第19話 ひだまり
俺はアリアとともにギルドで手続きを終え、彼女の正式なパーティメンバーになった。ギルドカードにもその旨が表示される。
「『陽光の泉』……」
「ちょ、声に出さないでよ!」
「え、いいじゃない。アリアに似合ってて」
「……そ、そう? なんかひだまりっぽいのがいいかなって」
「『
パーティ名を付けたはいいが、後になって恥ずかしくなったんだろうか。アリアらしくていいとは思ったけれど、本人としてはそうでもないらしい。
ギルドカードは冒険者本人と何らかの方法で繋がってる、霊的に――とか、以前の世界ならオカルトだと一笑に付したかもしれないが、この世界では間違いなく何かが繋がっていて記録が刻まれている。以前、ギルドカードを発行してもらったときは自身の鑑定結果にギルド所属と刻まれた。更にお金を預け始めてからは預入額まで調べることができたし、入金の履歴まで残っていた。つまり通帳だ。
今回はどうだろう。鑑定結果にはパーティ名として
◇◇◇◇◇
さて、正式にメンバーになったからと言って何が変わるわけでもなかったりする。ただ、パーティであることはギルドで知ることができ、共有財産を持てたり、法的にも小さな家族のように振舞えるらしい。つまり、アリアの
そんな俺が
俺は別に用がないのでスルーを決め込んでると、来なくてもいいのに奴の方から肩を怒らせ近づいてきた。
「アリア! お前、オレという婚約者が居ながらこれはどういうことだ」
俺たちの前に立ったノエルグは声を張り上げる。
――まだ言ってるよ……。この間、言い負かされてたの覚えてないのかこいつ。
「ち、ちがっ……この男が勝手に言ってるだけだから!」
そんな言葉に動揺するアリア。
――うんうん、知ってるよ。だからそんな浮気現場見られた恋人みたいな動揺を見せないで。勘違いしちゃうから。
裏が分かってる俺は、余裕の笑みをアリアに向けて彼女の肩に手をやる。
「らしくないよ。落ち着いて」
そう言うとアリアは目を丸くした。アリアはかわいいな――なんて思ってると――
「おいっ!」
突然肩を掌で突いてきたノエルグ。
――あ、こいつも居たんだった。
俺はすっかり気を抜いていたのでたたらを踏むが、れいによって他の冒険者や受付嬢は知らん顔。アリアだけは心配そうなので、ノエルグの脅しを跳ね付けるようにアリアの横に並ぶ。
鼻と鼻が触れそうな間近から睨みを利かせてくるノエルグ。ただね、別にいつ死のうが平気だってわかってると、こういうのってコケ脅しにしか見えないよね。ベッドで俺を押し倒したときのアリアの方がずっと迫力あったよ。
「アリアはさ――」
そう言いかけると、期待されてた言葉と違ったのかノエルグが眉を顰める。
「――顔よりも腕っぷしの強い男が好みらしいよ」
「「は?」」
アリアも、そしてノエルグも声をあげた。
――やだなあ、ハモらないでよ妬いちゃうでしょ。
俺はノエルグから一歩下がり、そいつの頭の上のスクリーンをチラ見しながら続ける。
「そんなに
「ダメよ!」
アリアは顔をしかめて俺を見る。心配を通り越して怒っているのが分かる。
「大丈夫。アリアを賭けの対象になんてしないから。それとこれとは別」
俺もこっちにきて多少は筋肉がついた。だけどこれまでずっと勉強しかしてこなかった帰宅部の高校生なんて、少々筋肉がついたところで大量の料理や酒のマグを運ぶその辺の酒場の給仕の女の子にさえ負けるだろう。
対してノエルグは背も高く、体格もいい。鎧を常に身に着けているだけあって身体も凄いだろう。首筋の筋肉を見るだけでわかる。
「――で、キミもいいよね、
アリアは俺がチラ見していた視線の先に気づいてか、一瞬、こちらを確認する。
そして――
「わかった、いい」
「よおし、その勝負受けてやろう。手間が省ける」
「ただし!」
俺はノエルグを指差して言う。
「――勝ったとしてもアリアは普通に口説けよ。婚約者とか嘘をつくのはナシ。負けたら街を出る。条件は同じ。男の約束だ」
周りの冒険者連中は騒ぎ立てこそしないものの、突然の展開に興味を持ち始めた。まあ、これまでアリアを孤立させてきた彼らにも関係のある話だしな。俺たちは窓際の小さいテーブルを引っ張り出し、その上で相対した。
召喚者――彼らはこの世界の人たちに、わざわざ神の力を使ってまで他の世界から招かれる。なぜならそれだけ強力な力を持っていて能力も高いからだ。元の世界では平和な国のただの一般人。いいとこスポーツをしているくらいで軍事訓練や格闘技を習得している確率は低いだろう。それでも召喚され重用されるくらいには規格外に強い。
俺の場合、魔女のタレントはさておき、大賢者様には低い能力だと召喚の際に伝えられていた。ただし、それは大賢者様が俺の賢者のタレントを知らなかった時点での話。大賢者様は、より高い鑑定の力を持つ俺を正しく鑑定することはできない。つまり――
「ぬぉぉぉぉぉおお!!!」
目の前の男は伏せられつつある自分の腕を目を血走らせて睨み、顔を真っ赤にして叫んでいた。まあ、結果はわかってたんだけどね。戦闘でのアリアを見ていると、祝福の力で能力が跳ね上がることもあるとは言え、単純な力勝負でなら
「街から出ていけ!」
決着がつき、アリアはノエルグに告げた。ノエルグは歯を食いしばって俺を睨みつけてきたものの、周りの冒険者の視線もあったためかそのままギルドを去っていった。
「ハァー! 見たかあの顔!」
「せいせいするぜ!」
「偉そうにしやがって、貴族野郎が」
「やったなアンタ!」
「いい女にはいい男が付くもんだな!」
堰を切ったように大騒ぎを始める冒険者連中。彼らに囲まれ
俺は――あっ、どもっす。いえ、アリアさんとはその、違うっす、フツメンっす――しどろもどろになってしまう。
――なんだ、思ったよりいいやつらじゃないか。
もみくちゃにされるなか、アリアの笑顔が目に入った瞬間、そう思った。
◇◇◇◇◇
ギルドでの騒動のあと、ノエルグの姿は見かけなくなった。本当に街を出て行ってくれてれば話は早いのだが、あの後、彼の
念のためアリアにも伝えておくと、彼のバックにいる貴族の屋敷に向かったのだろうという。ノエルグについては同家の養子か何かだろうと思っていたそうだ。それよりもアリアには、俺が既にノエルグたちに接触していたことを問い詰められた。そりゃあもう怒ってたし、泣き笑いもしてた。
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陽光の泉は、プール・オヴ・レイディアンスをイメージソースにして名付けています。ゴールデンラグーンではなくw
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