都筑くん


 たまたま、本当にたまたま今日この場所に来た。


 いつもお昼ご飯を一緒に食べているゆうちゃんが委員の当番があるため昼休み一人になってしまった私は教室で一人お弁当を食べる気にならず、校舎裏のベンチにやって来た。


 いつもひと気のないこの場所なら一人でも周りの目を気にせずゆっくりお弁当を食べられるかなと思っていたのに。


「都筑くん……」


 ベンチには同じクラスの都筑くんが寝ていた。

 右腕を枕に横になり、落ちないように体を丸めている都筑くんは少し口を開けスースーと寝息を立て眠っている。


 私はベンチの前にしゃがみ、都筑くんの顔を覗き込む。


「猫みたい。かわいい」


「うわっ」

 

「あ、ごめん起こしちゃった」


「びっくりした」


 都筑くんは驚いてベンチから落ちそうなくらいおもいきり体を反らす。


「なんでここにいんの?」


「お弁当食べようと思って。都筑くんは?」


「俺はいつもここで寝てるけど」


「そうなんだ邪魔してごめんね」


 ベンチは一つしかないし都筑くんの定位置を取るわけにはいかない。私は立ち上がりその場を去ろうとするが、都筑くんに呼び止められた。


「ここで食べたら?」


 都筑くんはベンチの少し端によって座り、隣をトントンと叩く。

 私は他に行く当てもなかったのでお言葉に甘えて隣に座りお弁当を膝の上に広げた。


「美味しそうだな」


 都筑くんは私のお弁当を覗き込む。


「お昼食べてないの?」


「パン食べた」


「だけ?」


「うん」


「これ一つあげようか?」


「え、いいの?」


 私はお弁当の卵焼きを都筑くんに一つあげた。


「うまっ」


「よかった」


 私が作った卵焼きを美味しそうに食べる都筑くんに安心して私もお弁当を食べ始める。

 すると都筑くんは今度は私の顔を覗き込んでくる。

 目を合わせ口をモグモグさせたまま首をかしげる私に、都筑くんの手が伸びてくる。

 そしてそっと親指が私の唇に触れるとなぞるようにゆっくりと動いた。


「っ!!」


「ついてた」


 都筑くんはそう言って自分の親指を舐めた。 





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