14品目 さつま芋餅
ポケットの中の使い捨てカイロを握って、
夏があんなに暑かったから、冬も暖かいかと思ったが、今年の冬は思ったよりも寒い。
「どうせ寒いなら雪が降ればいいのにねぇ」
「今夜雪予報だったぞ?」
後ろを歩いていた
「ホント!? 積もるかな!?」
「積もったら明日学校行くの大変じゃん。最後の日なのにさ」
「あ〜確かに」
明日は二学期最後の日。
終業式なのだ。
そして、楽しい楽しい冬休みが始まる。
しかし、その前に
休み前で一時間早く学校が終わったのだから、いつもよりたっぷり遊べる。
寒くたって、遊ぶのだ!
望果は曲がり角で大翔と別れて、自宅へ走る。
どうせなら雪が降った公園で遊びたかったが、夜から降るというなら今は無理だ。
でも、もしも今夜積もったら、明日は終業式なんだから、午後から公園で雪合戦出来ちゃうかも?
あ〜!ワクワクする〜!
想像して、ワクワクの胸のまま、望果はバーンと玄関の扉を開く。
「お母さん、今日のおやつはっ!?」
台所に駆け込むと、母さんがげんなりした顔で呟いた。
「今年中に一回くらい、『ただいま』を先に聞きたかったわぁ〜」
「い、今言います! ただいまっ!」
「遅〜いっ!」
母さんにビシッと指を突きつけられて、望果は、ぷぅと頬を膨らませた。
すると母さんは、笑ってその頬を突付く。
「そんなに膨らませてたら、お餅代わりにさつま芋と一緒に鍋に入れちゃうから」
「え! じゃあ今日のおやつは……」
「さつま芋餅よ」
母さんは、鍋の中で茹でられている輪切りのさつま芋を指した。
望果は、再びワクワクしながら階段を駆け上がり、荷物を部屋に置くと、手洗いうがいをする。
インフルエンザが流行ってるから、しっかりと!
体調を崩して楽しい冬休みにダウンなんて、シャレにならないからね。
居間に戻ると、ちょうど母さんが、鍋から小皿にホカホカの芋餅をすくって落とすところだった。
望果は急いで座布団に座り、手を合わせた。
「いただきます」
小皿には、
きな粉の絨毯の上、つきたてのお餅さながらに、さつま芋餅はゆっくりと柔らかく垂れ広がる。
望果はフォークで一口分切り取ると、きな粉をたっぷりとまぶして口へ運んだ。
「んっふ」
口の中にきな粉とさつま芋の風味が広がり、温かな甘みにホッとして、望果は思わずそんな声を出した。
さつま芋と切り餅を一緒に茹でて混ぜ合わせ、砂糖を加えただけのさつま芋餅は、さつま芋の甘さと風味に、お餅の弾力と柔らかさがプラスされたおやつ。
焼き芋とも、つきたて餅やお団子とも違う。
でも、どちらの美味しさも兼ね備えた和スイーツだ。
なんと言っても、出来立ては温かくて、さつま芋の風味が際立つのがいい。
荒くつぶしたさつま芋の塊が時々出てきて、それを噛むと、更にさつま芋感が増すのが堪らない!
口の中にべったり残らず、意外と喉越しがいいのも望果の好きなところだ。
望果はパクパクと食べ進む。
素朴な味で、いくらでも食べられちゃいそうなのだ。
お腹いっぱいになっちゃいそうだけど、これから公園で遊ぶんだからいいよね!
そう考えて、望果は小皿におかわりを入れてもらった。
「口の周りにきな粉がいっぱい付いてるわよ」
母さんが笑いながら、湯気の立つ湯呑みを渡してくれた。
望果はおしぼりで口を拭いて、湯呑みに息を吹きかける。
香ばしい香りがするこのお茶は、沸かしたての麦茶だ。
夏に冷やして飲むイメージが強い麦茶だが、温かいものも香ばしさが増して美味しい。
この香ばしさは、きな粉にとても合うのだ。
麦と大豆の相性は良いのだから、当然と言えば当然だよね。
そんな風に物知り顔でもう一口含んだところで、台所で母さんが、鍋に残ったさつま芋餅を小さく丸めているのが目に入った。
「あ! もしかしてあんこ包むの!?」
「そうよ〜。でもおかわりしたから、こっちは明日ね」
「えええ〜〜っ!?」
さつま芋餅はさつま芋の割合が大きいから、翌日になってもあまり固くならない。
だから母さんは、たくさん作ってあんこ入り芋餅にしちゃったりするのだ!
しまった、忘れてた〜!
おかわりするんじゃなかった〜!
うぬぬと唸ってはみたものの、おかわりの残りの一口はパクリと口に入れる。
そして、やっぱり美味しいと望果はニンマリして手を合わせた。
「ま、明日の楽しみもあると思ったらいいか! ごちそうさまでした!」
「そうね〜、母さんも明日の通信簿が楽しみよ、望果」
「ゴホッ!」
残りの麦茶を飲んでいた望果はむせた。
ぎゃ〜!
こっちも忘れてた〜!!
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12月のおやつも、なんとか公開出来ました!
皆様、年末年始も美味しいおやつを召し上がって下さいね〜(^^)
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