プールサイド

「ごめん、遅れたっ」


 額から流れる汗を拭いながら駆けてくる森野は大きなスポーツバッグを落とすようにプールサイドに置くと、急いで私のところへ駆け寄ってくる。


「遅れたというか、もう終わったよ」


「あー、だよな。ごめん」


「しょうがないよ部活だったんだし」


 今日は放課後プールの掃除があった。強制参加ではなかったため部活がある人は皆部活を優先している。


 でも森野は律儀だから絶対来ると思ってた。


「終わったのになんで残ってるの?」


「なんとなく? 水の張ってないプールって今しか見れないじゃん」


「そっか」

 

 森野はプールの縁に座る私の隣に座った。


「確かになかなか見れない光景かもな」

 

 そして森野が私の方を向いた瞬間みるみる顔が赤くなっていく。

 

「あのさ、それ」


 そう言いながら顔を反らし私の体を指差す。

 なんだろうと思い視線を下げ自分の体を見ると体操服が濡れて中のキャミソールが透けていた。


「ああ」


 プールの掃除をしている時にふざけて水をかけあって遊んでいた。

 でも下着が透けているわけではないし、そんなに顔を赤くすることもないと思うんだけど。


 私はプールサイドに置いたままのシャワーを手に取る。

 そしてヘッドを捻り森野に向けた。


「うわっ冷て!!!!」

 

「森野も透けてるよ」


 急いで立ち上がり避ける森野に向かって私はシャワーを振りかけた。


「ちょ、やめろって」


 森野は水を被りなからも近付いてきてシャワーを掴む。

 そして私から奪い取ろうとした時それを阻止しようとした私は、滑った。


「危ない!」


 森野はシャワーを放り投げ私の手を掴み勢いよく引く。

 自然と私は森野の腕の中に引き込まれた。

 お互いにびしょびしょでペタリとくっついた体操服が二人の距離感を曖昧にする。

 

 私は森野の腕の中で顔を上げた。

 森野の赤くなった顔と、動揺しているのか少し強張った腕がなんだか愛おしく思える。


「ふっ、楽しいね」


「た、楽しくない!」


 急いで私から離れ、水が出たままのシャワーを拾いに行く森野の顔はやっぱり赤い。


 ああ、ほんとに可愛いなぁ森野は。

  


 

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