あなたに見合う人間になりたい
「ウィルス、どうしてこんな無茶をしたのです……」
従者のウィルスと二人、国境の森を抜けていた。
突如現れた魔物に剣を構えると私より先にウィルスが向かっていく。
「俺が殺ります」
ウィルスは魔物に何度も剣を振りかざす。そして魔物の鋭い爪に切り付けられながらも数分で倒した。
剣豪の称号を賜り聖女の魔力を持つ私はあんな魔物すぐに倒せたはず。それでも彼は手を出さないで欲しいと言った。
「俺は、あなたの力には到底及ばない。それでもあなたを守りたいと思うのです。俺が、あなたを守る立場でありたいと」
「……私だって守られるだけは嫌です。自分を守る力も他者を守る力も持っています。それが私の使命ですから」
「わかっています。あなたの覚悟も、努力も、全て。だからこそ、俺はあなたが一人で背負わないように隣で力になりたいのです」
ウィルスの右腕からは血が流れていた。間違いなく激痛がはしっているにもかかわらず、笑顔を見せている。
私は、彼の覚悟に気づき、静かに癒しの魔法を唱えた。そこで彼が、少しだけ悔しそうに声を漏らした。
「でも、結局こうしてあなたに迷惑をかけてしまいます」
「迷惑だなんて思っていません。ウィルスのおかげで私はこうしてここにいるのですから」
「でも俺はもっと、あなたに見合う人間になりたい。これからもっと努力します。もっと強くなります。それまでもう少し時間をください」
彼はわかっていない。私は、ウィルスに見合う女になりたいのに。
けれど主と従者という関係が私を女にはさせてくれないことを知っている。
それでも私は彼に気持ちを伝えたい。
「ウィルス、あなた以上に私にふさわしい人間などいないのです」
今の私にはそれが精一杯の愛の言葉だった。
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