第17話 大賢者様からの手紙
目が覚めると外は日が傾きかけていた……。
まあ、別に用は無かったので構いはしないのだけど。
その後、今日はまだ一度も顔を出してないからと、俺はギルドへと向かった。
ギルドへ着くと、ちょうど受付の女の子が爺さんと交代するところで、大勢の冒険者たちが押しかけていた。愛想の悪い爺さんより、美人のお姉さんの方が同じ依頼報告でも楽しいってことだ。彼女たちがよく、自慢話を聞かされているのを目にする。
ただ、帰る様子の受付嬢――金髪で長身の、名前は聞いてないけどヴィリアさんが俺を見て呼び止める。
「あっ、ユーキさん? あのお手紙のお返事、届いておりますよ」
――大賢者様、遅いよ! お忙しいのだろうけれど遅いよ!
ヴィリアさんがわざわざカウンターの奥まで引き返して、その手紙をお盆に載せてカウンターの上に差し出してくれた。手紙は結構な厚みで手紙というより包みだった。俺は受け取りの羊皮紙にサインをする。
「ども……ありがとうございます」
「待っていらっしゃったようでしたから」
毎日、手紙が届いてないか聞いてたもんな。笑顔でそう言われるとちょっと申し訳ない。
――これ、ここで開けるのは無理だな。
今は冒険者で混み合っているし、内容もたぶん内容なのでこんな場所でこんな包みを開けるわけにもいかない。そう思って宿へ戻ろうとしたところ――
「あーキミ、ジューキとか言ったっけ。ちょっとキミに用があるんだが」
冒険者の一団に立ち塞がれ、呼び止められた。
ざわりと他の冒険者たちもこちらに注目する。
「人違いっすね」
「おいおいおい、お前で間違いないんだよ!」
避けようとすると急に凄んでくる男。
背は俺よりも少し高く、派手な飾りのついた鎧下を着て胸当てや手甲を身に着けている。そして顔! めっちゃイケメン! なんか腹立つのでさらに無視しようとすると俺の胸に手をやって制止してきた。
周囲に助けを求めると冒険者連中は顔を
「随分と仲がいいそうだな。だがアリアはオレの婚約者だ。貴族の女に手を出した落とし前はつけてもらわんとな」
「ええ、嘘っぽい。だってあんた平民でしょ? 彼女と対等に婚約なんてできるようには思えないんだけど」
「――そっちのあんたならまだわかりますけどね。でも、道理にかなってるようには思えないなあ」
後ろに居る
「どこの回し者かなあ。ちょっと聞いてないんだけど」
俺に言ってる感じではない。奴らの仲間の二人が頭を深々と下げている。
ハァ――と再びため息を吐いた貴族の男。
「――ノエルグ、まったくお前がさっさとアリアを落としてくれてたらこんなことにはならなかったのに。女の扱いなら右に出るものは無いというから拾ってやってるのにさ」
俺より少し背の低い淡い金髪の男は、ノエルグという男が平民だとバラされたからか、聞いてもいないのにわざわざそんなことを
「――まあいいや。いろいろ詳しいみたいだし、こいつ連れて行こう」
やばい。お貴族様に連れていかれたら明日は堀に浮くこととなる。だが、タイミングがいいこと俺には
「わあぁ! たいへんだー、郵便泥棒だ! しかも大賢者様の封蝋入りだぞ!」
俺はれいの包みを掲げて仰々しく騒ぎ立てた。国の機関を通した手紙の強奪は縛り首だと聞いている。さすがに周りの冒険者たちやギルドの連中もこれには注目する。
ノエルグと呼ばれた男は所詮、平民だった。俺の服から手を放してたじろぐ。まあ厳密には縛り首とはならないかもしれない。既にギルドの手を離れているわけだし。だが、封を解いていないことと、まだギルド内であることは大きいだろう。
ヴィリアさんのところまで逃げてくると、短く悲鳴を上げ、持ってこないでオーラを放っているが、とにかくここは偉い人を呼んでもらう。
ノエルグは貴族の男に伺いを立てるように目を向け、身体を縮こまらせていたが、貴族の男は舌打ちをし、仲間を連れて引き上げていった。ギルドの偉い人には事細かに説明しておいた。連中が大賢者様の手紙を狙ってギルド内で襲ってきたことを(てへぺろ
あと大賢者様ダシに使ってゴメンね。
◇◇◇◇◇
宿に戻った俺は大賢者様からの手紙を確認する。中には手紙の他に便箋の束と金貨が3枚も入っていた。手紙でお金を送れることに驚く。そしてどうやら――門で兵士にさっそく騙された――と愚痴ったら、補填で送ってくれたらしい。また、れいの
俺は、街に降りる時はお金に関しては無頓着だった。最低限生きていければ買いたいものは無いと。ただ、実際に生活してみるとなんだかんだでお金が必要になってくる。他人のためにお金が必要になるときもあるし、その他人は必死にお金を稼いでいる。そして俺自身もお金があることで穏やかな生活を送れることを実感し始めたため、大賢者様からの贈り物はありがたかった。
俺からの質問への返事もあった。
まずはデル・アイリア。つまりアリアの家名についてはシーアさんが報告書を送ってくれた。なお、デルは本来美しいという意味だが、貴族の家名の頭によくついているものらしい。なので美しきアイリアと呼ばれることもあるが、それはもう古い言い方で、今は単にアイリア家となるとのこと。
アイリアは西に大領地を構えるミリニール公の先代の家名だそうだ。現在は家が絶えてしまったため直轄地となっているようだが、その辺の経緯なんかの詳細は書いてくれていない。
アリアについては先代ミリニール公の娘なのだそうだが、六年ほど前に廃嫡されていて、行方も分からないとのこと。
家が途絶えてしまったのなら、なおさらアリアが元の地位に戻って――というわけにもいかないようだ。貴族たちの間では、行方を把握する必要があるほど重要ではない立場――という認識になっているらしい。ただ、領地では幼いアリア本人にかなりの人気があったらしく、なんらかの伝手があってもおかしくないはずだが、地元には帰っていないらしい。
アリアの母、アイーダについては権力から離れ、以前から支援をしていた大聖女様の孤児院の院長に収まっているとの話で、こちらの情報と一致する。
その他、他愛もないことがたくさん手紙に書かれていた。あの人たち、城でストレス溜まりまくってるんじゃないだろうか。俺はとにかく、その先代ミリニール公について何があったのかを教えてくれるよう手紙を書くことにした。
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改稿で時間帯を変えてあります。あと、受付嬢が多いので名前を付けました。
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