第7話 模擬戦の結末
眼下のフィールドでは現在、オスカーがクラスメイトの女子生徒と模擬戦を行っている。
S級同士のレベルが高い模擬戦の直後で、二人とも実にやりにくそうだが。それでもやはりと言うかなんと言うか、セレスティア魔法学園に入学しているだけあって、15歳にしてはかなりやる方だ。
リリとルナーリアとは比べるべきじゃないし、そもそもこいつらは魔法学園に入る必要性皆無なわけだし。
さて、先ほどまでド派手にやり合っていた女子二人も観客席に上がってきたが、リリは早速クラスメイトに囲まれて質問攻めにあっている。
主に固有魔法について聞かれているみたいだが、残念なことに詳しいことまでは話せない。
それも当然、だって機密事項だし。
だからリリも、クラスメイトたちに対して困ったように眉尻を下げながら応対している。
一方、自分より下の順位のやつにしっかりと敗北したルナーリアはというと、リリたちからは離れた位置で一人座っていた。
あからさまな話しかけるなオーラを醸し出しているが、俺には関係ない。
周りに誰もいないのをいいことに、少し小声で話しかける。
「どうだ、昨日言った通りだろ」
「……悔しいけれど、そうみたいね。もしあの魔力吸収と次元跳躍を初手で出されてたら、もっと早く勝負はついてた」
「ま、さすがのあいつも自重したってことだな。模擬戦の目的はお互いの実力を見ることだし、開始数秒で終わらせちゃ本末転倒だ」
次元跳躍で死角から接近して魔力吸収。
魔法師相手の即死コンボである。しかも魔力の吸収だから、魔力や衝撃によるダメージを肩代わりしてくれる羽飾りは機能しない。
マジでタチ悪いなあいつ。
「途中までは勝てるビジョンが浮かんでたわ。スピードでは勝てないけれど、追いつけないわけでもない。手数と搦手を使えば押し切れると思ってた」
「あー、そういうのを全部ひっくり返すの、あいつ好きだからな」
相手が入念に準備した作戦とか、逆転の一手のために敷いた布石とか。
そういうやつを力技だけで全て無駄にすることに、快感を覚えちゃうドSなのだ。
「あなたは、あれより強いのよね?」
「弟子に負けちゃ師匠のメンツが保てないからな」
「そう……」
それきり黙って、顎に手を当てなにやら考え込んでしまった。
思いの外凹んでないし、自分の負けを素直に受け入れてるし、分析もしっかりできてる。
イメージと違うっちゃ違うが、あれだけ強さに拘っていたのだ。その姿は逆にしっくりくる気もする。
その後も模擬戦はそれなりのペースで消化していった。当然俺もやったが、相手はマッスル山田ことベルク。ある意味ちょうどいい相手と当たったので、適当に手を抜いて適当に負けておいた。
全員分の模擬戦が終わり、改めてフィールドの上に集まる。
「まずはお疲れさん。それぞれ、自分の実力を把握するいい機会になっただろう。勝敗にこだわるなと最初に言ったんだが、まあ、負けた奴は思うところあるわな。と言っても、まだ入学して一発目だ。そこまで気にする必要はない」
励ますように言うグロウマンだが、約一名、まるで親の仇でも見るかの如く、自分に勝った相手を睨んでるやつがいるんすよね。そこの銀髪エルフなんですけど。
「今後の授業をお前らがどう受けていくかで、今回の勝敗が簡単にひっくり返ることもある。そいつは頭に入れておけ」
魔法学園に入学した生徒たちは、誰もが才能のあるものたちだ。だがその才能に胡座を掻かず、努力を積み重ね続けたものたちだけが、勝者となり得る。
リリも、ルナーリアも、他のS級ソロのやつらだって、みんなそうだ。
周りにどんな顔を見せていても、その裏には血の滲む努力がある。
「さて、今回の模擬戦を行ったのは、お前たちの実力を見たかったからなわけだが。それが何故かは説明していなかったな」
「今後の授業のため、とかじゃないんですか?」
「もちろんそれもあるし、決して間違いじゃない。あー、まず今から、六人一班の組み合わせを発表する。既に先輩やOBから聞いてるやつもいるとは思うが、この班分けでこれから一年、チームとして動いてもらう。例えば課外授業だったり、学園祭だったりなんだがな。基本はクラス単位での行動だが、そのクラス内で更に細かく動く時は、基本的にこの班単位での動きになると思ってくれ」
A組は全員でジャスト三十人なので、六人一班が五つ。
軍で言えば、中隊の中の小隊、小隊の中の分隊といった感じか。
前世の学校でもあったわ、班行動みたいなやつ。林間学校の飯盒炊爨とかな。
実際これは社会に出る上でも割と必要なことではないかと、個人的に思っている。
労働というクソみたいなもんには、集団行動がほぼ必ずついて回る。会社、部署、班と大きな規模から小さな規模までより取りみどり。
面倒な人間関係を円滑に進める術を学ぶのに、学生のうちからこういった班行動はばっちりなのだ。
「それじゃあまずは一班。リリウム・アルカンシェル、ルナーリア、ガルム・フェルディナント、オスカー・ニュアージュ、ドロシー・エクレール、ベルク・モンターニュ。以上の六名だ」
その後も続けて五班までの組み合わせが発表されていく。生徒たちは同じ班になった面々とよろしくねーとか言い合ったり和気藹々としている、わけではなかった。
「お待ちください、グロウマン教諭!」
律儀に挙手して異を唱えたのは、赤髪の少年。眉間に皺を寄せて、いかにも納得いっていませんといった表情をしている。
たしか名前は、エリック・インソレンス。
実家は伯爵家、准将から受け取ったリストにも名前があった、要注意人物のひとり。
「どうしたインソレンス」
「この編成の基準をお聞かせ願いたい! 公爵家の名を汚す無能や落ちこぼれだけでなく、卑しい平民に悍ましい銀髪のエルフまでも皇女殿下と同じ班とは、なにを考えていらっしゃる⁉︎」
まあ、ご覧の通りである。
もはや説明するまでもないが、こいつは周りを見下しがちだ。平民への差別も銀髪エルフへの嫌悪も隠そうとせず、己の考えが絶対の正義だと信じて疑わないガキ。
つーかお前の実家、公爵家の子息令嬢にそんな口利いていい爵位じゃないだろ。
あと山田、俺は? みたいな顔してんじゃねえよ。
「編成の基準ねぇ。実力の近い奴らを同じ班に集めただけだが?」
実力主義を謳うこの学園で、成績や腕っぷしの強さをバランスよく均等にする意味はない。たしかに下の方の生徒はレベルアップが図れるだろうけれど、それだと上の方の生徒が一方的に割を食うから。
近い実力を持つもの同士で組ませ、切磋琢磨させる。上も下も全体のレベルを上げるには、結局こうした方がいい。
「余計に納得いかないな。であればなおさら、殿下の班には私が相応しいはずだ! それをなぜ平民ごとにが!」
「お前よりフェルディナントの方が強いからだ」
「しかしやつはモンターニュに負けていた!」
「勝敗が全てじゃない、そう言ったはずだが」
この手の輩にはなにを言っても無駄だ。もう自分の中だけで完結しているから、外の意見を聞こうとしない。
しかしこれは、こいつ一人の意見というわけでもないのだろう。見ればクラスメイトの何名かは、やはり納得いかなそうな顔のままだ。
声に出さないだけで、俺が何故ここに選ばれてるのか不思議に思っているらしい。
まあ、俺のミスでもあるな。模擬戦で手を抜きすぎた。
まさか騎士団長の息子をボコボコにするわけにもいかなかったけど、もう少し上手い負け方があったはずだ。
「かくなる上は、ガルム・フェルディナント! 今から私と戦え!」
「インソレンス、勝手なことは」
「いや、いいっすよ先生。それでこいつの溜飲が下がるってんならやりますよ」
エリックを諌めようとしたグロウマンを片手で制し、一歩前に出る。
こういうイキがるだけのガキは、部隊の新人でいくらでも相手をしてきた。対処法は簡単。二度とふざけた真似できないように叩きのめせばいい。
「ガルム、大丈夫なのか? インソレンス家は代々近衛騎士を輩出してる名家だぞ」
「安心しろよベルク、名家の坊ちゃんがそのまま優秀とは限らないぜ」
いや、実際エリックも優秀な方だとは思うのだけど。S級二人は言うまでもなく、ベルクやオスカー、ドロシーと比べると一歩劣る。
才能という意味ではそれなりに良い線行ってるだけに、かなり勿体無い。
「待て待て二人とも、そもそも身代わりの羽飾りはもうないんだぞ」
「なに言ってんすか先生、丁度いいことに、こちらには聖皇女殿下がいらっしゃるじゃないすか」
「ええ、もちろん。怪我をいたしましたら治療させていただきますわ」
「つーわけだ、エリック。どこからでも掛かってきていいぜ」
「貴様ァ……! 平民の分際でッ!!」
俺の態度が癪に触ったのだろう、顔を真っ赤にさせたエリックの足元に魔法陣が広がり、詠唱を始める。
それを見たクラスメイトたちが急いで距離を取ろうとするけど、そんなに焦らなくていいよ。
「我が手に集え、炎熱の業! 全てを焼き焦がす力を──」
「バカかお前は」
悠長に詠唱なんかしてんじゃねえよ。
固有魔法を使うまでもなく、簡単な身体強化すら必要とせず。一足にエリックの懐へ肉薄し、足払い。すっ転んだことで当然魔法は中断されて、顔のすぐ横を思いっきり踏み抜いた。
「俺の勝ちでいいか?」
真っ青になった顔がコクコクと頷く。
これはちょっとしたテクニックみたいなもんで、魔力の乗った声は相手に威圧感を与えることができるのだ。格下相手限定だけど。
「終わりましたよ、先生」
「はぁ……」
なにため息吐いてんだよ、喧嘩売ってきたのはエリックの方だし、俺は悪くないぞ。怪我もさせてないし。
つーか、銀髪エルフを馬鹿にした時点で俺的にはギルティ、本当ならあのまま蹴り飛ばしてやりたいところだったのを、なんとか我慢してやったんだ。むしろ褒めて欲しいね。
「見ての通り、班の編成は現段階での実力を基に決めたものだ。他に異論がある奴はいるか? いないな? なら結構。んじゃ教室に戻るぞ」
早口気味に捲し立てたグロウマンの後に続いて、演習場を後にする。
エリックはなおも俺を睨んでいたが、あの醜態を晒してもまだ元気があるのは、ちょっと尊敬するな。
◆
「それで、私はなにをすればいいわけ?」
昼休憩。正午丁度から与えられた一時間の休憩タイム。
食堂でリリやオスカーたち四人と飯を食った後、念の為に昨日刺客を倒した場所に行けば、ルナーリアの姿があった。
そして顔を合わせるなり、挨拶もせず開口一番これだ。
「遊び心のないやつだな。普通は何気ない雑談から始めるもんだぜ? じゃなきゃ仲良くなるもんもなれない」
「そう? なら私にとっては好都合ね。あなたと仲良くやるつもりはないもの」
「俺は仲良くやりたいんだけどなぁ。せっかく学園に入ったんだし、楽しい青春ライフを送りたいじゃん」
「あなた、どうせ私と同じくらいの年齢なのでしょう? あなたの種族の寿命は知らないけれど、その歳で人間に混じって青春なんてイタいだけよ」
「おう、ブーメランがそっちに飛んでいったぞ150歳」
「私はあなたの言う青春というやつに興味がないもの」
なんだかんだでダラダラとした会話に付き合ってくれるあたり、優しいのかなんなのか。言葉自体は全部辛辣だけど。
でもそこがいい。それがいい。なんなら望んでいたまである。クーデレポイントが非常に高いぞ。
「……なにか今、とても気持ち悪いことを考えた気配がしたわね」
「気のせいだ」
悪寒でもしたのか、両腕を摩りながらちょっと距離を取られた。泣きそう。
「そういや、あれから色々考えてたみたいだけど、どうだ? リリのやつに勝てそうか?」
「さっさと私の質問に答えて欲しいのだけれど……」
「まあまあ、そう言わずに」
はあ、とため息が落とされる。どうやら答えてくれる気らしい。なんだよやっぱり優しいじゃん。
「条件さえ整えば勝てるわ」
「というと?」
「お互いに初手から全力が出せる状況」
「ほう?」
これは、演習場で聞いた時とは真逆のことを言ってるな。
初手で次元跳躍なり魔力吸収なりを使われたら、その時点で負けてた。模擬戦直後の所感としてはそう言っていたし、実際俺も同じ見解ではある。
あの模擬戦は、あくまでも互いの実力を見るためのもの。だからリリも初見殺しを使わず、ちゃんとした試合になるようにしていたし、ルナーリアだって本気では戦っていなかった。
「リリの固有魔法をどうにかできる算段がついた、ってことか」
「次元跳躍は分かってれば怖くない。魔力吸収は、昨日の感じから考えれば効果範囲は五メートルから六メートルくらいかしら」
「未来視はどうする? 正直、あれが一番厄介だと思うぜ?」
リリの戦闘スタイルは、火力と手数で攻めて攻めて攻めまくる、超攻撃型だ。
身体強化により底上げされた体術に、次元跳躍の不意打ちや射程無視、クソデカビームの魔力放出で砲撃もできる。それらをなんとか掻い潜っても、待っているのは問答無用の魔力吸収。
それらを支えているのが未来視だ。
常に最適解を選べるからこそ、リリはああまでゴリ押しできる。
「未来視の効果時間、大体3分先とかじゃないかしら。そんな感じの動きに見えたわね」
ほぼ正解。正確には2分以内だけど。
「それの対処法も、なんなら弱点も知ってるわ。特に問題はないわね」
「つまり、正面から本気でやり合えば負けない、ってわけか」
「言ったでしょう、条件次第よ。周囲の地形、その日の気温、それぞれのコンディションとか、戦う理由とか。そう言うのが上手くハマれば勝てるけれど、今日みたいな場所だと少し厳しいわ」
条件次第とはいえ、あのリリに勝てるルナーリアの本気というのも気になる。
特に最後の、氷の大鎌。あれを出した途端、明らかに魔力の質が変わった。一体なにをする気だったのか。
「こんなところでいいかしら? そろそろ私の質問に答えて欲しいのだけれど」
「ああ、なにをすれば良いのかってやつね」
昨日俺は、ルナーリアにこっちの仕事を手伝うようにと要求した。
もちろんだがルナーリアの監視云々ではなく、学生たちの健全な学園生活を守るって方。
「察するに、今日決められた班が関係あるのでしょう?」
「というか、それが全てだよ。公爵家と騎士団長のとこの子供だぜ? 重要度が他と段違いだからな。ルナーリアも一緒に行動してもらえればそれでいい」
「それだけということはないわよね」
おっと、バレてますねこれは。
「あー、午後の授業で説明があると思うんだけど、この学園は生徒に冒険者登録を推奨しててな」
「冒険者? 人間の子供レベルなら、この学園に通っているだけでも十分に思えるのだけれど」
「効率ってやつだ。うちは2年から学科が分かれるだろ?」
戦術科、工学科、薬学科、生物科の四つ。
戦術科はバリバリに戦闘系の授業ばかりだ。座学も戦略、戦術の基礎知識からその応用、部隊の指揮の仕方まで学ぶ、軍や騎士団などの入隊希望者ばかり。
他の三つは研究職を志すものが入る。
工学科は魔道具開発のノウハウを学び、薬学科は医療系全般。生物科はかなり範囲が広くて、この世界に存在する全ての生物を、魔法的観点から学ぶ学科だ。魔物も人類も関係なく。
「研究系の三学科には実験がつきもの。だけど実験に必要な魔物の素材とか、特殊な場所にある植物とか、戦闘メインじゃない魔法師にはちょいキツいようなものが必要な場合がある。そういう時は、戦術科の生徒に採取を依頼するんだと」
「なるほど……その素材で出来上がった魔道具や薬などの研究成果を、今度は戦術科の生徒に売るわけね」
「そう。だけど問題もあってな。戦術科の生徒的には良い小遣い稼ぎ、ってわけでもないんだ、これが」
もちろん依頼料はそれなりの金額が支払われる。いいところのお坊ちゃんお嬢ちゃんばかりだし、学園から研究費用も当てがわれるから、その辺りの支払いをケチるやつはいない。
しかし、戦術科に売り出す研究成果は、基本的に割高だ。だからこそ依頼料がしっかり支払われるとも言えるのだけど、依頼を受けた側の生徒はその依頼料だけで足りない場合がある。
例えば、依頼を受けた素材が遠い場所にあり、移動費がかかる場合。
あるいは、手強い魔物の相手をした時の治療費や薬代。
武器も消耗品だから、メンテナス代も必要。
結果収支はプラマイゼロ。
だったら冒険者登録をしておいて、他の依頼をこなすついでに素材を採取すれば、多少プラスにはなる。
これは研究系三学科も同じで、自分で取りに行ける範囲の素材であれば、小遣い稼ぎのついでに行ける。
「他にも理由はあるけどな。冒険者とのツテを作ったり、少しでも多く実戦を経験したり、学園的にはそっちがメイン。だけど生徒の実情的には、小遣い稼ぎ扱いってわけだ」
「たしかにそうね。実戦と訓練は全く違う。多く経験できるならその方がいいし、帝国のギルドは国との繋がりも強いから、教師たちも目の届く範囲になる」
「つーわけで、週末にでも六人でギルドに行くと思う。ルナーリアにはその辺のノウハウをあいつらに教えてやって欲しい」
S級直々に、冒険者について教えてくれるのだ。あいつらもさらにやる気が出るだろうし、ギルドで面倒な揉め事が起きたりはしないだろう。
「私である必要性を感じられないわね。昨日もその前も言ったはずなのだけれど」
「不必要な馴れ合いはしない、って? それ、裏を返せば必要な分はするってことだろ?」
「屁理屈ね。そもそも私である必要性がないという話をしているのよ。リリウム・アルカンシェルで十分でしょう」
「リリは週末は部隊の方の仕事があるからな。残念ながら同行できない」
週末くらいは俺とリリのどちらかが部隊に戻らないと、さすがに心配だ。ブライアン中尉から毎日報告書は届けられる予定ではあるけど、実際に自分の目で、部下たちの無事をたしかめたい。
それに、俺たちがいないからって別の部隊の奴らがいらんちょっかいかけてそうだし。
「……なら分かったけれど、あなたはどうするつもりなのかしら、自称C級冒険者さん?」
「お、なんだ心配してくれんのか」
「勘違いしないで。あなたの正体がバレて、あなたと戦えなくなると私が困るもの。対策は考えてるんでしょうね」
お手本のようなツンデレ、頂きました。デレてる様子は皆無だけど。
「ま、どうにかするよ。ギルドマスターとか、他の顔見知りとかには事前に話を通すつもりだし、ランクが上の奴らは勝手に色々察してくれるしな」
帝都のギルドには、俺がS級三位だと知っているやつが何人かいる。
古株のやつらであるほど、俺の名前は知っているだろうし、一緒に組んだことがあるやつだっている。そいつら全員に話を通しておくことは難しいだろうが、現在も親交のあるやつばかりだ。俺が軍にいることも知ってるし、どいつもこいつも察しのいいやつらばかり。
最悪ギルドマスターにだけ伝えてれば、特に問題はない。
「そういうわけだから頼んだぜ、S級六位様」
「仕方ないわね……」
どうにも納得いってなさそうだけど、取り敢えずは頷いてくれた。
まあ、実際俺がやればいいだけではあるんだよな。ルナーリアである必要性は全くない。上手く話を逸らすことができたからいいけど。
他人に任せられる仕事は全部他人に押し付ける。これが俺の働き方改革じゃい。
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