第30話 三人で祝福

 俺はアリアと一緒にルシャの部屋まで戻った。いつまで待たせるんですか?――とニコニコしながらルシャは言う。いやあほんとにね。俺が馬鹿だったのもあるけど、水道橋の上まで逃げたアリアもアリアだよね。


「遅いから、どこかで祝福を授けられてるのかと思いましたよ」


「「エッ」」


 ルシャが先ほどまでの様子が信じられないほど明るく、冗談めかすように話しかけてきた。


「ル、ルシャ? 急にどうしたの?」


「ルシャはユーキが居ないときはよく喋るよ。喋るけど、ほんとどうしたの?」


「なんだかユーキ様に隠し事が無くなったらすっきりしちゃいました」


 そんなルシャに変わって今度はアリアがもじもじとし始めた。


「……そ、その、ルシャ、ありがと」


「アリアさん? 以前みたいに素直にならないと、ユーキ様は貰っちゃいますからね」


「そ、それなんだけど、あたしはルシャも一緒でもいいかなって……」


 はっ――とルシャは息を飲み、両手で口を押え、それからゆっくりと視線を俺に向けてくる。


「さっきアリアに相談されたんだけど、二人目を娶ってもいいかなって」


「ユーキ様はどうなんです?」


「こっちの世界じゃ珍しくないと言われて……」


「そうじゃなくて! ユーキ様は私としたいんですか?」


「結婚? それともそっち?」


「両方に決まってます!」


 ダメだ! 状況さえ許されるならしてしまいたい自分が居る。完全にクズじゃねえか。

 だが――


「したい……です」


 俺は抗わなかった……。


「アリアさんは? 本当にいいんですか私が居ても」


「いい……よ。だって祝福を受けるのはもう決まってるんでしょ? それ、なら、もう、一緒…………かなって」


 ああかわいい! 抱きしめてしまいたい!――と思ったら抱きしめていた。何を言っているかわからないかもしれないが、恋人ってこんなもんだろう? 違うか。


「――ちょ、ちょっと、急に何!?」


「ああもう! わかりました。じゃあ婚約しましょう。そして祝福を――」


 ルシャが突然、糸が切れたかのようにベッドに倒れ込む。アリアは慌てて俺を振りほどき、『輝きの手』を施した。意識はあったようだ。徐々に回復してくる。


「もう! ルシャは無茶しすぎ!」



 ◇◇◇◇◇



 さて、ルシャに祝福を授ける次第となったので、ベッドで二人、向かい合っているわけだが…………部屋は明るいまま、そしてベッドの傍の椅子にはアリアが座ってた。


「あの……アリア、本当にこのまま始めていいの?」


「いいって言ってるの! ルシャに何かあったら困るし、それに……」


「それに?」


「あ、あたしのときはなんか、仕方なくしてたみたいだから、ちゃんと好き合ってする初めても知りたいの」


「アリアさん本当に大丈夫ですか? してもらいたくなったら困りますよ?」


「だだだ大丈夫よ」


 本当に大丈夫だろうか。変な趣味に目覚めたりしないだろうかな。いや、アリアみたいな美人にガン見されて、こっちも変な趣味に目覚めそうだ。


 そして俺はこの世界にきて初めてのまともな『祝福』を経験することができた。







 ◇◇◇◇◇



 三度みたび、祝福が訪れた。傍らには一糸纏わぬルシャが居た。こうして見るとまだまだ細い。


「やっぱりもうちょっと食べた方がいいね」


 ちゃんと声が出た。

 見ると俺の胸の穴はとても小さくなっていた。


「がんばるのでおいしいご飯、作ってくださいね」


 ルシャは胸を両手で持ち上げながら言った。


 ――いや、そこはもう十分に大きいと思いますよ。


「えっ、でもお好きそうでしたよね? 大きい方が宜しいのでは」


 ぐあ、声になっていた。つうこんのいちげき!


『キミ、今日はやけに機嫌がいいね。おめでとう。いい顔になってきたよ』


「女神さま!」


 ルシャは両膝をついて両手を胸元に当て、地母神様を仰ぎ見た。


『其方、よく決断した。鍵の者は其方の力添えで胸の穴を大きく埋められた』


 ルシャは女神さまの言葉で俺の胸の穴に気が付くと、意を決したように――


「ユーキ様のためにこれからも尽力いたします!」


『いや、其方の埋めるべきは十分に埋められた。ここからは別の者の問題だよ』


 別の者? 別の者ってどういうことだ? 俺の思考はスルーされ、地母神様はルシャへ聖女の祝福についての言の葉ことのはを与えていた。ルシャは恍惚とした表情ですべての言の葉を受け入れていた。


「女神さま、宜しければもう少しお話させていただいてもよろしいでしょうか。こんな機会、二度と無いと思いますので」


『よろしい。敬虔な其方に免じて時間を与えよう』


『――あ、キミもう帰っていいよ』


 えぇ……。



 ◇◇◇◇◇



 目覚めると、アリアが毛布を掛けてくれていた。そして俺たちを見守ってくれていたようだった。


 ただいま――とアリアにキスをする。

 ――が、どうしてか、なかなか放してくれなかった。

 アリアはルシャの目覚めが遅いのを心配してか、瞳は彼女を捉えているのだけれど……。


 長い長いキスの中、ルシャが目覚めた。


「もう! ずるいです!」


「羨ましかったから、おかえし」


 ……嫉妬していただけだった。かわいい。うっかり抱きしめてしまった。


「アリアさんと内緒話があるのでユーキ様は先に寝てくださいね」


「えぇ……」


 俺はまた追い出された……。







--

 だんだん祝福が隠語みたくなっていくんですよね。


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