エピローグ
翌々日、シーアさんからの手紙が届けられた。ギルドのお偉いさんが職員を連れてわざわざやってきたのだ。
まず、例の娼館は経営者と従業員、それから出入りしていた貴族の手の者、出資していた貴族、全員に罰が及ぶようだった。貴族以外は既に捕らえられているらしい。もちろん、神殿の魔女さんたち――神聖娼婦と言うんだそうだ――は契約不履行で店から賠償金を踏んだくるつもりだとか。名前に傷がついたとかなんとか言って。
例の貴族については、冒険者ギルド職員への賄賂の記録も確認されたのだそうだが、おそらく金銭的な罰が下るだけだろうということだ。
これはシーアさんからの手紙にもあったが、平民相手ならこんなものだそうだ。ただし、アリアに関しては彼女が聖騎士になったこともあって干渉できなくなったようだ。その代わり、今後は別の意味でアリアが注目されていく可能性があるらしい。それはそれで面倒だった。俺の恋人なのに。
冒険者ギルドについては、アリアたち
大賢者様はというと、れいの鍵の祝福を実践したことについてシーアさんから聞いたらしく、今度行くわ!――みたいなノリで孤児院来訪を告げてきた。表向きは孤児院の下の子たちのタレントを確認し、祝福に来るらしい。いやそれ俺でもできるよね。
◇◇◇◇◇
さて、そんなところで徐々に日常が戻ってくる。
朝早くにアリアとギルドまで一緒に歩く。違うのは手を繋いでることだ。
腕を組んだり、エスコートのために腕を取ったりはあっても、大人が手を繋いで歩く習慣はあまり無いらしく、アリアはすごく照れる。が、前の世界の恋人たちはこうやっていたのだと教えたら、アリアは率先して手を繋ぎ、そして喜んでくれた。俺も高校生だった頃に戻れたようで楽しかった。
ちなみに恋人繋ぎと言われるやつは、思ったより指の間に骨が当たって痛いので教えてない。
ギルドでは以前と違って皆が声をかけてくれる。顔馴染みも随分と増えた。アリアは照れたりしているがとても嬉しそうだ。アリアが恋人の俺と親しくする様子を見て――惜しいことをした――とか――オレの方が先に好きだったのに――とか冗談めかして言ってくるやつも居るが、今更何を言っているんだもう遅い。
あ、それからアリアの距離がやたらと近いのは俺相手だけだったようでちょっと安心した…………いや、すごく安心した。見ていて安心できるので、わざわざ恋人面して嫌われることは無さそうなのが何より良かった。
ギルドでの依頼だが、どちらかというとゴブリンの巣穴を発見して報告することが多くなった。なぜなら、より大きな巣穴や大型の怪物を狙うことが多くなったからだ。場合によっては報告の前にその場で倒したりしている。魔石の収入だけでも十分大きかった。
孤児院では毎朝、ルシャの『聖餐』によって全員が一日に食べる量のやわらかなパンと清浄な水が得られるようになり、食糧事情がずいぶんと改善されていた。
また、三人の独り立ちのための準備も進められていたが、ルシャは孤児院に残る可能性も高そうだ。最初の予定では俺たちの住む宿に全員が部屋を借りる予定だったが、もう少し大きめの部屋のある宿か、アパートメントと呼ばれる街中の集合住宅を借りることも考えている。
ただもうひとつ、大賢者様から提供された案があった。それは、聖騎士,剣聖,聖女が居るため、貴族街の小さい空き屋敷を買い取ることができるという話だった。が、まずは孤児院を安定させることが皆の目的だったため、とりあえずは却下された。
パーティでの活動は、まず馬車を使うようになった。馬車と言ってもただ荷物を運ぶだけのものなので、たいていは誰かが御者をして残りは歩きなのだが、大型の怪物を狩った後は重宝する。街で売れる部位が大幅に増えるのだ。
そして戦闘。ほとんどの場合でアリアの聖騎士の力は必要なく、彼女も無いに越したことは無いと考えているようで、普通に剣士の能力で戦っている。またキリカは近接戦なら敵なしではあるのだが、実はほとんどの場合ルシャが狩ってしまう。
ルシャは元気になった。
『神の愛娘』こと聖女はその名の通り神々の寵愛を受け、聖騎士と同じく『病気耐性』を持つだけでなく、『癒しの祈り』で怪我や病気、毒などを全て回復してしまう。彼女は元気になったらよく食べるようにもなった。稼ぎはあるので遠慮させることなく食べさせてあげられるのが何より嬉しい。
そのルシャだが、いつの間にか矢に聖女の力を乗せて飛ばせるようになってしまった。何をどうやっているのかは知らないが、ずいぶんなチートだと思う。だってそれは大型の怪物でさえ狩る威力で、キリカでさえ舌をまいているくらいなのだ――が、実はこれには他にも理由があった。
リーメは相変わらずで、ときどき範囲魔法をかまして悦に入っている。ルシャは事あるごとに――リーメもユーキ様の祝福を貰うといいですよ――と提言するのだが、ものすご~~く嫌そうな顔を返すのでちょっぴり傷ついたりしてる。そしてルシャもルシャ。ティータイム感覚で気軽に誘うのはやめて欲しい。
俺とアリアはたまに孤児院に泊まる。孤児院の仕事を手伝う――というのは表向きで、実はルシャが俺に祝福を求めてくるのだ。ルシャはあの神さまとの対話の際、どうも祝福の
魔女の祝福での逢瀬であれば鍵のタレントの祝福も失われないらしく、ルシャは常に山ほど祝福という名の
ルシャに言わせると、今からたくさん祝福をいただいておき、聖女である必要がなくなった暁には、地母神様に報いるべく沢山の子を
そしてその祝福を必ずベッドの傍らでみつめるアリア。ルシャが心配だからというのは通じなくなったので、――恋人ですから――とか、――第一夫人ですから――とかいろいろと理由を付け始めた。ルシャは――いいかげんアリアさんも祝福を貰えばどうですか――とはいうのだが、今は恋人を楽しみたいとかなんとか言って拒んでいる。俺もそんなアリアとの恋人関係自体はすごく楽しいんだけれど、毎回
第一部 完
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この後はアリアとルシャsideの幕間です。
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