第2話 第416特別攻撃部隊

 世の中にはどうしようもないこと、というものが一定数存在している。


 自らが置かれたシチュエーションに対して、己の能力では対応できないもの。

 与えられた選択肢が、とても限られてしまっていた時。

 世間の常識、不文律などなど、暗黙の了解で空気の中に浸透しているなにか。


 例えば元気な若者たちであれば、そいつをどうにかしようと足掻いて踠き、苦しみながらも成長していくのだろうけど。

 大人になるにつれて、その数は増えていくように思える。諦める数が。


 代表的なものは労働だ。

 生きていく上で金は必要不可欠であり、しかし金を稼ぐためには働く必要がある。また、無職の者は世間から白い目で見られ、職場や職種によって社会からの信用すら変わってくる。


 それが世間のルール。生まれる前から決まっていた、絶対の不文律。異世界だろうが変わらない、クソッタレな常識だ。


「はぁ……マジで労働はクソ」

「隊長、付近の魔物の掃討は完了いたしました」

「おう、ご苦労さん」


 駆け寄ってきて敬礼しながら報告する部下に、労いの言葉をかける。

 角刈りの頭に丸い耳を乗せたガタイのいい彼は、ドーベル・ブライアン中尉。熊の獣人だ。

 この部隊の中で俺とリリに次いで高い階級であり、来月からは俺たちの代わりに隊を率いてもらう。


「他の分隊はどうなってる?」

「ブラボーは接敵後37秒で敵を壊滅、チャーリーは未だ交戦中。エコーは、その……副隊長がいらっしゃるので……」

「おけー、把握」


 分隊として発見する前にドカンといっちゃったのね。まあいつも通りだが、あいつ今日の趣旨分かってんのか。


 潜入任務を言い渡されてから二週間。明後日にはついに、魔法学園に入学というそんな時。

 俺たち、第416特別攻撃部隊が今いるのは、帝国東部に広がるセラピオ大森林。

 通称、混沌の森。


 エルフ女王国との国境に位置するこの森は、かつての戦争で主戦場のひとつとなったらしい。その主戦場の中でも、とりわけ酷かったのがここだ。

 戦争が起こる前は魔物の一匹も出ない、まさしく癒しの名にふさわしい森だった。しかし戦後、この森で朽ちていった死者の怨念が溜まりに溜まり、さらには大気中の魔力や星を巡る魔力、星脈と呼ばれるものがこれでもかと乱れ、結果この森は魔物が蔓延る地と化した。


 ただ魔物が湧いて出るだけならまだしも、死者の怨念が影響しているのかなんなのか、どいつもこいつもやたらめったら強い。

 おまけに森の中の環境は劣悪を通り越して、まさしく混沌だ。


 氷点下を下回る場所があれば、マグマ溜まりのように暑い場所もある。濃霧で視界を塞がれる、重力が強すぎる、毒が撒き散らされている。

 などなど、悪意と殺意のオンパレード。


 おまけに時たま、森で生まれた魔物が外に出てくるのだからたまったもんじゃない。

 帝国に仇なす相手は人間であれ魔物であれ、俺たち軍人の飯の種だが。少しは限度を考えてほしい。


「ったく、俺たち以外の部隊にもやらせろよな。職場環境真っ黒だぞ」

「仕方ありませんよ、隊長。魔物の相手だけならまだしも、この森の環境では我々以外に動けませんから」


 そこなんだよなぁ。ブライアンの言う通り、ここの魔物が強いと言っても、帝国軍にはそれなりの数の腕自慢が集っている。だがそれだけ。ただ強いだけでは、この森で生きられない。

 あらゆる環境に耐え、常に十分なパフォーマンスを発揮できなければ、容易く命を落とす。


 中には人間の真似までして、こちらの同情を誘ったりする個体もいるのだ。ひっついて来ては自爆するだけの、なんのために生まれて来たのかすら分からない魔物までいる。


 それが混沌の森。

 立ち入りを許されているのは、俺たち第416特別攻撃部隊と、冒険者の中でも上澄みも上澄み、A級やS級と呼ばれるやつらだけ。


「その点冒険者は強いですね。彼らの受ける依頼は、それこそ環境を選びませんから」

「噴火寸前の火山の火口で火龍退治とかな。俺も昔はよくやったわ」


 などと軽く雑談してはいるが、実は今いるここもそれなりにやばい場所だったりする。その辺に生えてる植物が、人の平衡感覚を狂わせる花粉を撒き散らしているのだ。

 要するに、常時メダパニ状態なわけだが、うちの部隊にその程度で動じるやつはいない。そんな柔な鍛え方はしてないので。

 なんなら地球に生えてたスギとかいうクソよりもマシなまである。


「で、どうだ中尉。俺たちが抜けてる間はやっていけそうか?」

「ええ、なんとか。隊長と違って、手綱を握らなければいけない隊員はいませんから」

「君たちは優等生で助かるよ、ほんと……」


 今回混沌の森まで部隊を率いて出向いたのには、二つ理由がある。

 一つは、これから代理として隊を率いるブライアンのため。彼はこれまでも俺の補佐として良くやってくれていたが、自身がメインとなってとなるとまた勝手は違ってくるだろうから。


 もう一つは、俺とリリが抜ける間に備えて、森の魔物を大きく減らしておきたかったから。

 ぶっちゃけてしまえば、俺たち二人が抜けるだけでもこの部隊の戦力は六割減だ。いや、リリ一人が抜けるだけでもそれくらいだと見積もっている。


 うちの部隊は、対人間との戦争であれば強襲部隊。少数精鋭による電撃戦や夜襲、敵基地への突撃などを作戦目的とする部隊だ。

 その特性上、隊員たちは機動力に優れた魔法の使い手が多数を占めている。対人の攻撃力なんてのは、武器でいくらでも補えるのだから。


 しかしそんな部隊にリリが配属された。結果どうなったかと言うと、部隊の殲滅力が格段に上がった。彼女一人の入隊だけで。

 元からうちの部隊には生き残ることを最優先と厳命していたこともあり、全ての隊員が兵種ごとに必要な魔法、技能を一定の水準で収めている。


 というわけで、混沌の森での魔物の間引き作業まで任せるようになってしまったのだ。

 うちの部隊がブラック職場なの、皇女殿下のせいじゃん。


「ま、俺らがいなくてもやることは普段と変わらんよ、中尉。魔物を狩る、セーフゾーンまで撤退する。その繰り返しだ。無理せず深追いはせず、労働はクソだと常に心で唱えていれば問題はない」

「最後は同意致しかねますが……了解であります隊長。我らシルバーファング、隊長と副隊長の名を汚さぬ働きを誓いましょう」

「……なあ、その部隊名やめない?」


 シルバーファング。

 隊長を無視していつの間にやら勝手に決まっていた、この部隊の名称。ようは俺の種族から取ってきた部隊名なわけで、小っ恥ずかしいったらありゃしない。

 犯人はリリ。マジでいつか泣かせるからなあいつ。


「今更無理ですよ。国民には既にリリウム皇女殿下が所属する部隊として、大きく広まっていますから。当然、魔法学園の生徒たちもご存知でしょうね」

「だよなぁ……まあ、俺のこと知ってるやつは軍の上層部と陛下くらいだし、大した問題にはならいけどさ」

「身分も平民として入学されるのでしょう?」

「ああ、本名じゃない以上はな」


 こう見えても俺は貴族だ。一応伯爵というそれなりに上の爵位を持っているが、自分の領地なんてないし、帝都に大豪邸を建てているわけでもない。そりゃ平民よりはいい暮らしをしているが、基本は軍の宿舎で寝泊まりしている。帝都の屋敷に帰るのなんて、数ヶ月に一度くらいのものだ。


「ところで中尉、お前って魔法学園出身だったよな?」

「ええ、その通りですが」

「実際どんな感じなんだ、魔法学園って。貴族と平民が一緒にってのは、正直どうかと思うんだが」


 この国では身分による差別があまりない。というのも、平民の生活や教育の水準が割と高いからだ。

 そりゃ貴族の暮らしぶりと比べれば、天と地ほどの差があるだろうけど。それでも、能力の高い平民は城でも働けるし、貴族と結婚なんて話もポツポツと聞いた覚えがある。


 が、しかし。あまりないと言うことは、一部ではまだ存在しているということでもあって。


 付け加えて言えば、差別がないとは言っても、身分の違いは絶対なのだ。ここは日本のような民主主義の国じゃない。絶対の皇帝が頂点に君臨する君主制。どれだけ平民がそれなりにいい暮らしをしていようと、差別がなかろうと、社会構造は完全なピラミッド。


 極端なことを言ってしまえば、入学後にリリが平民からなにかしらの被害を受けたとすれば、相手は重い罪を背負わされる。

 故意であれ過失であれ。悪意があろうがなかろうが。


 そう言ったアクシデントを避けるためにも、平民と貴族は区別した方がいい。


「実際、中等学校までは別々なんだろ?」

「そうですね。ですが隊長、中等学校を卒業するのは15歳、我が国の成人年齢は16歳です。完全な庇護を受けられるのは未成年までであり、中等学校を卒業すれば働く者も多くいます」

「あー、そっか。そういうことね」


 日本で言うところの義務教育。それが終われば、即成人。つまりは大人の仲間入り。

 魔法学園を始めとする高等学校からは、立派な紳士淑女として振る舞わなければならない。分かりやすく言えば、そこは既に社会の一つなのだ。


 貴族風に言えば、小さな社交界とでも言うべきか。おそらくは有能な平民は在学時から唾をつけておくのだろうし、一挙手一投足が家の評判に繋がってしまう。


 平民だけではなく、貴族にとっても、迂闊なことはできない場だ。


 そしてこのアルカンシェル帝国は、完全実力主義。平民でも功績を上げていれば、帝国軍准将にまで上り詰められる。


「魔法学園も同じく実力主義、ってわけね」

「そういうことです」

「我らがお姫様の独壇場じゃねえの?」

「まず間違いなく」


 なんてお互いに苦笑しながら言い合っていれば、そのお姫様がやって来た。

 仕事中はいつもポニーテールになぜか伊達メガネを掛けているリリは、いっそ怖いほどに礼儀正しく俺の前で敬礼を取る。


「エコー分隊、帰還しました。道中交戦中のチャーリーと合流、ポイント付近の魔物は掃討済み。怪我人はゼロであります」

「ご苦労副隊長。ただし、ひとりで勝手に殲滅した件に関してはあとで説教だ」

「んぐっ……はい……」


 結果怪我人もなく全員無事、任務も完了ではあるけど。そもそも今回の任務の目的、つまり上官たる俺からの命令を無視しているのだ。

 俺たちが軍人である以上、お咎めなしとはいかない。


「よし、各分隊点呼を取れ! 全員無事であることを確認次第、本部に帰還する! 帰ったら報告書が待ってるからな、今日も定時で上がるぞ!」

「「「了解!」」」



 ◆



 今更ではあるが。


 この世界には、魔法が存在する。


 生きとし生けるもの全てが産まれながらに持つ魔力。そいつを使って、内なる世界で外なる世界の理を書き換える。

 それが魔法だ。

 簡単に言えば、魔力でイメージを具現化する。だが魔法の発動にはイメージだけでは足りず、明確な論理があるのだ。


 詠唱、術式、魔法陣。

 そう言ったものでイメージを補強して初めて、魔法は形を持つ。


 そして魔法には大別して二つに分かれる。

 汎用魔法と固有魔法。

 ちゃんと学べば誰にでも扱える汎用魔法に対して、その人個人にしか扱えない、唯一無二の固有魔法。


 もちろんその分だけ、固有魔法は強力だ。そこから更に細分化されることもあるが、とにかく固有魔法とは強力極まりない。

 故に固有魔法の使い手は、基本的に他者には明かさず、己の切り札として扱う。


 リリウム・アルカンシェルは、そんな魔法士たちにとって、極めて例外かつ規格外な存在だった。


「リリウム・アルカンシェル大尉、お前の固有魔法はたしかに強大なものだ。その力があれば、部隊の仲間も必要ないかもしれん。だが、お前が軍人である以上は上官の命令に従わなければならない。結果オーライは通用しない、あらゆる想定外を想定しなければ、戦場で生き残れないからだ。お前の命令違反のせいで、仲間が命を落とす可能性すらある。そもそもお前は副隊長、隊員の規範となるべきであることを忘れるな」

「はい……」


 混沌の森から帰還し、隊員たちはそれぞれ宿舎や家族の待つ家に帰って行ったのだが。

 定時を過ぎてもなお、俺とリリは執務室に残っていた。やっぱり今日もサービス残業だよ。


 もはや同じ説教を何度したかも忘れたが、まあ形だけだ。だからそんなシュンとするなよ、なんか俺が悪いみたいじゃん。


 まんま叱られる子供みたいになってるリリに、俺はフッと相好を崩して、説教は終わりだと話題を変える。


「で、七星虹魔アルカンシェルの調子はどうだ?」

「特に問題はありません。神化を除いた六種全て、いつも通りに扱えました」

「そいつは重畳。てかメガネ外せ、もう定時過ぎてんだぞ」


 伊達メガネを外したリリが、重く長いため息を吐き出す。どうにもこの皇女様は、メガネと髪型で性格をスイッチしてるらしい。

 軍人としての仕事中は伊達メガネとポニーテール、皇女としてはメガネなしでなんか編み込んだハーフアップみたいな髪型。

 で、完全プライベートの時はメガネもなしで髪も下ろしたまんま。


 色んな顔を使い分けなければならないのは、第一皇女殿下としてある意味当然の義務のようなものらしいけど。

 疲れる生き方してるよなぁ、とは思う。俺だったら絶対無理。


「もう暴走も暴発もなさそうだな」

「3年前の話じゃん、それ。ここに配属されてからは一回もないもん」

「その一回があったら困るんだよ」


 七星虹魔アルカンシェル

 リリウム・アルカンシェルが持つ固有魔法の名前だ。虹の名が示す通り、それ一つで七種の魔法を扱える。それも、汎用魔法とは比べ物にならないレベルで。


 代々皇族に生まれる特殊な子供に継承されており、リリは歴代の使い手の中でも最強と言われている。

 ゆえにリリの固有魔法は広く知られており、彼女の代名詞とまでなっていた。


 七種のうちでも特に治癒が秀でていることから、ついたあだ名は聖皇女。

 皇女として様々な場所で治癒を行ったことあるからか、帝国市民から絶大な人気を誇り、まさしく最強で無敵のアイドルだ。


「学園ではあまり使うなって言うんでしょ? 隊長に言われなくても、お父様からも口酸っぱく言われてるよ」

「使うこと自体は咎めない。ただ、使い方は考えろ。授業で使う分には構わないけど、パフォーマンスで使うことはやめとけ」


 リリの固有魔法は、あまりに強大。いや、それを通り越してもはや凶悪とさえ言える。


 身体強化と治癒、魔力放出はまだいい。いやよくはないんだけど。それ一つ取っても固有魔法並みの出力があるから、全くよろしくないんだけど。でもまあ、汎用魔法でも同じことができる。


 しかし、残りの四つが問題だった。

 魔力吸収、未来視、次元跳躍、神化。


 神化についてはひとまず置いておこう。

 まず魔力吸収。文字通りの魔法。半径5メートル以内の対象の魔力を吸収する。人でも魔物でも、接近さえしてしまえばこれで終わり。おまけに敵の魔法は無力化、吸収というくらいなのだから、自分の力に変えてしまう。

 次に未来視。直近2分以内の未来を見る。しかも予言とか予知夢みたいに、曖昧かつ発動タイミングも読めないようなもんじゃなく、自分の好きな時にハッキリとした映像が見れる。

 そして次元跳躍。簡単に言えばワープだが、自分だけじゃなくて複数の対象に発動できる。生物だろうが無機物だろうが、なんでも。おまけに次元の狭間に閉じ込めてその圧力で敵を殺すとか、ちょっとエゲツナイこともしちゃう。


 まさしくチート。まさしく異世界転生。

 なによりやばいのが、現在のリリはこれらを完全に使いこなし、同時に複数の魔法を発動できるということだ。

 身体強化しながら未来視で最善のルートを選び敵に接近、魔力吸収ではいおしまい。

 あるいは次元跳躍と魔力放出を組み合わせれば、射程なんてあってないようなもん。


 中でも特化している治癒はひどい。汎用魔法による治癒は、あくまで身体強化魔法の延長にあるとされ、自然治癒力を高める程度の効果しかない。そのため軍の衛生兵は治癒魔法と同時に、外科的、内科的な医者としての知識も収めているのだが。

 リリの治癒魔法にかかれば、千切れた腕も元通り、失った血液すらも。何万人に一人の奇病だって、最初からなかったかのように消える。


「大丈夫大丈夫、この三年間一回も暴走も暴発もないし、隊長が特訓に付き合ってくれたんだから。使う時はちゃんと弁えてるつもりだし、無闇矢鱈にひけらかすような真似はしないよ」

「だといいんだが」


 誰もが疑わない天性の才能と、それに胡座をかかない血の滲むような努力。前世の病室から蓄えていたという膨大な知識に、リリウム・アルカンシェルという少女の人間性。

 どれかひとつでも欠けていれば、七星虹魔アルカンシェルは使いこなせなかっただろう。


 だから決して言葉にはしないけど、ここまでしつこく忠告してはいるけど、リリのことはちゃんと信頼してるのだ。


「隊長の方こそしっかりしてよ? この前、例のエルフに顔と銀髪しっかり見られてるんでしょ?」

「うっ……」

「わたしより隊長の方が心配だなぁ。なにせシルバーファングの《時喰み》ガルム・フェンリル少佐って言えば、正体不明の英雄じゃん。フェンリルなんて家名、帝国には隊長しかいないし。偽名使っててもバレるものはバレるよ?」


 そうなのだ。俺は無駄に名前だけ売れてしまっているのだ。しかし名前だけ。顔バレはしていないし、ガルムという名前も珍しいと言うほどじゃない。

 だが、フェンリルの家名はバレたら一発アウトだ。


 あの日の夜、ルナーリアには俺の顔と銀髪、それからおそらくも見られている。

 そこからシルバーファングを連想するのは容易だろうし、冒険者時代の小っ恥ずかしい二つ名のせいで、同じく冒険者だったルナーリアにはすぐバレてしまう恐れがある。


 なんだよ時喰みって。ちょっとかっこいいとか思ってたのも最初だけだよ。


「ちなみに、そのルナーリアは実際どうだったの?」

「めっちゃ美人だった」

「わたしより?」

「余裕で」

「即答じゃん……」


 おい、なぜそこで引く。気持ち悪いものを見るような目はやめろ!


 呆れたようなため息を吐いて、リリは髪を解く。どうやらここからは完全プライベートタイムらしい。


「で? で? ガルム的にはどうするつもりなの? やっぱり狙っちゃう?」

「事と次第によってはな」

「きゃー! ガチじゃん! やっぱり一目惚れって現実にあるんだなぁ、ずっと銀髪エルフって煩かったもんね! ところで事と次第って?」

「帝国を脅やかすようなことを企んでるようなら殺す。エルフ女王国に利用されてるだけだったとしてもやっぱり殺す」

「狙うって命のことじゃないよ⁉︎」

「おっ、ナイスツッコミ。三千ガルムポイントをやろう」

「いらねー!」


 うがー! と頭を掻きむしって天を仰ぎ絶叫するお姫様は、きっと世界広しといえどリリだけだ。


 てか、殺したらダメだろ。絶対それを理由に攻めてくるよあいつら。


「冗談だよ、冗談。つーか前にも言っただろ。たしかに俺好みの銀髪クーデレエルフだったけど、綺麗にフラれたんだよ」

「まあガルムだしねぇ」

「どういう意味だこら」

「またチャラ男みたいなナンパじみた話しかけ方したんでしょ。それ、やめた方がいいよ、気持ち悪いから」

「おいおい、お前まで冗談を被せてくるなよ、話が進まなくなるぜ」

「いや本気で」


 え、マジ? 本気と書いてマジと読むやつ?

 割とイケてるキャラ付けだと思ってたんだけど、そんな真顔で言うほど?

 そっかー……マジかー……。


「真剣な話、どういう人だったの?」

「色々と背負ってそうな感じではあったな。エルフ女王国で起きた事件に関係してるんだろうが、ありゃあれだ。自分以外の全部が、敵に見えてんだろうな」

「人間不信ってやつ? 馴れ合うつもりはないわ、とかいうタイプのクーデレだ。てかツンデレ?」

「まさしく言われたよ。それとあれはツンを内包したクーデレだな。そもそもクーデレにも種類ってのがあってだな」

「あ、その話はいいです」

「敬語やめろ……」


 ガチ感出ちゃうでしょうが。


「まーあれか、ガルムがルナーリアさんの冷え切った心を温めていくやつか」

「いやぁ、百戦錬磨のガルムさんでも、ありゃ無理だ。シベリア並みに極寒だもん」

「浅識非才の間違いでしょ」

「せん……なんて?」

「百戦錬磨の対義語」

「バカにしてんのか」

「うん」


 だから、真顔やめろって。せめてテヘペロくらいしろ。それはそれでむかつくな。


「とにかく、監視しとくに限る。ルナーリアの周囲も含めてな」

「了解」


 なにせ現状ではほとんど情報がない。誰が、なにを企んでいるのか。

 そもそもエルフのくせに魔法学園入るのも意味わからんし。


「んじゃそろそろ宿舎戻るか」

「だねー。あ、そうだガルム。言い忘れてたけど、ガルムんちのメイドのサラさんが、魔法学園入学前に一度くらい帰って来いだってさ」

「それを先に言えよ!」


 入学式明後日だぞ! てかいつ聞いたんだそれ!

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