者に必要な道具売り場や、素材の解体場所。

 中でも一番スペースを取っているのは、昼間から飲んだくれが大量に陣取っている酒場だ。


 別にあのオヤジどもが仕事をしてないわけじゃない。ああ言うやつらは大抵、日を跨いでの依頼から朝一で帰ってきたやつらだ。

 なんなら別にオッサンだけじゃなくて、若い連中も普通にいるし。


「で、オスカーは?」

「あっちだ」


 ため息と共に指し示した先では、オスカーが女性冒険者パーティに声をかけていた。

 だがどうやらこちらに気づいたようで、二、三話してから切り上げてこちらへやって来る。


「よーガルム、すげえ冒険者って感じだな」

「そうか? 我ながら浮いてると思うけど」


 オスカーたち三人は制服だが、俺は冒険者時代の装備に身を包んでいる。

 シャツの上にタクティカルベストを羽織っていて、更にその上から白いコート。腰の改造ホルスターにはハンドガンと短剣を差している。予備のマガジンはベストに。


 正直、元の世界だとサバゲーマーにしか見えないだろう。いや、サバゲーマーでも白いコート着てるやつとかいないかもしれない。

 実際この場においても、他の冒険者たちは全身を鎧と兜に包んでるやつだったり、三角帽子とローブを羽織ったいかにも魔法使いっぽいやつだったり、あるいは軽装備だとしても長い剣を腰に佩いていたり、背中に弓矢を背負っていたりするものだ。


 いかにも異世界、いかにも冒険者っぽい出立ちのやつらばかり。


「銃使うやつは少ないからな、冒険者には」

「言われてみればたしかに、ガルムのように銃を装備してる者はあまりいないな」


 魔法が存在するこの世界でも、銃はそれなりに需要のある装備だ。どれだけ魔力が弱くても一定の戦力を手に入れることができる。魔法に頼らず戦うことができる。

 前世の世界と同じだ。帝国軍も小銃を正式採用しており、全部隊に配備されている。


 ではなぜ、冒険者たちは剣やら槍やら弓矢やらを使っているのか?

 端的に言えば、その方が強いから。


「銃弾よりも速く動けば、銃なんていらない。そういう暴論が通じるやつらなんだよ、冒険者ってのは。実際お前たちも、銃を使うつもりはなかっただろ?」

「まあ、それはそうだが……」

「銃は一定の火力を保証してくれる。これは誰が使っても変わらない。軍みたいに数を用意して部隊単位での大規模な作戦行動なら、これは大きな強みになる」


 でも冒険者は、軍とは戦略、戦術の規模が違う。

 言うなれば、少数精鋭。

 最大六人までのパーティで、強力な魔物と戦ったり、秘境を探索したり、ダンジョンを踏破したりするのだ。


「一定の火力は保証してくれるが、それ以上は望めない。数を用意できるなら容易に高火力を発揮できるが、少数精鋭の冒険者はそれ以上の火力をたった一人で叩き出す。使う意味がないんだよ、上位の冒険者には」

「でもガルムは使うんだよな?」

「うむ、その理屈で言えば、ガルムも銃弾より速く動けるだろう」


 ほう、さすがはマッスル山田。そこまで見抜かれてるか。


「俺はちょいと魔力の放出が苦手でな。遠距離攻撃の手段に乏しいんだよ」


 これは嘘じゃない。

 実際に俺はいかにもな魔法を使うのが得意じゃない。ルナーリアみたいな属性魔法は使えないし、リリのようなビームじみたもんも無理。

 ただ、俺が銃を持ってる理由はそれだけじゃないけど。


「おっ! 久しぶりじゃねえか《白薔薇》!」


 不意に、冒険者のそんな声が響いた。

 扉の方へ視線をやれば、白銀の少女が堂々と歩いている。


「風の噂で、魔法学園に入ったって聞いたぜ!」

「おいおい、ガキどもに混ざって今更なにを学ぶってんだよ?」

「少なくとも、酒臭いここよりは学べるわよ」

「ははは! 相変わらずだなおい!」


 色んな冒険者に声をかけられては、鋭い毒舌で返す。しかし冒険者たちもそれで気を悪くすることはなく、みな笑っていた。

 なんだ、意外と仲良くやってんじゃん。


「待たせたわね」


 目の前に立ったルナーリアは、全体的に白を基調とした装備に身を包んでいた。スカートから伸びるタイツだけが黒い。

 なんかお揃いみたいになっちゃってんじゃん。


 当然のように武器は持たず、腰に巻いたポーチだけが手荷物だ。


「そんな待ってねえよ、俺も今来たとこだし」

「全員、言われた通りちゃんと制服ね」


 三人の服装を確認して、うんと一つ頷いたルナーリア。

 セレスティア魔法学園一年生の制服には、次元式の防御魔法がかかっている。魔法、物理ともに、並の攻撃は一つも通さない代物だ。

 二年進級時に切れる魔法ではあるが、冒険者デビューする貴族の子供たちには十分な装備でもある。


「じゃあまず、三人の登録からね。さっさと済ませてきなさい」

「る、ルナーリアさんは、ついてきてくれないんで、すか……?」

「登録くらい自分たちでやりなさい」

「は、はいっ、ごめんなさい!」


 ちょっとルナーリアさん、ドロシーを怖がらせるなよ。ほら涙目じゃん。


「ガルム」

「ん?」

「あなた、大丈夫なんでしょうね」


 三人が受付へ向かったのを見送ると、ルナーリアが小声で話しかけてきた。

 なんの話かと思ったが、俺の正体についてかとすぐ思い至る。


「ギルドマスターとか知り合いの冒険者とかには、事前に根回し済みだ。他は俺のこと知らねえよ」


 ほれ、と酒場の方、先ほどオスカーが話しかけていた女性冒険者たちの方へ視線を向けると、彼女らはひらひらと手を振りかえしてくれた。

 オスカーは知ってか知らずか分からないが、彼女たちも有名なA級パーティのひとつだ。


「ならいいけれど。随分手広く女性に粉をかけてるのね」

「おっ、なんだ嫉妬か?」

「凍らせるわよ」


 怖い怖い。ちょっとした冗談じゃねえか。


「彼女たちにはリリが世話になっててな」

「でしょうね。何度か組んだことがあるけれど、アルカンシェルの話をされたこともあるわ」

「さっきも思ったけど、意外と仲良くやってんだな」

「S級の条件を忘れたの?」


 S級ソロとはいえ、完全にソロで活動していたらS級にはなれない。パーティでの活動実績も必要だ。

 ルナーリア的には、必要な馴れ合いってやつになるのだろう。


「それで、S級六位様は今日どのようにご指導されるつもりで?」

「とりあえず適当に討伐依頼をこなすわ。私とあなたで手本を見せて、あの三人にやらせる。それで十分でしょう。それともS級三位様には、他になにか案でも?」

「まさか。俺も十分だと思うぜ」


 リリがいないために人数は変わってしまうが、基本的な連携を教えるだけなら十分だろう。俺とルナーリアのどちらかが、一人で二つの役割を果たせばいいだけだ。


「肝心の適当な依頼ってのは?」

「ワイルドボアかゴブリンの掃除かしら」

「初手でゴブリンは厳しくないか? あいつら、群れたら面倒だぞ」

「私とあなたがいるんだから、万が一はないわよ」

「そう言われると悪い気はしねえな」


 まあ、そのどっちかの余ってる依頼でいいか。



 ◆



 三人が無事冒険者登録を終えた後、俺たちは帝都郊外の森へ来ていた。

 主要街道からも外れたここは、帝都から車で一時間、徒歩でその倍は掛かる。便利なリリがいないので徒歩での移動になりそうだったのだけど。


「いやぁ、冒険者は横の繋がりが大事って意味がよく分かったよ。ガルムとルナーリア嬢が来るまでに親交を深めてて良かった」


 などとほざくのは、ギルドで女性冒険者たちと楽しくお喋りしていたオスカー。

 彼女が件のA級パーティにお願いしたら、森まで転移魔法で送ってくれたのだ。


 ちなみに、転移魔法は一部の天才魔法使いにしか扱えない超高難度魔法である。


「ナンパ男もたまには役に立つわね」

「はは、そう褒めないでくれよ」

「褒められてないぞ、オスカー」


 呆れ気味に突っ込むベルクは、その大きな体がほんの少し強張っているように見えた。陽気に笑っているオスカーも、となれば当然ドロシーも、やはり。

 冒険者デビュー、初めての依頼、実戦とあって、見るからに緊張している。


 こればかりは仕方ないことだ。

 これから行うのは命の奪い合い。相手が人類共通の敵である魔物とは言えど、その事実自体は変わらないのだから。


 そして、その緊張を乗り越えられないものも、一定数存在している。そういうやつらは早々に冒険者を諦めるのだが、果たしてこの三人はどうか。


「いたわよ」


 先頭を歩くルナーリアが足を止めた。

 森の浅い位置。俺たち五人の行く手を阻むように、大きな猪が一匹立っている。

 通常の猪と違い、筋肉が不自然に膨張して、二本の牙は異様に伸びている。


「あれが、ワイルドボア……魔物……」

「ドロシーは魔物を見るのは初めてか? あれでも魔物の中だと、かなり弱い方だぜ」


 貸したライフルを両手で抱きかかえているドロシーは、ゴクリと唾を飲み込む。体は震えてしまって、このままでは戦闘なんてできないだろう。


 実際、ワイルドボアは初心者向けの魔物だ。まず真っ直ぐにしか突っ込んでこない。やつは突進中に曲がれないのだ。スピードもそこまで大したことないし、防御力なんか紙。その癖肉は結構美味いので、食用に討伐依頼が舞い込んでくる。


「まず、私たちで手本を見せるわ。ガルム」

「はいよ」


 改造ホルスターから銃を抜き、空に向かって一発撃つ。


 発砲音が鳴り響き、ワイルドボアがこちらに気づいた。プギャーと鳴き声をあげて威嚇してくる。


「手加減しなさいよ」

「言われなくても」


 連携の手本を見せてやらなければならないのだ。一人で倒したら手本にならないだろうが。


 右手に短剣、左手にハンドガンを持ち、真っ直ぐ突っ込んでくる猪と向き合う。


「まず前衛、ベルクの役割は、敵の攻撃を引きつけることだ」


 一歩横に躱して、ワイルドボアの横っ面を出来る限り力を抜いて蹴り付けた。

 よし、死んでないな! 牙も折れてない!


 攻撃されて怒ったのか、またプギャーと鳴き声をあげる猪くん。うん、いいよいいよ、気合い入ってんじゃん。


「中衛、オスカーの役割は、攻撃を引きつけてくれてる前衛のサポートと、後衛に攻撃がいかないようにも注意しておくこと」


 つっても、今回は俺とルナーリアの二人だけなので、その手本は見せてやれない。

 と思えば、後ろから氷の茨が伸びてきた。ワイルドボアの逃げ道を塞ぐように左右に伸びるそれは、直接的な攻撃ではない。しかし、やつの行動を制限するのに十分な効果を持っている。


「こんな感じだな」

「最後に後衛。ドロシー・エクレール。あなたは固定砲台、火力担当よ」


 再び突っ込んでくるワイルドボアの顎を、思いっきり蹴り上げる。空高くに舞い上がった猪は、なにが起こったのか理解できていないのだろう。どこか呆然とした表情にも見えた。


「ルナーリア!」

「いちいち名前を呼ばないで」


 不満そうな声と共に、氷で作られた五本の剣が飛来。空中のワイルドボアを串刺しにする。

 そのまま重力に従い地面に叩きつけられた猪は、完全に絶命していた。


「と、こんなもんだな。俺たちの真似をしようとしなくてもいい、自分たちのやり方で、さっき言った役割を意識しながら戦ってみてくれ」

「ここまでで質問はある?」


 三人が首を横に振ったのを見て、次の獲物を探しに森を進む。


 ベルクは騎士団の正統な守りの剣術が使えるし、オスカーも得意な風魔法はなかなかの練度、ドロシーも既存の汎用魔法全てを使えるし、ライフルの扱い方もちゃんと教えた。戦力的には申し分ない。

 あとは、本人たちの心持ち次第だ。


 その後程なくして、二体目のワイルドボアを見つけた。今度はこちらが接近したらすぐに気づかれてしまったが、まあ問題ないだろう。


「よし、じゃあ次はお前ら三人だけでやってみろ」

「頼むぞベルク! ちゃんと引きつけてくれよ!」

「べ、ベルクくん、お願いしますね⁉︎」

「うむ、任せておけ!」


 真っ直ぐ突進してきたワイルドボアを、ベルクが剣で受け止める。さすがはマッスル山田、猪と真正面からぶつかって拮抗している。


 その隙に、風の弾丸が猪の横っ腹に突き刺さった。オスカーの魔法だ。紙防御のワイルドボアはそれだけで体勢を崩してしまい、ベルクに押し切られた。


「よし、ドロシー今だ! 教えた通りに!」

「は、はい!」


 ライフルの引き金を引き、三発の弾丸が飛んでいく。命中率とある程度の打撃力を両立させた3点バーストの弾丸は、全てが猪の頭に突き刺さった。


 だがそれだけでは死なない。鉛の弾を三発頭に受けただけでは、魔物の生命力は尽きない。

 が、しかし。その直後のことだ。ワイルドボアの全身に電撃が迸り、完全に沈黙したのは。


「よしよし、ちゃんと使えてるな、その改造ライフルと弾丸」

「あ、ありがとうございます、ガルムくん!」


 俺が持ってきたライフルは、特別製の弾丸が撃てる改造ライフルだ。

 この世界の銃は、通常の弾丸と魔力の非物理弾の二種類を打ち分けることができる。通常の弾丸は貫通力に優れるが、一方で魔力弾は反動が少なく命中率に優れる。その上汎用魔法を込めてやれば、色んな追加効果が得られるのだ。


 ドロシーに貸している改造ライフルは、命中率をある程度犠牲にして、通常弾の貫通力と魔力弾の追加効果を両立させた弾丸が撃てるのだ。


 今ので言えば、弾丸に雷魔法を込めた。ワイルドボアにヒットした時点で術式が起動し、電撃がやつを襲ったというわけだ。


「そのライフル、ドロシーにあげるよ。俺はもう使わないやつだし」

「えぇ⁉︎」

「あ、弾丸はちょっと変わった工房に依頼してるから、今度教えるぜ」

「そ、そんな! 悪いですよ!」


 頑なに首を横に振るドロシーだが、正直俺が持っていても無用の長物なのだ。だって俺、いわゆる属性魔法系はほとんど使えないし。


 とりあえずその件は後でもう一回話すとして、だ。


「連携に問題はないわね。殆ど理想的な動きだったわ」

「だな、さすが幼馴染ってところか」


 ワイルドボアくらいの相手なら、この三人だと敵じゃないだろう。

 とはいえ、今回受けた依頼はあの猪の肉を取ってくることだ。他の魔物の相手をしてもいいのだが、今回はワイルドボアを優先するとしよう。


「あともう一体くらい狩れば、依頼分の肉は達成なんじゃないか?」

「お、ベルク。その辺の判断は結構重要だぜ。無駄な戦闘はしないように、特に素材採取系の依頼はちゃんと見極めないとだからな」


 今回はベルクの言う通り、あともう一体分の肉があれば依頼達成だ。

 さてそのもう一匹を探しに行くかと、その時。


「なあ、ちょっと待ってくれ……」


 オスカーが、待ったをかけた。


「どうしたオスカー?」

「なにか、変な音が聞こえないか?」


 彼は高域に風魔法を展開していた。索敵、探索に使われる類の魔法だ。手を当てて耳を澄ましている。


「ガルム」

「ああ、なーんか嫌な予感がするな」


 急いで索敵魔法を展開すると、ビンビンに反応があった。俺やルナーリアよりも早く気づいたオスカーに舌を巻きつつ、こいつはやばいと内心で舌打ちする。


「音が、近づいてくる……?」

「オスカー、魔法を切れ! 森から出るぞ!」

「遅い! 来るわよ!」


 森の草木を掻き分けて、三メートルを越す巨体が現れる。

 右手には人より大きな棍棒。全身の肌は赤く、額には立派な二本の角が。


 感じ取れる魔力は膨大だ。およそ人類には叶わないのではないかと、そう思わされるほどに。

 オスカーたち三人は魔力にあてられて腰を抜かしている。いや、魔力だけじゃない。やつから放たれる殺気も影響しているか。


冰剣絶華ブランシュローズ!」


 ルナーリアが迷いなく魔法を発動する。S級六位が、かけらの逡巡もなく全力の魔法を。

 そうしなければならないほどの相手。


 即ち、神災級の魔物。

 オーガキング。


 王の名前は伊達じゃない。普通のオーガですら、神災級の二つ下である災害級として扱われるのだ。その王ともなれば、やつ一体で国を一つ落とせる。


「クソがっ、なんで神災級がこんな初心者御用達の森にいるんだよ!」

「三人とも逃げなさい! 庇いながら相手できるようなやつじゃないわ!」

「だ、だが……!」


 ルナーリアの放った氷の刀剣が、棍棒の一振りに全て砕かれる。大きく舌打ちすると共に、銀髪を靡かせるエルフの少女は両手に剣を持って斬りかかる。


「ルナーリアの言う通りだ、俺たちで時間を稼ぐから、早く逃げろ」

「ガルムも残るのか⁉︎」

「まあな。さすがのS級六位様でも、何の準備も無しに神災級相手はきついだろ。安心しろ、俺も固有魔法はあるし、あいつの足手纏いにはならないよ」

「いや、でも!」

「お、オスカーくん……ガルムくんの言う通りです……わたしたちは、足手纏いにしかならないですから……」


 その目で、オーガキングの魔力を見たのか。

 震えながらも、涙を浮かべながらも、ドロシーはオスカーの服を掴んで、逃げようと提案する。

 冷静に状況が見えてるようでなにより。冒険者には必要な資質だ。


「そういうわけだ。ベルク、三人の中で一番腕が立つのはお前だ。二人を守りながら、森を出ろ。神災級がいきなり現れた原因が分からない以上、他に何があるかも分からないからな」

「……わかった。さあ行くぞ、二人とも!」

「ああもう! ガルム、死んだら許さないからな!」


 安心しろよ、死なないから。

 去っていく三人の背中を見送って、改めてオーガキングに向き直る。

 ルナーリアも一度下がり、俺の隣に並んだ。


「どうだ?」

「硬いわね、さすが神災級ってところかしら」

「殺せるか?」

「私とあなたが揃ってるのよ?」

「随分と信頼してくれるじゃねえの」


 だがまあ、ルナーリアの言う通り。S級が二人も揃っているのだ。面倒ではあるが、倒せない相手じゃない。


「つっても、腐っても神災級だ。本気出さないとキツイな」

「ならあの三人を逃したのは正解ね」

「おっ、お前も本気出すのか?」

「当然。巻き込まれないでよ」


 銀髪エルフの右手には、先日も見た氷の大鎌が。ついぞその真価を見ることは叶わなかったが、ここで見せてくれるらしい。こいつは思わぬ収穫だ。ちょっとオーガキングに感謝してもいいかもしれない。


 ルナーリアに倣って、俺も魔力を解放する。


冰月絶華ブランシュローズ

時星疾走アクセルトリガー


 同時にその名を唱え、戦いが始まる。

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