第11話 可愛くてモテる親友の好きな人

『まず見た目がカッコよくて、いつもはすごいクールな感じなのに実はすごい優しくて友達思いなの。それで、勉強は嫌いだからあんまり出来ないけど、運動が得意で、面倒臭がりだから部活には入ってないんだけど、でも好きなことは地道に続けられるタイプで料理とかはとっても上手くて―――』


 先週の金曜日、下校の時に柚が言っていた。


 柚の好きな人の特徴。


 昨日の夜、久しぶりに柚とたくさん話して、今日朝起きて、朝食を食べながら何となく思い出した。


「んー!目玉焼き美味しいー!!たまに殻入ってるけど美味しー!」


 対面には、主に私が作った朝ごはんを美味しそうに食べる柚がいる。


 二人で早起きして、難しい料理は軽く説明しながら、簡単なものは実践させながら作ろうと思い卵を割らせてみた所、盛大にぶちまけて見事な殻入り目玉焼きが完成した。


 千切りキャベツを口に運ぼうと、ふと、頭に思いついたことがそのまま口から漏れた。


「…………私…?」


「なにが?」


 柚はベーコンチーズを乗せたトーストを食べようと、大きく口を広げながら首を傾げた。


「いや……」


 「なんでもない」と繋げようとして、口が止まる。


「……ぁ…………」


「……ん?」


 どうしてほんの一度も、今まで考えたことがなかったんだろう。


 柚の好きな人が私………だなんて。


 なんでこのタイミングで、今まで思いつきすらしなかった考えが浮かんでしまったのか、すぐに思い当たることがあった。


 私が……柚に恋してるって、気付いたからだ。


 だからこれは、私の深層心理が希う願望で。

 都合のいい捏造で。


 だから……だから……。


 聞きたいこと、伝えたいこと。

 残さず飲み込んで。


 感情の海が渦巻いて、綯い交ぜに、痛く心を掻き混ぜて、搔き乱して―――


 止まる。


「直……大丈夫……?」


 心配そうな顔で頬に手を添えて、優しく撫でてくれたから。


 たったそれだけで心の中が落ち着いて、喜んで、安心してしまう。


 飲み込んでいた言葉が一つ、弾みで零れ出る。


「柚の好きな人って……私……?」


「……ふぇ…?」


 何とも間の抜けた声を上げて、その頬にはじわじわと朱みが差していく。


 え………今、私……なにを―――


 気付くより早く、直は勢いよく柚から飛び離れた。


「ちょっ、今のは違っ……」


 「違う」と言いかけて、口を噤む。


 触れたら壊れてしまいそうな、不安定な柚の表情が目に入ったから。

 その顔を見たら、取り返しのつかない言葉を口に出してしまったのだと本能的に察した。


 多分……いま誤魔化してもきっと、もう元には戻れない。


 だったら……どうせ引き返せないのなら。


「ちがっ……違わないっ……けどっ!そうじゃなくてっ、好き!私が……柚のこと、私が好きっ…なんです!!」


 ちゃんと文章になってるかも分からない、不格好な告白。


 今、このタイミングで良かったのか、分からない。


 でも、言い切るしかなかった。

 変わってしまうのなら、元には戻れないのなら、私は進みたい。


「……や、ヤバっ…い……」


 柚は苦しそうに胸を押さえたままよろよろとふらつき、直は反射的にその身体を抱き寄せて支えた。


「直……」


「……う、うん」


「ギュッと……して」


 言われた通り、自分の胸元に顔を埋めさせた柚の身体を包み込む腕に、軽く力を入れる。


「もっと、思い切りだきしめてっ!」


「は、はいっ!」


 要望通りもう少し力を込めてだきしめるが、これ以上は柚が痛いんじゃないかと、少しだけ加減する。


「潰れちゃうくらい、もっとっ!!」


「はいぃぃぃっ!!」


 もう絶対にだきしめられてる方も、何ならだきしめてる方も痛いくらいの力を込めて、華奢な体を抱擁する。


 段々だきしめ疲れて力が緩んできた頃、ようやく柚は鼻水を啜りながら、声を発した。


「私もっ……」


 上げられた顔は、目元に涙を滲ませて、顔は真っ赤だし、鼻水も出ていてぐちゃぐちゃで……それでも、この世の何よりも可愛くて、私が大好きな笑顔を浮かべていた。


「私も…直がっ……直のことが好きです。一番の親友で、幼馴染みで、私の……私だけの……恋人になってくださいっ」


 ほんの一呼吸を空けて、直は深く、深く頷きを返した。


「お願い……しますっ」


 再び、熱い抱擁が交わされる。


 お互いの体温は思いを溶かし、混ざり合い。

 今日と言う日常に彩を与えていく。


 その彩は、少しでも伝えようとする意志と、進もうとする勇気、何より「好き」と言う感情が引き寄せたものだと、私たちは思う。

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